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1.金に飽かせて奴隷を買う

 帝国から直々にお墨付きを与えられた、国内屈指の奴隷商。

 寒村から買い付けられた奴隷たちが、客の要望によって横一列に並べられる。


 犬に猫、狼、熊、牛、珍しいところでは九尾の狐など。

 並べられたのはすべて獣の特徴を持つ、毛皮で覆われた獣人たちだ。


 彼女たちは、淀んだ目をしていた。


「いま並んでる奴隷、端から端まで買うわ!」


 エレメンティア帝国帝都のお膝元、大娼館シルフィードの経営者であるところのお嬢様アリス・シルフィードはそう言った。


 お嬢様アリスには政治がわからぬ。

 しかし世間の流行には人一倍敏感であった。


 シルフィードの家から大娼館の経営を任せられた総領娘のアリスは、獣人娘の毛並みに新しい風の吹く兆しを見た。


 お嬢様アリスは奴隷商の商人と契約魔術を交わしながら、隣に居たミアに馬車を呼ぶよう申し付ける。

 側つきメイドのミアが呼応する鈴の魔道具でどこかへ連絡を入れると、すぐに馬車がやってきた。


 大きな金貨の袋と引き換えにお嬢様アリスが手に入れた奴隷たちは、みな獣人であった。

 御者台の後ろに設けられた座席にアリスと側つきのミアが座り、契約により受け渡された獣人娘たちは荷台にすし詰め状態で乗り込む。


 ガタガタと揺れる馬車で帝都の一角、歓楽街にある大娼館まで運ばれた獣人娘たちは、まずお風呂に入れられた。


 お嬢様アリスが経営する大娼館には、アリスが定めた方針によって従業員用の大浴場が備え付けられていた。

 清潔を保つにはそれ相応の設備が必要であるとの判断によるものである。


 お嬢様アリスは湯浴み着を着て、直々に獣人娘たちを洗った。


 慣れぬ温浴の感覚に身じろぎする獣人娘たちの毛並みに丁寧に櫛を通し、泡立てた石鹸で皮脂の汚れを洗い落とす。


 洗われて綺麗になったもふもふの娘たちには、お嬢様アリスの仕入れていた着物が着せられた。


 大々的にキャンペーンが打たれた。

 表には看板が似姿の描かれた絵看板が立ち、雨の日にはシルフィードの紋を入れた貸し傘が出回った。


 東洋の着物、和服なる装束を身に纏ったもふもふの娘たちが娼館で客を待つ。

 大娼館の謳い文句は瞬く間に帝都を席巻した。


 訪れた客たちはみな獣人娘を愛でた。

 もともと大娼館にいたお姉様方も、獣人娘を愛でた。


 帝都には獣人娘を愛でる一大ブームが訪れた。

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