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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄もの短編集

あなたを愛することはない?定番ですが構いませんよ

作者: 里見 知美

久々の投稿です。8000文字程度のショートショート。よろしくお願いします。

「婚姻は結ぶが、あなたを愛することはない。次期公爵夫人としての立場は確立させるが、それ以外のことで私を煩わせないでほしい」


 婚姻式を終えたところで、たった今私の夫となった次期公爵が努めて真面目な顔をしてそう告げた。


  数回瞬きをして、この人は今更何を言っているのかと笑ってしまった。この結婚は王命であり、互いの家と国家の利害の一致により結ばれた政略結婚である。大体片手で足りるほどしか顔を合わせていないのに、その夫婦の間に愛など生まれることも芽生えることもあるはずがない。努力次第では、今後尊重しあえるような協力体制は取れたかもしれないが、それも今、公爵領を流れる異臭を放つヒッコリー川に捨てたようだ。


「承知しましたわ」


「何だと?」


「なんでしょう?」


「――何故そんなにあっさりと了承する?」


「あら。それはそうですわね。定番、というのかしら?こういった政略結婚にはありがちでしょう?」


「そ、それはそうだが…。それでも、君は近い将来公爵夫人となる。その、勝手な言い分かもしれないが、公爵家としての立場は貶めないよう謹んでもらいたい。最初の1年はおとなしくしていて欲しいが、それ以降なら離縁も考えてもよい」


「あらあら。面白いことをおっしゃるのね。この婚姻は王命で結ばれた物。そうそう離縁など出来るわけもございませんでしょう。私も侯爵家の長女として恥ずかしくないよう教育をされてきましたし、貴族のなんたるかくらいは理解しているつもりです。もちろん公爵家の嫁として過不足のない様、それなりに振る舞わせていただきますわ。私の役割に口を挟まないでいただきたいことと、ドレスや装飾品についてケチケチしたことをおっしゃらないでくだされば、そちらの政策に首を突っ込むような真似も致しませんし?」


「――王命と(かこつ)けて公爵家の金を貪るつもりか」


 ムッとした表情で、怒りを全面に表す子供じみた表現力しか持たない新たな夫に、私はこれ見よがしにため息をついた。ハタチを過ぎてこの態度、公爵家の嫡男としてどうなのかしらと思う。私の態度を見てますます目を吊り上げているところを見ると、思わず吹き出してしまいそうだ。本当に四つも年上とは思えない。


 これはちょっと立場を分からせてあげないと、今後面倒くさくなりそうだわ。


「公爵家の金、ですか。お言葉ですが、どなたのせいでこの婚姻が結ばれたとお思いですの?この結婚は現公爵様が願い出て王家と3大公爵家が話し合いの末、我が侯爵家に勅命を出されたと理解しております。公爵家の失態から王国の損害賠償と利権の買い戻しまで、首が回らない状態のところを我が侯爵家が借金返済を一括し、かつ必要な人材も用意したのですよ?公爵家の資金など、私が手を出す程に存在していないではありませんか」


「そ、それはっ…!」


「そもそも、あなたが公爵家の嫡男として公爵様がお留守の間しっかり領地を守り、お立場を理解していればこのようなことにはならなかったはず。どこぞの()()()()()()()にうつつを抜かし、有り金をごっそり奪われ、借用書にまでサインをし、挙句の果てに銀鉱山までも奪われたあなたが、私にそのようなことを言う立場にあるとお思いで?」


「ぐっ。何故それをッ!?」


「何故も何も。だからこそ私が選ばれたんですのよ?」


「生意気なことを言うな!!君はそもそも侯爵家の養女だろう!この結婚のために侯爵がわざわざ市井から拾い上げ、短期間で令嬢に仕立て上げたと聞いた!男爵家令嬢をもどきとバカにできるような立場ではなかったはずだ!」


 そう。私は元々モントレー商会の三女で、いわば平民だった。――ほんの半年前までは。


 1年半ほど前、この国の3大公爵家の一つであるアリスター公爵家の領地が、危うく敵国に不当に買収さ(のっとら)れるところだったのを、国の諜報機関が気づき戦争の一歩手前でなんとか留めることができた。


