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異世界を救えハムサンド 〜無双の秋 女神の事情も色々大変〜  作者: 一星
第三章 秘密結社〝青藍〟に迫りましょう
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ここは吾に任せて行くがよい

〇前話のあらすじ

銀杏さんを助けに行くよ!

 地球製品ヘンゼルとグレーテルで示された動線は街を出て、山奥にまで続いていった。照山とは別方向の、別の山。通称、暮山(くれやま)というらしい。


 ファミマのハムサンドに始まり、アップルパイやカップ麺、かっぱえびせんやとんがりコーンなどの小さな目印も挟みつつ、再びファミマのハムサンドが。


 うまい棒やヤングドーナツ、チロルチョコなどの駄菓子を経て、再びハムサンドを挟みながら、次は和菓子ゾーンに入った末にやはりハムサンド。

 ハムサンド。ファミチキ。ハムサンド。ハムサンド。



「いや何個ファミマのハムサンド持ってんだよあの人……っ!」



 いよいよ堪えきれずに声を上げる月影。


 道中のハムサンド率が半端じゃない。30個から後はもう数えていない。

 どうでもいいが、あの〝アイテムボックス〟内は食べ物も腐らないのだろうか。これだけストックしていて、賞味期限を気にしている様子は今まで見たことがないが。



「後半になるにつれてハムサンド率が上がってますね……。できるだけハムサンドは手放したくなかったんでしょうけど、他の食べ物のストックが切れてきてやむ無し、といったところでしょうか」


「どーでもいいよそんな心理分析は……。つーか余裕かよ銀杏。高ぇ茶菓子だけど他に無いからしぶしぶ出すみてーなことか? 誘拐されながらケチってんじゃねーよ」



 呆れ返った表情のギルギガント。

 全く、同感である。月影も肩をすくめる。



「あの人の食に対する執念はとんでもないですから。ギル……ビブラートさんもそれで痛い目に遭ったでしょう」


「ギルギガント! 美声が売りなのか俺は! そんで、嫌なこと思い出させるなよ……」


「食べ物のことになると犯罪とかどうでもよくなるんでしょうね。まあ、それだけ大好きなんでしょう、食べ物が。ファミマのハムサンドが。それに、多分あれ全部自腹でしょうし。『上にいくら掛け合っても食費が経費で落ちない』ってこの前愚痴ってましたから」


「なんだって?」



 おっと。

 つい流れのままに余計な話までしてしまった。女神の会社の話など、ギルギガントに理解できるはずもないし、そもそも秘密だった。お口チャックをイメージし、意識する月影。


「とにかく」と強引に話を逸らす。

 目の前に広がる、異様な空間を眺めながら。



「到着――――しましたね。ここがゴールってことで、いいんですよね?」


「だろうな。食べ物の道はここの付近で途切れてるし、それに、見るからに」



 研究所、といった施設がいくつも、ずらりと並んでいた。


 山奥。木々や岩壁に囲まれた、要塞のような研究所エリア。ここが〝青藍〟の研究本拠地、ということだろうか。

 そして、



『……ようこそ。どうやってここを見つけたのか知らないが、ご苦労なことだ。もちろん、歓迎はしない』



 どこかのスピーカーから流れてくる声。続けて、重々しく開いていく頑強なゲート。

 その中から続々と溢れ出てくる、〝凶暴化〟した魔獣の数々。



「やっぱり、見つかってたみたいですね……」



 到着した時点ですでに、そんな気はしていた。嫌な地響きとともに、見るからに『敵を排除する』といった様相で、施設内から魔獣が湧き出るのが見えていたからだ。


 監視カメラの存在はすでに示唆されていた。なのでそこに関しては、別段、不思議なことでもないが、



「……ちょっと、数が多すぎますね」



 あまりにも。


 先程の無限組手、のときよりも下手すれば多いのではなかろうか?


 研究エリア内から、あるいは他のどこか、秘密の隠し出口から、わらわらと湧いて出る無数の脅威。すでに月影達は四方八方を囲まれている。



「こちとらたった二人だぜ……、敵さんはどんだけビビってんだよ……っ。少しは油断しろってんだ」


『油断できるものか。ギルド〝夕焼け紅葉(メイプルフォール)〟のAランク冒険者ギルギガント。それに隣の妙な服装の男は、ついさっき照山のAー21ラボで大暴れした奴だろう。あれだけの戦闘の後に、まだ動けるとはな。立って歩けるだけでも称賛に値する』



 ギルギガントの独り言に返事が返ってくる。こちらの音声も拾うらしい。



「……そう思うなら、もっとコスパの良い迎撃をしたらどうです? どう考えても過剰戦力でしょう」


『過小評価はしないさ。手負いの獣の恐ろしさは、職業柄、重々承知なのでな。理論値に実用性は無いし、希望的観測に現実味は無い。コスパ度外視の投資を続けてようやく一粒の結果を出すのが、研究者という生き物だ』



