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4.冴え渡れ帝都の空



「面をあげよ」


 帝都の中心に聳える帝城の奥。

 大理石の上に赤い絨毯の敷かれた謁見の間にて。


「シルフィードの娘よ。

 吾が許す、面をあげよ」


 大娼館を経営するシルフィード家、その統領娘たるお嬢様アリスが顔をあげる。

 すると玉座には草臥れた顔つきをした初老の男性が座っている。

 彼こそがこの広大なエレメンティアの帝国を治める帝王、その人である。


「ぬしの家がパンと麦の買い占めを行ったとの報告が上がっている。

 一部の臣下からは、私腹を肥しているのではないかという声もある。

 どういうことか、おぬしの思うところを述べよ」


 帝王はお嬢様アリスの所業について問い掛ける。


「では恐れながら、帝王陛下。

 ウチは陛下もご存知の通り、シルフィード家の娘ですわ。

 買い占めいうたところで、その翌日には炊き出しで放出しましたやろ?

 今回の件では一銭たりとも儲けてませんのや」


 お嬢様アリスはやれやれと肩をすくめて言う。

 その青碧の瞳が真っ直ぐに帝王を見つめた。


 この言葉に嘘はない。

 帝王は少し考えて、頷いた。


「そうか、シルフィードの女は先行きを読む力に長けるのであったな。

 あくまで民草を救うためというのなら、それでよい」


 次に帝王はもう一つの問いを投げかける。


「あの大火の原因については、どうだ?

 火が大きくなる前に消し止めることは出来なかったのか」


「風読みは全知とはちゃいますからなあ。

 人為的なものなら一度止めてもまた起きるでしょうし。

 どうせなら基礎から組み直して、一新した方がええかと思いまして」


 しばしの沈黙。

 帝王はニヤリと嗤った。


「……ところで、この帝国の風は、未来はどうだ?」


「さて、どうやろなあ。

 ウチはただ風任せに流れるだけですわ」


 実のところ、今回の火災で生業が成り立たなくなるほどの被害を被った者はほとんど居なかった。

 元より庶民には仕事の腕前に任せてその日暮らしを送る者が多く、大金を扱う商人には身につける資産としてのジュエリーが普及していた。


 復興によって生まれる雇用、平らになった土地を活用して、帝都はこれから大きく変革する。

 帝国の未来はこれからだ。


「ふ、ふふふ、ふはははは!」

「は、あはは、あはははは!」


 国を統べる帝王と、色街を取り仕切るお嬢様。

 表と裏の頂点に立つ二人は、二人して盛大に笑った。

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