 国中が震撼した大事件ではあったが、蓋を開けてみれば、私の目の前で怒りに眉を吊り上げて小鼻を膨らませている、この公爵家の唯一の息子であるステファンがそれと気が付かずに事件の一端を担っていたのだから始末に負えない。


 大事件の半年ほど前に現公爵が外遊先で行方不明になった。


 公爵は10年ほど前に奥方と離縁しており、女好きだのギャンブル好きだのとあまりいい噂はなかったし、ちょこちょこと海外に出向いて遊びまわっていたことから、事件に巻き込まれたと気づくのが遅れた。いくら旅行好きとはいえ、半年も自国に戻らず何の連絡もないという頃になって、年老いた執事長が騒ぎ出したのだ。


 それから捜索隊が出され、王家の影が動きようやく、なんと18ヶ月もの間、公爵は我が国と敵対するバルムッサ国で監禁され、様々な情報を拷問によって引き出されていたらしい。ようやく救出された時には、公爵の豊かだった髪は抜け落ち骨と皮の状態で、全ての歯と手足の爪を無くしており、栄養失調と拷問によって失明しかけていたのだそうだ。現在、公爵は未だ入院しているが、看護婦相手に鼻の下を伸ばし悪戯しているとのことで、全く命に別状はないらしいが。


 ともかく、その間に送り込まれた敵国の男が新興貴族のヴァン男爵家の執事になり、次期公爵であるステファンに近づいた。男爵家の娘ミルモと偽証してバルムッサ国の諜報員を差し向け、ハニートラップにまんまとかかったステファンから公爵家所有のミスリル銀鉱山の権利書を奪い、その鉱山に穴を開け密輸のための坑道を作り上げていた。気づいた時にはミスリル銀は無造作にだがガッツリと削り取られ当国のミスリル銀の価格が暴落した。


 その煽りを受けたのが、私マッカの生家であるモントレー商会である。


 モントレー商会は、商品の質が良く多岐に渡り、商人の知識も高く優れていると他国でも名を挙げている大商会だ。クロウバット侯爵家の傘下に入り、モントレー商会の三姉妹はそれぞれの分野で功績を挙げていた。


 我が家のモットーとして「働かざる者食うべからず」、「商人の家に生まれたからには商魂を持て」と育てられた三姉妹は、文字の読み書きや暗算、収支計算は当然のこと、近隣五ヶ国語は流暢であるべき、王侯貴族相手に商売もするのだから各国のマナーや文化、歴史、タブーは特に厳しく教え込まれたのだ。それこそ脳に貴賎はないとばかりに王妃教育さながらのスパルタ具合である。そうして基礎を磨き上げ、それぞれの得意分野も掘り下げた。


 長女のモウリは医学界でその能力を発揮し、薬師の資格を持ち薬物の扱いに長け、次女のカリーナは貴族界に進出し、貴婦人のドレスや装飾品に使う素材や原料を扱い、三女である私マッカは鑑定眼と言う特殊な視力を持つため鉱石を主流とする分野をそれぞれ請け負っていた。


 が、1年ほど前から宝石や鉱物の流通が乱れ、自国の銀が買い叩かれた。我が国の銀は希少なミスリル銀が含まれ、純度も高い。その分流通には気をつけていなければならないのが、時価の3分の1ほどで他国から輸入されてきたのだ。最初は驚いて食いついたものの、鑑定するとこれは自国公爵領のミスリル銀、何故他所から入ってくるのかと調べてみたところ不正売買が発覚した。慌てて父に相談し、父から侯爵に話がいき、そのまま国預かりとなった。すわ戦争かと国全体が緊張し、武器や魔道具が飛ぶように売れた。


 当然、長姉の薬も売れまくり、次姉のドレスなどの素材も武具や防具に姿を変え騎士団とも親交を深め、騎士団長との婚約話までまとめてきた。ここで、割を食ったのは私だけだった。銀鉱山は秘密裏に監査が入り、その間私の鑑定眼は、姉妹の仕事のお手伝いとして使われた。


 その数週間後、公爵が救出され状況は極めて危険な状態であることが発覚。公爵領で働いていた坑夫の半数以上がバルムッサ国人に入れ替わり、自国の坑夫たちは奴隷として売られたりすでに他界していた。騎士団と冒険者達の働きでほとんどの違法労働者は逮捕され処刑されたが、何故ここまで荒らされていながら気が付かなかったのか。