 だから、と。

 スピーカーの声はさらに続く。



『出し惜しみナシだ。こちらの持ち得る全ての力で迎撃させてもらおう。せいぜい頑張れ』



 そうして――――プツンッ、と通信が切れる音。


 直後。

 見覚えあるそのシルエットが、どこからか飛んできた。




 ――――BBBooOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOォォオオッッッ‼‼‼‼




「ドラゴン……っ!」


 月影達の目の前に降り立った、圧倒的な脅威。


 一頭の、災害そのもの。


 まだ、隠し持っていたのか。立ち塞がる絶望を、歯を食いしばりながら見据える月影。対しギルギガントは、もはや言葉も無い様子で、静かに冷や汗を流していた。



「……月影、お前どのくらい戦える?」


「正直、あんまりです……。体の方は回復したのでいいんですけど、未だに、魔力に違和感が。魔法を使っての戦闘は限界が近いと思います」


「もはや為す術なし、か……」


「……っ」



 諦念の籠もったギルギガントの呟きが、月影の耳にも沁みていく。


 先程の照山のときよりも多い〝凶暴化〟魔獣の群れ。

 あのときと違い月影は、とても万全で戦える状態ではない。銀杏もいないので空へ逃げることもできない。

 限界を超えて乗り切ったあのときよりも、敵は多くて自分は弱い。

 はっきり言って、ギルギガントじゃ戦力の足しにはほとんどならないだろう。


 加えて、ドラゴン。

 月影の肌感で言えば、万全の状態の月影でも、このドラゴン一頭にさえ勝つのは難しそうだ。



「こいつは……どうも、勝ち目は無ぇな。――――だが」


「?」


「今回は、街の一般市民がみんな避難済み。唯一の救いか」



 そう言いながら。

 ギルギガントは、懐から取りだした試験管を頭上に運び、中に入っていた液体を被った。



「何を……っ?」


「〝マタタビ〟だよ。〝凶暴化〟した魔獣を引き付ける薬品――――あの地下研究所で資料は見たからな、〝夕暮れ紅葉(うち)〟の研究室を借りて、再現した」



 さらっと、とんでもないことを言い出すギルギガント。


 あの一件からほんの数時間。資料を一度見ただけで内容を記憶するのも、再現できるのもおかしい。第一印象はすでに何度も引っくり返っているはずだが……それでも月影が思っていたより、もっとずっと凄まじく優秀な人間だ。


