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異世界を救えハムサンド 〜無双の秋 女神の事情も色々大変〜  作者: 一星
第三章 秘密結社〝青藍〟に迫りましょう
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ごちそうさま

〇前話のあらすじ

月影が目を覚ましたよ!

 急ぎ、その現場へと向かう月影達。


「ここです」と手で示すマロンを先頭に、月影とギルギガントは立ち止まる。


 とある路地裏。

 わずかに、争った形跡が見られる。消火器でも吹きかけたような謎の白い跡もあるが、あれは何だろうか。



「銀杏さんを連れて、あっちの方に……歩いて行きました。うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい……っ。怖くて、わたし、何も……」


「いや、助かったよマロンちゃん。君がいなきゃ本当に手がかりゼロだった。銀杏さんがピンチだなんて心配さえしなかった。怖い中、よく、寝たフリを演じきって耐えてくれた」


「……っ」


「恐怖で何もできなくなる感覚は、僕もよく知ってる。文字通り、死ぬほど痛感してる。君は強いな。少なくとも僕よりは」



 強くなったつもりで、修行を積んだつもりで、それでも前世の月影は恐怖に足が竦んで死んだ。


 逃げることもできずに、無様に。


 その点、マロンの健闘たるや。

 ここに来るまでの道中でマロンに聞かされた、銀杏達の行動や会話内容は、情報として欠落が少なく、その状況を把握するには十分なものだった。マロンには理解のできない単語や文脈があるにも関わらず、だ。


 できる限り把握し、誰かに伝えるためにしっかり記憶する。マロンは自分にできる最大限の任務をやり切った。


 ここからは、月影の役目だ。



「方向が分かっただけで御の字。銀杏さんならきっと、何らかの手がかりを残しているはずです。探しましょう。おそらく、万が一敵に見つかっても問題無いような、僕達に向けた救難シグナルを」


「……そんな器用なことができるか? マロンちゃんの話じゃ、手錠に目隠し状態なんだろ」


「銀杏さんの〝異能〟を〝飛行〟だと思ってる以上、他の魔法をこっそり使うことはできるはずです。まさか〝異能〟複数持ちだとも思わないでしょうし。それがこの世界の常識なんでしょう? というか、どの道それが無かったら捜索も詰むので、銀杏さんを信じるしかないというか――――ほら、ビンゴです、あそこ!」


「? どこだよ?」



 マロンが指し示した方向。パニックになりながら避難していった住民が落としていったのか、日用品やら食べ物やら色々な物が散らばった道中。


 その中に、異様な物が一つある。


 いや、その辺の人にとっては『見たこと無いけど何だあのパッケージ』くらいの認識なのだろう。これを明らかな異物と捉えるのはおそらく、この世界で月影ただ一人だろう。


 月影にとっては、よく見慣れたそれ。しかしこの世界には絶対に無いはずの、あってはならないはずの――――ファミマのハムサンドが、そこにあった。


 そして、少し離れた場所に、マックのアップルパイが。


 さらにその先には日清のカップヌードルが。

 そしてその先に、その先に……続々と。



「連れ去られながら、後ろでこっそり落としていったんでしょうね。万が一気付いても、まさか銀杏さんが落としたものだとは思いません。〝アイテムボックス〟の存在を敵は知らない」



 それにもちろん、〝ヘンゼルとグレーテル〟も知らない。


 日本では常識レベルの童話でも、ここでは違う。月影にしか分からない、あまりにも大胆で堂々たる道しるべだ。



「よし……さすが銀杏さん。これで敵陣までは――――うぅ……っ⁉」


「おい、月影っ⁉」



 ハムサンドに駆け寄ったところで、唐突なめまいに膝から崩れる月影。

 どうにか踏ん張り、倒れ込むのは防ぐ。


 蓄積ダメージがいよいよ限界に近いようだと、自分で感じる。ここまで歩いてきただけでも、実のところ尋常じゃない苦痛が襲っていた。



「やっぱりお前ボロボロじゃねーか、寝てた方がいいだろ……たった五時間寝ただけで、何が回復するってんだ? どうしてもって言うから、ドーピングみてーな応急処置だけ施して連れてきたけどよ……」