 一言で言えば、公爵家の嫡男が恋愛脳のお花畑で役立たずの阿呆だったからだ。


 本来ならばステファンは重罪人だ。貴族特権を乱用し、国の利益と信用を大いに損ねたとして罪を償わなければいけない。知らずとはいえ犯罪に加担していたのだから当然であり、公爵不在の届出も出さず、領地経営も全て老いた執事長に任せたまま、女の尻を追っかけては資産を敵国に垂れ流していたのだから、同情の余地はない。


 だが、助け出された瀕死の公爵の姿を見て、この上たった一人の息子も犯罪者になり誰が領地の面倒を見るかというところで王族も困ってしまった。三大公爵は名目上バランスが良く、国が安定する。これで二大公爵になった場合、それぞれの負担はかなりのものとなり、しかも今後しばらくは敵国の密輸団の討伐やらミスリル銀鉱山の取り締まりもしなければならず、出された負債はとんでもない額になる。三本柱が折れたことを知った敵国は嬉々として踏み込んでくるに違いない。しかも公爵家が不正をしたとなれば、国内の侯爵や他の貴族たちも黙ってはいないだろう。内乱も懸念しなければならない。


 国がひっくり返る危機に晒され、国王は考えた。この際、クロウバット侯爵のところのモントレー商会に公爵領を任せてみてはどうだろうかと。国勢力を外しても他国でも幅を利かせ、信用もある。現状ではクロウバット侯爵が公爵以上に力を持つのは却って危険でもある。モントレー商会には優秀な三人娘がいるし、一人くらい出しても問題ないのではないだろうか。公爵に嫁げば、モントレー商会がこの国を蔑ろにすることもないだろう。もちろん、それなりに報酬は与え、尚且つ監視し手綱を握らねばなければならないが。


 話が大きくなり始めた約8ヶ月前、クロウバット侯爵様から養女の話が来た。いくら知名度が高くても平民が公爵夫人になるには無理がある。私が選ばれたのは、現状の問題をカバーできるだけの能力と鑑定眼の持ち主であり、モントレー商会では新参者だったからに他ならない。


 ……決して売り上げに貢献できない役立たずだったからではない。はずだ。


 年も18歳と扱いやすいと思ったのだろう。長女はステファンより年上で、すでに地位を確立しているし、とても忙しく海外を飛び跳ねている。次姉は騎士団長と婚約をまとめたばかりで、情けないとしか言いようのない公爵子息とはきっと結婚しても夫として見れなかっただろうと思う。


 とにかく早急に公爵家を建て直さなければ国がヤバい、と言うことで有無を言わさず、私は侯爵令嬢としてのノウハウを半年かけて教育された。侯爵家には息子が二人いるが、どちらも婚約者がいるため、家族として紹介さえもされなかった。


 まあ、今更両親が健在なのに赤の他人を父様、母様、兄様と呼べと言われてもこちらも困るし。国とクロウバット侯爵家との間にも、私の扱いについて何かしら話し合いがなされたのだろう。


 尤も、モントレー商会の教育は厳しく貴族の基礎教育(淑女教育と経営学を含む)はすでにされていたため、侯爵家の歴史とお茶会や夜会の作法やダンスを中心に学んだだけだったが。


 貴族令嬢は政治に首を突っ込まないとか、男性のやることにケチをつけないだとか、思わず握り拳を作る場面も何度かあったものの、公爵夫人になればステファンを差し置いても、法に反しない限り好き勝手やっても良いと許可をもらったので、それを糧に頑張ったのだ。


 とはいえ、首も回りすぎてちぎれ落ち、皮一枚で繋がっている公爵家を私の力量で生かしていかなければならない、と言うのは結構なプレッシャーである。


 ただ、こんな結婚は嫌だなどと言おうものなら私はモントレー商会どころか国からも追い出されていたに違いない。まあ、それはそれで生きてはいけただろうが、どうせなら公爵夫人としてどこまでできるのか試してみたくもなった。


