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第4話 日本海海戦

 

 ――― 1905年 日本海 戦艦クニャージ・スヴォーロフ


 長い航海を経て日本の領海にたどり着いた、戦艦8隻を含む総数38隻の大船団。

 バルチック艦隊は、日本海を進み沖ノ島の近海へと迫っている。

 早朝から昼に渡って何度か日本の哨戒船しょうかいせんを視界に捉えたが、ジノヴィーはそれに攻撃を加えることなく目的地への進路を維持していた。

 兵士たちは砲弾を詰め終わり、戦闘準備を整えてその時を待っている。

「前方に連合艦隊を発見! 距離は13,000m」

 静寂の中で艦内に響く航海士の声。

 ジノヴィーは悠然ゆうぜんと椅子から立ち上がり、艦橋前部に歩を進めた。

「やはりここか!」

 連合艦隊が対馬海峡で待ち伏せしていると確信していたジノヴィーは、索敵もそこそこに開戦の準備に取り掛かっていたと記録されている。

 しばらくすると、地平線の彼方に東郷が乗船する旗艦三笠が姿を現した。

 遠く霞んで見えるその姿が徐々に鮮明になり始めると、そのすぐ後ろには列をなす複数の艦艇が続々と地平線を埋め尽くし始めた。

「20隻以上はいるでしょうか。しかし今見えているのは艦隊の一部。後方に配備されている艦を含めれば、恐らく60隻以上は動員されていると予測します」

 厳しい表情を浮かべるジノヴィーにキーラが付け加える。

「しかし、そのほとんどは中小の艦。主砲の一撃で沈むような船も多い事でしょう。対する我が艦隊は計38隻と数の上では劣っていますが、主力となる戦艦の数では連合艦隊を上回っています。戦力は互角とみていいでしょう」

 しだいに距離を詰めるバルチック艦隊と連合艦隊。

 両艦隊の司令長官が、相手の艦影に目を凝らしながら指示のタイミングを計る。

 やがて艦隊の距離が8,000mまで近づくと、ジノヴィーは砲撃開始の合図をするために右手を上げた。

 その時。

「お待ちください。連合艦隊が向きを変えました。このまま発砲すれば弾が反れます」

 手を上げたままジノヴィーが舌打ちする。

「東郷のヤツめ、どこへ進路をとるというのだ!」

 旗艦三笠に照準を合わせていたロシア軍は左に舵を切った三笠の進路を確認すると、砲撃が着弾するまでの滞空時間を計算して着弾地点に照準を調整した。

 ゆっくりと動く砲身。

「いけません。砲撃は三笠ではなく敵艦隊が方位転換を行っている地点に行うべきです。旋回で速度を落としている敵は、絶好の的。数さえ減らすことができれば我が方の何隻かはウラジオストックに逃げられるはず。そうなれば通商破壊作戦つうしょうはかいさくせんで大陸を北上している日本陸軍を撤退させることができます。ここは大局を見て動くべきです!」

 ジノヴィーは振り返ってキーラを一瞥いちべつしたが、そのまま右腕を振り下ろした。

「砲撃開始! 狙うは敵旗艦! 連合艦隊と雌雄を決するべし!」

 轟音と共に放たれる砲弾。

 砲身の先端には、まるで爆発したかのような火柱と、部屋1つほどもある球体の黒煙が渦を巻く。

 その規模は、煙が晴れて視界が回復するまでに数十秒を要するほどである。

 その後も次々に主砲を放つバルチック艦隊。


 ――― 同時刻 連合艦隊 旗艦三笠


 金属音と共に衝撃が船に響き渡る。

「右舷に被弾!」

「ここは危険です。中にお入りください」

 東郷を心配した参謀が退避を促す。

 その間も、敵艦隊からは巨大な鉄の弾が絶え間なく飛来してくる。

 東郷は壁に守られた艦橋からデッキに出て、風を受けながらバルチック艦隊の様子を眺めていた。

「ここの方がよう見える」

 その場を動く気配のない東郷の言葉を、参謀長の加藤が補足する。

「この距離で敵艦が使う砲弾は12インチ徹甲弾。当たり所が悪くない限り、火災も発生せんし船も沈まん。どこに居ようと死ぬ確率は変わらんよ。それに、風の重さというものは、数字で聞くだけでなく肌で感じて知るものだ」

 言い終わると、加藤は東郷の側背に歩み寄った。

「ところで、今回の作戦うまくいきそうですな。敵は装甲の厚い我が艦に砲火を集中させている。最新鋭の艦であれば簡単には沈まんでしょう。もし仮に沈んだとしても、その時はもう他の艦が敵の進路をふさいで有利な体制を築いている。もっとも、転回を終えた我が艦には、砲撃を当てることこそ困難でしょうが」

「敵艦隊、我が艦の動きに合わせて右に転進! 速度はおよそ10ノット」

 航海士の報告に加藤が私見を述べる。

「バルチック艦隊も、いくら長い旅路で補給も整備もろくにできずに来たとは言え、予想よりも動きが鈍いですな。これでは敵の頭を抑えることも容易でしょう。それにしても、陸軍が旅順艦隊を撃滅しておいてくれて本当によかった。」



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