 いや、そこではない。ギルギガントの優秀さに驚いている場合、ではない。


〝マタタビ〟を再現して、それを頭から被ったということは、



「……、そんなこと、したら」


「無茶するのは俺の役目だって、言ったはずだぜ。もう相談の余地は無ぇ。俺が囮になる、お前はさっさと銀杏を助けに行け」


「そんな…………ギルギガントさんっ!」


「お、ようやく覚えたか、俺の名前」



 フッ、とギルギガントは笑みをこぼす。



「安心しろ、死ぬ気は無ぇよ。勝ち目は無くても、逃げ切ってやる。お前はさっさと銀杏を助け出して、空飛んで脱出しろ。後で街で合流だ、健闘を祈るぜ。分かったら行け!」


「……っ、……、…………」



『死ぬ気は無い』――――嘘だ。


 嘘だと、明らかに分かる。こんな逃げ場のない状況で、全ての魔獣からロックオンされながら、一体どうやって逃げ切るというつもりだろう。


 自分の実力不足が客観視できない、愚かな弱者でもあるまい。


 すぐに死ぬだろうという、前提。『空を飛んで脱出しろ』の後に、『自分を拾え』とさえ言わなかった。そこにあるのはきっと、物言わぬ死体でしかないから。


 でも、



「……、はい。ありがとう、ございます……っ!」



 月影はもはや、そう言うしかなかった。

〝マタタビ〟を被ったギルギガントはもう引き返せない。今動かなければ、ギルギガントの覚悟が無駄になる。


 せめて月影にできるのは、一秒でも早く銀杏を助け出して、再びここに戻ってくること。そしてそのときに、ギルギガントがまだ生き残っていることを祈ることだけだ。


 奥歯を強く噛み締めながら、地を蹴り研究所内へ足を向ける月影。


 だが、

 しかし、ここでさらに。



「おいおい……嘘だろ、ふざけんなクソ……っ」




 ――――BBBooOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOォォオオッッッ‼‼‼‼




 上空に、もう一つの。


 空を見上げ、思わず、駆け出した足が止まる月影。

 何故なら、それは、



「いや……構うな月影! とにかく、お前は行け!」


「……違う。違います、あれは」



 びっしりとドス黒い鱗が覆う足や尻尾。

 動かすたびに大気を震わす、背中に生えた漆黒の翼。

 見覚えのありすぎる、禍々しい巨躯。


 その顔を見ると、死の恐怖と優しい温もりが交互に湧いてくる。



「邪竜さん……っ!」



≪≪<{{(((( 世界がどうも喧しいと思って来てみれば……吾以外に竜種が生き残っておるとはな。貴様、どこの里の若造だ? ))))}}>≫≫



 喋り声が脳に直接流れ込むような感覚。


 もう一方のドラゴンへと向けられた威圧。生物として圧倒的上位種のオーラ。同じドラゴンだがおそらく、その格は雲泥の差だと、ひと目見て分かる。


 邪竜――――が、ドラゴンの前に立ち塞がるように、月影達の目の前に降り立った。


 ちらりと、邪竜は月影へと振り返る。



≪≪ 山籠りを卒業してまだ一日そこらだが……ふむ、目を見張る成長っぷりであるな。息災か、月影どの? ≫≫


「おかげさまで。無事とは、言えませんが」


≪≪ そのようだな。魂レベルの負傷。魔力回路がショートしておる、とでも言うべきか。狂った量のオーバーワークでもしなさったか? これは、無理に治そうとするのは得策ではないな、自然回復を待たれよ ≫≫


「いや……、え? え……? 月影お前……このドラゴンと、知り合いなのか?」



 唖然と。

 何が起きてるか理解できていない様子のギルギガントが、ぽかんと口を開けて二人の会話を眺めていた。



「はい、山籠りのときの、恩人です。人じゃなくて竜ですけど」


「……っ」


「あ……、一応あの、これ内緒でお願いします。秘密にすべきことかどうか、また後で銀杏さんに判断を仰がないと」


「……、……バカかお前、聞くまでもねぇよ、絶対秘密にしとけ。俺以外の誰にも言うなこんなこと……ドラゴンが現代に生き残ってたってだけで、今頃世間は大騒ぎなんだぜ?」



 やはり、そうか。ドラゴンはこの世界でも、非常識な存在らしい。



「それに……何? 『邪竜』? あの〝邪竜神話〟と何か関係が…………いや、いやいい。何も聞かねぇ。これ以上、首を突っ込みたくねぇ……っ」



 そうして一人で話を終わらせたギルギガントをよそに、邪竜は月影へ言葉を続ける。



≪≪ この状況……現状の月影どのの手に余る案件だと見受けられるが。お二人の〝プロジェクト〟のことは承知しておるが、さすがに今回は、手を貸しても文句は言われまいな? ≫≫


「まあ、今回は完全にプロジェクト外の異常事態なので……。当の銀杏さんが攫われてしまったんですよ」


≪≪ なんと……。なるほど、そういう状況か ≫≫



 ぐるりと周囲を見渡し、邪竜は「ふむ」と頷いた。



≪≪ ゲートを起点に2時の方向、42メートル先にある建物。地下1階に感じるな、銀杏どのの魔力は ≫≫


「銀杏さんの〝サーチ〟より正確ですね」



≪≪ この世界のことなら、吾の方が詳しいと自負しておる。フィールドアドバンテージとでも言えば、主には分かりやすいかな? ここは吾に任せて行くがよい ≫≫


「助かります、ありがとうございますっ!」


「俺も残るが……おい月影、このドラゴンは本当に信じていいんだよな?」



〝マタタビ〟をすでに被っているギルギガントは、どうあれ残らざるを得ない。不安と戦慄に顔を歪めるギルギガントに「大丈夫です!」と投げかけながら、月影は再び駆け出す。


 もう安心だ。邪竜がいるのなら、この状況はもう、困難でも何でもない。邪竜の強さは、おそらくこの世界で一番月影が実感している。


 あとは。

 銀杏を、助け出すだけだ。



≪≪ 月影どの ≫≫



 と、邪竜は最後に、走り去る月影に言った。



≪≪ 回数制限……いや、一刻を争う状況だ、時間制限の方がよいな ≫≫


「? はい?」


≪≪ 魔法を用いた全力戦闘。五分、といったところか。魂がボロボロの今でも、そのくらいなら耐えられよう。銀杏どのに辿り着くまでにまだ魔獣は山程いるぞ。今回は銀杏どのに代わり、吾が主に〝修行〟を課す――――五分以内に助け出せ。超過すれば減点である ≫≫


「……ははっ、了解!」



 いつもと変わらぬ調子、修行気分の邪竜に、思わず笑みをこぼす月影。


 見れば、邪竜の言うように、向かう先からも次々と魔獣が湧いて出てくる。〝マタタビ〟の誘引力があるといっても、この群れをかき分けて進もうとすれば反撃にも遭うだろう。


 雑魚などいない。〝凶暴化〟の怖さは知っている。

 この中を、五分で突破するというのは、少しばかり無茶な話か。



(……無茶な修行は、いつも通りだな)



 いつも通りのことを、いつも通りやるだけだ。


 ……思えば、それができなくて、前世の月影は死んだのだ。『緊急時に実力を発揮できない』、一番最初に銀杏に言われた『ダメダメ』だった。


 本来、修行で培った実力通りの力を出すというだけなら、いくら才能の無い凡人にだってできること。あとは、心の持ちよう一つだ。


 今、不安も緊張も、無駄に気負った重圧も、月影には無い。

 いつも通りのことを、いつも通りやるだけならば。


 負ける気は一切、しなかった。


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