 出来れば他愛ないハニートラップに引っかかり反省した次期公爵様(ステファン)が聡明であることを願ったのだが。


「旦那様は、何がお得意ですの?」


「ど、どう言う意味だ?」


「どう言うって…。私のことは愛せない、と言うのはわかりました。ええ、政略結婚の定番ですものね。私もこの婚姻は救済のためだと思っていますから『愛』は望みませんけれど、『煩わせるな』と言うことは、旦那様が次期公爵としてなされる事柄があると言うことですわね?私のやることと被らないためにも事前にお知らせいただけましたら、旦那様のやることに口は挟みませんわ」


「そ、それは、公爵として領地経営を、立て直していかなければならないし、ええと、何か儲かる事業も、」


「領地経営!いいですわね!」


 私は言葉をかぶせ気味にステファン様の意見を遮った。


「私、経済学や経営学は学びましたけれど、領地運営は学んでおりませんの。それでは、領地運営は旦那様にお任せいたします。この数年、公爵家の信用もガタ落ち、物価暴落に伴って失業率もこの国最高率をマークしていますし、農作物もかなり質が悪いようですしねぇ。ヒッコリー川も見ての通り、浮浪者の方々に占領され異臭を放っている状態ですし、立て直しにはきっと労力も時間もかかりますでしょう。領民の最低限の生活と仕事の斡旋、住宅事情はすでに手筈を整えておりますけれど、それ以外について私は一切口を挟みませんのでご安心を。ただ、そのための資金繰りやら物資調達、事業ということになりますと、例の銀鉱山は私名義になっておりますし、公爵家お抱えの商会はモントレー商会に合併吸収されましたので、こちらは私の采配とさせていただきます。領地経営に必要な資金資材がご入用でしたら、どうぞ企画書、報告書をあげてくださいませね」


「え……?な…?」


「私は元々モントレー商会の三女。マッカ・モントレーとして名をあげて参りましたの。鉱石に関しましては、今回の事があるまでそれなりに業界では知られております。もちろん公爵家の恥になるような商売は致しませんし、既に近隣5ヶ国には名義変更に伴う案内も事業書も提出してありましてよ」


「は?モントレー商会の…?し、しかし女がでしゃばるなど、公爵家として…っ」


「しかし?女がでしゃばる?公爵家として?うふふ。残念ながら旦那様のお名前は只今のところ国内にとどまらず近隣国でも地に落ちておりますでしょ。知名度も低迷しておりますよね?領民ですらあなたの顔をご存知ない。救済処置をしたばかりで、信用もガタ落ちですし、ここは私に任せていただきませんと……。今が踏ん張り時ですし?」


「そ、そんな…!だが、わ、私は次期公爵で…」


 ここまで言ってもまだ食い下がるとは。意外と胆力があるのか、それともただの権力バカなのか。


「ええ。私と婚姻を結んだことで、確かに次期公爵というお立場は守れましたね」


「……バカな」


「うふふ。離婚ともなれば、旦那様は色々罪を犯しておりますから、どうなることやら……。私を娶り、一年ごときでチャラにできるなどとは思わない方がよろしいかと…」


「ち、父上はなんと言っている!そんなことが許されるわけが、」


「お義父様は私に一切を任せると仰っていますの。あなたには領地を守って()()()()()()()()家名を繋げて頂ければそれでよいと」


「それでは、名ばかりの公爵ではないか!」


「まあ、可笑しい。何を今更。あなたは過去も今も名ばかりの公爵子息ではないですか。領地経営の経験も知識もなく、責任も矜持もない。学生時代の学業も中の下、官吏にすら選ばれず遊んで暮らしていたと伺いましたよ。できた執事を持っていた事がせめてもの救いでしたわね。彼も涙を流してこれでようやく引退できると喜んでおりました」


「アルバートが…そんなことを…っ」


「彼、75歳なんですってね。今は矍鑠(かくしゃく)としていますが、完全に引退してしまったらボケるかもしれませんから、私の仕事を少しだけ手伝っていただくことにしましたの。彼のお孫さんが執事を継いでくださるから引き継ぎもありますしね。まあともかく、貴方様と私は白い結婚、向こう3年間は公爵家の立て直しに力を注ぎます。その間ステファン様は領地をなんとかしていただかないと、あなた様ご自身の首が危ういですわよ?」


「ば、ばかなっ!白い結婚など、父上が許さないっ!」


 あら。声を荒げるところがそこですの?貴方を愛することはないとかほざいておきながら、子作りはしたかったということかしら?


