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その天女、重度の男性恐怖症につき  作者: 青蓮華
第一章 事実は小説よりも奇なり
10/11

人は誰かにここにいていいよと言われなければ生きていけない

「僕は………、魔盲まもうなんです」


翌日の朝、少年は目を覚ますなり掠れた声でそう言った。


「はっ?」


大事な事を話してくれているのは分かるが、まもうとは何だろう。

思わず聞き返すと、何を勘違いしたのか、少年の顔に自嘲の笑みが浮かぶ。


「やっぱり……、汚らわしいですよね、混血貴族なんて。

不愉快な思いをさせてしまって、申し訳ありません。

怪我が治ったら出て行きますので、どうか」


「ちょっと待った。

不愉快な思いはしてないから、出て行かなくて大丈夫。

そもそもまもうと混血貴族がどう繋がるの?

私は平民だから、貴族の事情は分からなくて………」


この世界の人間でもないが、そこははぶく。

話が進まない。


「平民?

こんな家に住んでいるのに?」


「この家は頂き物なの。

住み始めたばかりで、どこに何があるかも分かんない」


「そうですか。

平民では、魔盲に縁遠いでしょう」


縁遠いどころか、見た事も訊いた事もない。

彼の口振りからして、蔑称だろうけど。


「我が国は魔術を国防の要としています。

魔術師の地位は高く、魔導師ともなれば最高の名誉を得られます。

魔力がない貴族は魔盲、もしくは混血貴族と呼ばれます。

平民の血が濃い貴族だと、平民混じりの貴族だと、区別する為に」


「それは区別じゃない、差別よ」


思わず話を遮ってしまった。

他人(ひと)の話は最後まで聞くべきだが、これは見過ごせない。

差別を区別だと納得する、ただ諦めているのではなく、生きようとしていない。

死にたくはないが、生きたくもない、そう見える。


「君が何を見たのか、何があったのか、私は知らない。

言いたくなければ言わなくていい。

でも、生きる事を止めないで。

要らない命なんてない。

人が必要としなくても、世界が必要としてる。

君だけじゃなく、この世の有りと有らゆる命は世界に必要とされたから生まれてきたの」


一度だけ、駄女神の目を通してアカシックレコードを見た事がある。

天の川より大きく、海より深く、母の腕の中より懐かしい、不思議な力が渦巻く場所。

なぜか、ここにいていいと、あなたが必要だと、あなたに生まれてきて欲しかったと、そう言われた気がした。

何とも言えない感情を持て余し、私は大泣きしてしまった。

あんな泣き方をしたのは幼い頃だけだ。

誰かに必要とされる事が、ここにいていいと言われた事が、それ程に嬉しかった。

嬉しかったからこそ、分かる。

人は世界に必要とされて魂を得るが、誰かに必要とされなければ心を得られない。

誰かにここにいていいよと言われなければ生きていけないのだ。


「優しい人ですね、あなたは」


少年は何もかもを諦めたように微笑んだ。

彼の心は死んでいる。

誰かに殺されたのか、自分で殺したのか、何れにせよ、今は何を言っても無駄だろう。


「優しくないよ。

身勝手だから、いつもフラフラして、いつも自分が傷付かない方法を探してる。

でも、それが私だし、そういう自分を好きでいたいから、変えたくない物は変えない」


「自分を……好きでいる?」


少年に怪訝そうに聞き返され、私は彼をギュッと抱き締める。


「そう。

君も、いつか自分を好きになってね。

それまで私が君を好きでいるから、ここにいていいんだよ」


「っ…………、うぅぅ、うっく、うぅぅぅぅぅ」


(せき)を切ったように泣き出す少年。


私は彼が眠るまで頭を撫でていた。

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