「問題ありません。行きましょう」


「悪いことは言わねぇ、俺に任せろ」


「いえ、銀杏さんのことなら僕が一番分かります。僕が適任です。それに、この道着は回復能力付きの特別製なので、ダメージの方は大丈夫かと」



 嘘だ。

 薄々、月影は自分でも気付いていた。今、この回復道着が機能している感覚は無い。


 無茶をしすぎて何か壊れたのか、ダメージが大きすぎるのが問題なのか……何にせよ、自動回復は期待できない。



「ジルさんもドラゴンに付きっきりの今、戦力としてもこれ以上減らせません。というか、敵の狙いはそれでしょうね」


「マロンちゃんを攫うための陽動、か。〝滅竜伝説〟のジルさんを引き剥がすには、ドラゴンをぶつけるしか無かったってわけだ」


「本来なら〝凶暴化〟の群れがその役割だったんでしょうけど、僕が全部討伐しちゃいましたから。――――逆に言えば、そういう陽動や小細工が必要だった。ジルさん相手に真っ向から挑めば、勝利はおろかマロンちゃんをこっそり連れ去って逃げおおせることさえ難しいと考えている。その程度には、少なくとも今は、奴らは戦力不足です」


「……数百体の〝凶暴化〟魔獣に、ドラゴン三体。これで戦力不足、か」


「魔獣は武器に過ぎませんから。結局のところ人間が弱ければ……実行犯が弱ければ、マロンちゃんの誘拐は成立しません。きっとその、エドガーとかいう男が最高戦力なのでしょう。じゃなきゃわざわざ首謀者自ら出向かない」



 聞いたところ、敵は研究者。戦闘員といった要員はいないのかもしれない。

 だが……母体が〝青藍〟という組織である以上、いつ増援があってもおかしくない。研究チーム単体の任務なのか独断なのか、戦力不足のまま決行している今こそが最大の反撃チャンスなのだ。


 敵の急所を見極めて、全力で突く。

 銀杏に口酸っぱく何度も教わった、戦闘の基本だ。



「この急所チャンスを逃す手はありません。僕も含めて、最大戦力で突きましょう」


「……しょーがねぇ、か。理屈は分かるし気持ちも分かる。男気は買う。だが、無茶するのは俺の役目だ。そこは譲らねぇ、いいな?」


「…………あ、あのっ」



 そうして銀杏を救い出しに向かおうと足を向けた二人を、おずおずとマロンが呼び止める。



「ああ……マロンちゃん一人残すのも危ねぇな。待ってろ、近くで巡回してる部下を護衛につけて」


「じゃ、じゃなくて……その、これ」



 そう言って、マロンがその手に持つバッグから取り出したのは、二人分のおにぎりだった。



「わたしが、今、何もできない役立たずなのは分かってます……。でも、せめて、これを」


「マロンちゃん……」


「駐屯所で、お二人が出発準備をしてる間に作った急ごしらえなので、出来栄えは良くないですけど……でも、あの、わたしの料理は回復の魔法があるんですよね?」


「……役立たずなもんか。最高だよ」



 貰ったおにぎりに、早速かぶりつく月影。


 美味い。

 シンプルに、その一言がまず湧いてくる。これで『出来栄えは良くない』というのだから、マロンの料理に対する半端じゃないこだわりとプライドが伝わる。


 だけじゃない。


(なるほど……今なら、分かるな。これはすごいや)


 傷み切った全身が回復していく感覚。邪竜に回復魔法をかけられたときと同じだ。全身の細胞がエネルギーを取り戻し、漲っていく。


 米粒ひとつひとつから、マロンの想いが伝わる。

 優しくて強い、とても強い、魂の力が伝わる。


 全て食べきる頃には、全身を覆っていた苦痛や倦怠感が嘘のようにすっきりと消え去っていた。



「ごちそうさま。ありがとう。君のおかげで、銀杏さんを救い出せるよ」



 額面通りに。お世辞なんかじゃなく、心から、そう思える。


 冒険者達の助けになりたいという気持ちが、人を助けたいという心が、こんなにも強い力を生むのだと、おにぎり一つで証明してくれる。


 この世界に来て、邪竜以外で、初めて出会った人。最初に助けた少女。思えば、この少女を助けたことで月影は勇気を持てたのだ。


 その経験を、大きな力にできたのだ。


 そこから、ほんの一日。しかし、自身の凄まじい成長は月影も自覚している。銀杏にしごかれ邪竜に叩きのめされた修行の日々が、みるみるうちに実っていく実感。



「行きましょう」


「ああ、おかげで俺も体力満タンだ!」


「……っ、お気を付けて……どうかご無事で!」



 涙目で見送るマロンを尻目に、月影とギルギガントは地を蹴り駆ける。


 少女を一人助けられる男になれた。街を一つ助けられる男になれた。

 なら、次のステップだ。


 なってみせよう。女神さえも助けられる人間に。


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