 長姉からもらった、『危なくなったら次期公爵(盛りのついたサル)に飲ませなさい』という薬を飲ませるべきかしら。これ、男性用の避妊薬らしい。精子死滅剤とか恐ろしい名前をつけていたが、本人の()()()と生命には問題ないんだとか。やる気を削ぐような薬の方が良かったわ。


「最初に言いました通り、貴方を煩わせることのないようにしますし、私の役割に口を挟まないでいただければどこで何をしていらしても文句は言いませんわ。ああ、ただし。どこの誰ともわからないアバズレに子種を振り撒くことだけはやめてくださいましね。愛人はそれなりに、己の立場をわきまえた人格者であるのでしたら許容します。まあ、人格者が貴方の愛人になりたいというかどうかは知りませんけど」


「の、乗っ取りだ!貴様、公爵家を乗っ取るつもりだな!」


「はあ。旦那様。公爵家は私がいなければすでに潰れておりますと、まだお分かりになりませんの?」


 ここまで噛み砕いて言ってもまだわからないのかしら。いい加減、イラついてきたわ。


「旦那様。現公爵様の血を受け継ぐお子は、全部で二十四人いらっしゃいます」


「……は?」


「あちらこちらでせっせとばら撒いた子種が芽を出し、キノコのように育っておりました。そのうち男子は十五名。これから公爵の後継として教育できる男児は五人。そのうちの三人を認知し、公爵家で私が教育する予定ですの。この年ですでに三人の子持ちとかふざけんなクソッタレが、と言ってやりたいところですが、まあ、後継が育てば私も好きにしても構わないようですし?貴方様は領地の奥の奥に引っ込んでていただいても、小島にバカンスで戻っていらっしゃらなくってもぜんっぜん!これっぽっちも!構わないということですわ。お分かりかしら?」


「な、な、……そ、そんな。わ、わたしに、弟妹が、」


「ああ、ついでに言いますと貴方よりも年上の兄姉も存在しておりましてよ。ま、その方々は金銭で決着はついておりますけどね」


「父上は、そんなに節操無しだったのか……っ」


 とうとうがっくりと膝をついたステファン様。そりゃあそうよね、一人っ子だと思っていたからこその次期公爵として確立されていた地位が、砂上の楼閣、オアシスの陽炎だったと気がついてしまったんですもの。


「ええ、ですから女性と遊ぶ際には気を付けてくださいまし?後になって自分の血を分けた妹だったなんてわかったら、それこそ近親相姦で死罪ですからね?でなければ、知らないうちにあのドブのようなヒッコリー川に浮かぶことにもなりかねませんから」


「ひぃっ!?」


「私は何もしませんよ。私はね。ただ…王家の影がついてますから…ご自愛くださいませね?」


 これは単なる脅しですけどね。王家の影がついてるのは本当だけど。


「お義父様のお子様方は私が育てる三人以外、皆国外追放の目にあってしまいました。まあ、ちゃんと受け入れ国と家、当面の金銭と仕事は用意したそうですが。これも公爵家の借金として返済していかなくてはなりませんから、やることはたくさんありますわ。公爵様はこれ以上子種をばら撒かないよう入院中に処置されたようですから、今後は心配ないと思いますけれど、女好きは相変わらずですわね」


 あと、いくらあの女好きの公爵の遺伝子が受け継がれているとはいえ、ステファン様は浮気性というわけではなさそうですけど。ちょっと頭がお花畑で、恋に溺れてしまっただけで。


 まあ、このくらいはっきりさせておけば、あちこち遊びまわることはないでしょうし、おとなしく領地に引っ込んでいてほしいものです。


 本当に。もう少し考えてから発言してくださればね。歩み寄ることもできたでしょうに。


 がっくりと項垂れて、もはや反論の気力も尽きた旦那様は膝を抱えて隅っこでいじけてしまわれました。どん底から這い上がってくるほどの意気地があるのなら、もうちょっと歩み寄って差し上げてもいいんですけど。まあ、旦那様次第ですわね。




読んでいただきありがとうございました。誤字脱字報告ありがたいです。読んでも読んでも湧き出てくるやつ…。お手数おかけします。

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