5.風任せ大娼館のお嬢が通る
5.風任せ大娼館のお嬢が通る
「あのお嬢様、今度は服のブランドを立ち上げたらしいぜ」
「例の和服ってやつか。
次のシーズンで流行るかもなあ」
「大娼館のカエデさん、目抜き通りで取り巻き連中つれて練り歩いてるとこ見たが。
可愛らしかったなぁ……」
「あの九尾の尻尾、もふもふそうで良いよなぁ……」
「大火のときに助けてくれたお嬢、色街のボスらしいぜ。
今度お礼も兼ねて娼館に金落としに行こうや」
「がはは、お前が行きたいだけだろうが!」
あの大火災から一月、帝都は未曾有の建設ラッシュに沸いていた。
防災の観点から取り入れられた100m道路構想と、魔導学院が提案した都市鉄道構想。
そして新しく取り入れられた高層建築の技法により、帝都は全く新しく生まれ変わりつつある。
また大娼館の立つ歓楽街には、帝都のランドマークとして天を衝くほどの摩天楼が建設されつつあった。
この日は先んじて敷設された鉄道、環状線の開通日である。
開通式は昼の鐘が鳴る頃であるというのに、歓楽街にある大娼館前駅の辺りには朝から男たちが大挙して押しかけていた。
カンカンと鐘が鳴り、大娼館が雇う屈強な男衆が行列の前に道を拓く。
華麗なパレードとともに、七つの娼館を代表する花魁たちを乗せた七台のフロート車が現れた。
お嬢様アリスは花魁になったカエデと一緒のフロート車に乗っている。
フロート車は、それぞれの娼館子飼いの魔術師が使う光彩魔術によってキラキラと光り輝く。
各娼館の威信を賭けた豪華絢爛な大山車である。
フロート車は鉄道駅の前へと到着し、花魁たちは浮遊魔術によってふわふわと舞い降りた。
レッドカーペットを歩いて、彼女たちはテープの前にたどり着く。
緊張しているのか二の足を踏むカエデの肩を、お嬢様はポンと叩いた。
「いってらっしゃいな。
あなたは私の自慢の子よ」
九尾の花魁カエデはこくりと頷いて、前を真っ直ぐ向いて歩いた。
そして一足遅れてテープの前にたどり着く。
報道機関所属の魔術師が新聞の挿絵のために筆写魔術を走らせるなか、テープカットが行われた。
くす玉が割れて、紙吹雪が舞い散る。
セレモニーが終わるとカエデはお嬢様アリスの方へと駆け寄って、そのまま抱き着いた。
「わっち、奴隷商にいた頃はこんな風になるなんて考えてもいませんでした!」
「ふふっ、今のような風が吹くこと、私は最初から読んでいたわよ」
お嬢様はカエデの頭を優しく撫でた。