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(株)俺TUEEE異世界エージェンシー 〜社畜女神の転生無双プロデュース〜  作者: 一星
第一章 女神は思ったより現代っ子なOL
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よく見ればファミマのハムサンドだった

「――――おはようございます月影さん。体の調子はどうですか?」



 目が覚めると、そこは異世界だった。


 それを理解するには、数秒あれば十分だった。

 下に敷かれた絨毯の感覚。本当に復活している自分の肉体。隣にちょこんと正座してランチタイムと洒落込んでいる青髪の幼女。

 そして視線を少しズラすと、絵本から飛び出してきたようなメルヘンで壮大な街並みが、月影達の真下に広がっていた。


(……。ん?)


 ヒュォォオ、と。上空数百メートルの冷たい風が月影の顔を撫でていく。


 今さら気付く、ふわふわと揺れる地面の浮遊感。

 月影達が座っているのは、空飛ぶ絨毯の上だった。



「――――、――――っ、……〜〜〜bgぉあ、な、なんでッ⁉ し、死ぬ……っっっ⁉」


「死にません。滅多なことがない限り落ちないようになってるです、安心してください。それより、体の調子はどうですか? どこか不具合などございますか?」


「いや……あの……っ、心臓は破裂しそうですけど……っ!」


「それは何よりです。生命活動は無事再開したようで。おめでとうございます」



 あくまで月影の体調という視点で話し続ける十六夜。……もう少し、突然こんな状況に放り出された人間の気持ちにも寄り添ってくれていいのではないか。抗議の一つもしたくなるものだったが、「では行くですよ」と十六夜の声とともに空飛ぶ絨毯が加速し始め、月影の喉からは声にならない悲鳴しか出なかった。


「ひ、ひぃい……っ、お、落ちる……っ」


「落ちませんってば。それより、眼下の景色をよく眺めておいてください。この世界をまず目で見て実感してもらうために空を飛んでるんですから。言わばゲーム開始時の、オープニング演出です」


「スキップしてください!」


「おや、思ったより余裕ありそうですね。心身ともに健全、……と」



 月影の体調を確認した十六夜は、手元にあるノートパソコンのようなものに、カタカタと何やら打ち込んでいく。月影のメディカルチェックでもしているのだろうか。



「…………それ、何ですか?」


「これですか。マックブックです」


「そうじゃなくて。いえ、それもそれで疑問ですけど……」


「あなたの世界は文明が発達していて、とても秀逸です。我々女神が重宝するアイテムも多いのですよ。私もこの異世界転生にあたって、色々持ち込んでるです」



 そう言って十六夜は左手に持ったサンドイッチをパクリと一口。

 これもよく見れば、ファミマのハムサンドだった。……女神も案外、俗っぽいものである。



「私が今やってる作業のことなら、月影さんが気になさらなくても大丈夫です。会社への定期報告書を書いてるだけですので」


「会社……そういえば、そんなこと言ってましたね。……女神にも、社会があるんですか?」


「そりゃありますよ。人が集まれば社会が生まれます。友情も争いもコミュニティも生まれます。人それぞれ役割があって、補い合って、全人類という巨大なシステムをいかに運営するか模索し続けるものです。女神ですけど」



 あの謎空間での超常的な邂逅は一体何だったんだと言いたくなるほど、女神という存在の人間臭さがどんどん増していく。

 株式会社があるということは、株式があるのだろう。経済があり金融があり、そこから生じるドス黒いマネーゲームもあるのかもしれない。


 ハムサンドを食べながらパソコン片手に共生社会を説く彼女は、ほとんどただの人間だった。

 液晶画面から顔を上げ、改まるように月影に向けて説明を続ける。



「我々女神の役割というか、果たすべき責務は〝全世界の安定〟です。世界というのは本来、魂の循環さえちゃんとできれば自然と安定するものですが、やはりバグや不具合は生じるものです。特に〝魔法の発達〟ですね」


「えっと……魔法のエネルギーが世界そのものを歪ませる、みたいな話でしたっけ」


 十六夜は頷き、補足する。


「魔法ゼロの科学文明でも、全人類規模の大量死とかになればアウトですけどね。魂がごっそり抜け落ちてバランス崩壊、世界にとって致命傷になります。魂こそが〝世界〟のエネルギー源なのですよ」



 魔法は、魂が生み出す奇跡の力。――――十六夜がそう言っていたのを月影は思い出す。



「魔法文明は、危うい。我々女神は各所にある無数の魔法文明を監視し、対処してきました。その中で自然と生まれた定石が、『才覚ある優秀な魂を送り込み、世界を救ってもらうこと』でした。あまりにも多い世界の歪み。手が足りない女神のアウトソーシングです。自身の特権と能力を一部譲渡して、めぼしい人材を歪んだ世界に派遣する。そんな事務作業を機械的に繰り返してきました」


「なるほど……じゃあ、僕がその、『才覚ある優秀な魂』ってことですね」


「いえ全く」


「え」


「あなたに才覚は全くありません」



 十六夜ははっきりと二度言った。……じゃあ今の話は何だったのか。

 月影を上げて落とすためだけの丁寧な前フリだったのだろうか。



「ここで言う『才覚』とは、魂の強度です。もっと言えば『我々女神の力をどのくらい譲渡できるか』です。たくさんチート能力を与えて異世界転生案件をイージークリアしてもらえるなら、女神にとっても好都合。しかし、『チート』と呼ばれるレベルまで女神の力を注ぎ込める強度の魂は滅多にありません。そんな都合のいい人材は、1%未満のレアケースです。……希少な資源、というのは分かっていたはずですけどね。目先の利益を優先して無計画に乱用すれば、そりゃ枯渇しますよ。女神の世界は今、深刻な人材不足です」


「……じゃあ何ですか、僕という人選は奇跡期待の失敗前提ですか」


「とんでもない。あなたにはちゃんと、世界を救ってもらいます。――――才覚が無い分、私が一緒について、プロデュースするのです。『人材がいないなら育てればいい』、それが弊社、株式会社俺TUEEE異世界エージェンシーが掲げる一つの解答ですから」


「…………」


「かといってのんびりもしていられませんが。しばらくは大丈夫でしょうけど、カタストロフまでのタイムリミットも不明なのです」



 だから、と十六夜は続ける。



「覚悟は、しといてくださいね。才覚ゼロのあなたにとってベリーハードのこのプロジェクト。並大抵の道のりじゃありません、ビシバシいかせてもらうです。私があなたを、〝最強〟まで連れて行きます」



 ふわり、と空飛ぶ絨毯の速度が緩やかに落ちていく。


 異世界の上空を適当に飛んでいたわけではなく、目的地があったらしい。飛行が徐々に減速していった末、やがて絨毯は地面へと降り立った。

 地面、と言っても、高度は先程までとそこまで変わらないのだが。


 周囲の光景を見渡す限り、群を抜いて大きな、山。

 その中腹あたりにあるちょっとした平野で、月影達は下車(下絨毯)した。



「ビシバシ……わ、分かりました。がんばります! 僕はこれから何をすれば?」


「とりあえず、しばらくの間は山籠りですね。修行として一番効率が良いので」



 そして、青髪の女神は淡々と言い足す。



「あなたの世界の漫画にも、そう書いてありましたし」



 ……今のところこの女神、ちょっと不思議な力を使えるだけの漫画脳のOLである。この人に従っていて強くなれるのだろうか。

 色んな意味で先行きの不安が止まらない月影だった。


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