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(株)俺TUEEE異世界エージェンシー 〜社畜女神の転生無双プロデュース〜  作者: 一星
第一章 女神は思ったより現代っ子なOL
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邪竜さんはいい人

○前話のあらすじ

謎の洞窟入ったら謎のドラゴンがいたよ!

 全長は何メートルあるだろうか。

 少なくとも月影が生前住んでいたアパートの大きさくらいは優に超えるその巨体。

 びっしりとドス黒い鱗が覆う足や尻尾が動くたびに、あるいは背中に生えた漆黒の翼が揺れるたびに、大気が震える。


 生物としての圧倒的上位種が、今、月影の目の前に。

 この世界にはこんなバカげた生き物までいるのか。


 ズテン、と尻もちをついたまま、立ち上がれない月影。抜けた腰が戻らない。

『タタカイマショウ』? どういう意味だろう。言語中枢の自動翻訳とやらが上手く機能していないみたいだが???



「というか……、『知り合い』って……っ」


「人間とは言ってません。〝邪竜〟さん――――この世界の管理を委託している、現地のドラゴンです」


「管理を委託……」


「チェーン店の雇われ店長みたいなことですよ。エリア統括の管理職が我々女神です」



 この女神は身も蓋もない例えをするのが癖なのだろうか。

 さすがに月影も、本物のドラゴンを目の前にして『雇われ店長』はまるでピンとこない。



≪≪ む……なんだ、女神どのか ≫≫



 十六夜に気付くや否や、〝声〟から威圧感が消えるドラゴン。

 声のみならず、その巨体の方にも変化が現れる。――――シュルシュルと、縮んでいく。全長はどんどん縮小され、形を変え、数秒後にそこにいたのは、



「……っ、人間……?」



 真っ黒のローブで身を包んだ、美形の女……いや、長髪・童顔の男だろうか。


 抜けた腰こそまだ戻らないが、死を実感するほどの戦慄は月影の中から消えていく。安堵だけが今の月影の胸中だ。巨大なドラゴンが人の姿に変身するという摩訶不思議現象への疑問はもうどうでもいい。どうせ魔法か何かだろう。



「ご無沙汰だな、息災か女神どの。人間を連れておるとは……本日はどういった用向きだ?」


「ええ、まさにこの人間が関係していることでして。こちら、天野月影さん。我が社と契約を結んだ異世界転生者です」


「む……そうか。なるほどな。――――挨拶が遅れた。先程は威嚇して申し訳ない、転生者どの。吾に名乗るような名は無いが、人の里では〝邪竜〟と呼ばれておるらしい。以後お見知り置きいただきたい」



 存外、物腰の低い丁寧な人(竜)のようだ。災害に襲われたような気分だった第一印象とのギャップで、月影の感情が混乱を極める。



「あ、いや、えっと……どうも。月影です……」


「魔法で人の姿になってますが、正真正銘、ドラゴンの方が本体ですよ。そして先程も教えましたが、彼――――ドラゴンに性別は無いので便宜上〝彼〟と呼んでるだけですが――――彼はこの世界のエネルギーを調整してくれる管理者です」


「うむ。主の用向きはまさにその件……〝世界の歪み〟だろう?」


「話が早くて助かるです」



 十六夜が頷くと、邪竜はバツの悪そうな顔で溜息混じりに返す。



「そりゃ、分かるとも。いやまったく、面目ない。お察しの通り、今この世界は〝歪み〟が拡大傾向にある。特に狂乱の世というわけでもないのだがな……原因が分からずに手をこまねいておるのが現状。管理を任された身としては痛恨の極み、赤面の至りだ。それで、そちらの転生者どのが救援要員として送られてきたわけだな?」


「まだまだ圧倒的力不足の初期アバターですけどね。我が社のコンセプトはご存知でしょう? 月影さんという人材育成に、邪竜さんの力を貸していただけませんか」


「うむ、承った。元はと言えば吾の不甲斐なさが原因よ。吾にできることがあれば申せ」


「ありがとうございます。では最初に、やっていただきたいことが。――――月影さん、立ってください。始めるですよ。まずは魔法技術の習得です」


「あ……はい」



 トントン拍子に事が進んでしまった。月影はずっとぼんやり眺めているだけだ。

 これから何が始まるのだろう。言われるがままに立ち上がる月影。


(『ドラゴンと戦え』なんて言われたときは、どうなることかと思ったけど……)


『まずは魔法技術の習得』……そりゃ、そうだ。いきなり戦うわけにはいかない。

 きちんと準備をして、段階を踏んで強くなっていくしかない。いつかドラゴンとさえ戦えるほどの男になるために。


 真面目で礼儀正しく、責任感ある人格者。このドラゴンはどうやら怖がらなくていい存在であると、月影も徐々に分かってきた。



「よろしく、お願いします」



 修行相手として、安心して胸を借りれそうだ。

 もちろん、本物のドラゴンなんかと対等に渡り合おうと思えば、どれほど先かも分からない遠い道だろうが。人間相手の試合でたった一つのトロフィーも獲れたことがない月影が、ドラゴンと戦えるイメージなどまるで湧かない。


 それでも、『いつか』なんて言っていられない。強く、ならなければならないのだ。


 世界を救うほどに。世界を超えるほどに。


 才能が無くても、一歩ずつ登っていくしかない。

 ゆっくりでも確実な、一歩一歩を。



「では邪竜さん、とりあえず元の姿に戻って――――今から月影さんと戦ってください」


「承った」


「えっ」


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