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異世界を救えハムサンド 〜無双の秋 女神の事情も色々大変〜  作者: 一星
第三章 秘密結社〝青藍〟に迫りましょう
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……随分と、リアルなケモミミですね。この世界のファッショントレンドですか?

◯前話のあらすじ

「マロンのことは私に任せろ」とジルと約束したよ!

「では、武運を祈る」

「お互いに」


 三体のドラゴンを引き連れて去っていくジルを見届け、銀杏は目を閉じて集中する。

 ――――〝魔力サーチ〟。


 感覚としては二次元の簡易レーダーに近いこの〝魔力サーチ〟魔獣と人間の差は分かりやすいが、人間の個体差はほぼ無く、人探し目的としては使い勝手はかなり悪い。


 さすがにジルほどの莫大な魔力になると一目瞭然だが、人混みでごった返しているこの街の中、〝魔力サーチ〟でマロン一人を見つけるというのは不可能に近い。


 平常時であれば。


(今は街全体が『避難』一色。あるいは『パニック』。そこからはみ出して、異色の動きをしている人間二人分の魔力がある……)


 避難するでもなく、とどまるでもなく、右往左往するでもなく、どこか目的地に向かって人目を避けて歩いているような、そんな動きだ。


 銀杏は急ぎ、そのポイントに向かって飛翔していく。


 杞憂ならいい。全く関係ない、全く知らない二人組が全くどうでもいい理由でみんなと別行動を取っているだけかもしれない。


 だが、これが銀杏の危惧通りなら、この混乱に乗じて、



「………………そこのお兄さん。マロンさんを抱えて、どこへ行こうというのです?」


「……っ! なん……貴様、どこから……っ?」



 空から、降り立った銀杏の眼前にいたのは、黒い衣装でフードまですっぽり被った不審な男。

 その手には、子供一人は余裕で詰め込めそうな、大きなバッグ。


 いきなり背後に現れた銀杏に目を丸くした黒フードの男だったが、相手が黄髪の少女であることを認識すると、余裕を取り戻したように表情を緩める。



「……ふむ、何を勘違いしているのか知らないが、お嬢さん。俺は逃げ遅れて道に迷っているだけで――――」


「問答無用」



 銀杏はすでに動いていた。


 決して銀杏は考えなしでも、無謀でも無鉄砲でもない。勝算は、十分にあった。


 この世界に生まれたての転生体。以前月影に説明した通り、使える魔法は少ない。知識は膨大でも、肉体の感覚がリセットされている今、また一から習得し直さなければならないのだ。

 この異世界に来て一ヶ月、銀杏は未だ、失った魔法感覚を取り戻すことはできていない。


 だが、相手は魔獣じゃない。人間だ。

 魔法よりも優先してトレーニングを積んできた、徒手格闘の戦闘術が通用する。


 最優先で感覚を取り戻す必要があった、肉体一つの自衛手段。

 未知の異世界を生き抜くための不可欠な基礎。

 月影の気絶中や食料調達中など、月影の見てないところで邪竜に修行を手伝ってもらっていた思い出が銀杏の脳裏に蘇る。


 それに、


(〝アイテムボックス〟……っ)



「……っ、何だ……っ⁉」



 異空間から取り出した消火器を、男に向かって吹きかけた。


 シュゴォォォオオッ!

 と、白く染まる周囲一帯。

 怯んだそのスキを逃さず、銀杏は男の裾を掴み、足を引っ掛け、背面へと押し倒し。


 背中から地面に叩きつけられた男に跨るように抑え込み、首筋に押し付けたスタンガンのスイッチを押した。



「マロンさんは返してもらいます」



 文明が進んだ、地球製のアイテムの数々。この異世界の住民にとってはどれもこれも未知の武器。このアドバンテージは大きい。

 こと対人戦闘においては、銀杏の力はその辺の高ランク冒険者にも決して劣ることはない。


 ――――はずだった。



「危ない……っ、何者だ貴様。何だその武器は? 間一髪だった」


「……っ、違法改造済みの高圧電流があなたを襲ったはずですが。どういうカラクリです?」



 気絶どころか涼しい顔をして動き出す男に、銀杏はとっさに距離を取る。

 動き出すどころか、男はノーダメージと言わんばかりの表情で、ゆったりと立ち上がった。


 ぱさり、と立ち上がった拍子にフードが外れる。

 露わになったその頭には、紛うこと無き、〝獣の耳〟が生えていた。



「……随分と、リアルなケモミミですね。この世界のファッショントレンドですか?」


「くっくっく……これか? 貴様のような小娘には到底理解のできん、魔獣研究の産物だよ」



 よく見れば先程までと比べ、眼球は血走っており、口内は牙らしきものが生えている。



「〝人獣一体化〟……魔獣の力の転用技術だ。気が狂うほどの実験と失敗を乗り越え、我々はついに一つの成果を出した。――――〝獣化薬(バーサクロイド)〟。魔獣のエネルギーを人体に取り込み行使できる薬品だ! こういうこともあろうかと、念のため摂取しといて正解だったな。即効性といえど発現まで数分かかるが、ギリギリ間に合った。今の俺は魔獣と同義、小娘が武器を持った程度で勝てる相手と思うなよ?」


「なるほど。それは、お手上げですね」



 高圧電流をものともしない防御力。マウントポジションで抑えつけていた際も、異常な怪力を感じた。それに、しっかり関節は極めていたはずだが、いとも容易く抵抗された。


 人体の常識はどうやら、通用しない。

 人体相手が前提の、銀杏の戦闘術も、力半減だ。


(聞いてもないことまで自らペラペラと……。手柄の自慢。権威の主張。この人が、薬品開発の第一人者ということでしょうか)



「それは、あなたが?」


「そうとも、俺のラボが生み出した叡智の結晶だ」


「『俺のラボ』、なるほど……もしやあなたが『エドガー』さんで?」


「……貴様、どこで俺の名を? 名乗った覚えは無いが」



 崩壊した研究所で盗み見たPCメールを思い出す銀杏。首謀者と思しき『青藍・エドガー』なる人物からの指令書だった。


「まあそれはともかく」と銀杏は流す。



「素晴らしい、とは言っておきましょう。研究成果、その一点に関してのみ言えば、非常に見事なのです」


「ふん、命乞いか? 今さら媚びてもどうにもならんぞ」


「言う割に、満更でも無さそうですね? ご安心を。一応、本心です」



 額面通りだ。心から、見事だとは思っていた。


 数々の異世界を見てきた女神をして、そんな薬品は聞いたことがなかった。


 魔獣は殺すべき敵。魔獣の力は恐るべき脅威。

 魔法の存在する世界ではどこもそれが常識であり、〝魔獣を利用しよう〟ということはあっても、〝魔獣の力を取り込もう〟などという考えには至らない。

 いや、考える人間はどこかにいたのかもしれないが、実用化に至っている前例は知らない。

 そんなことより普通に魔法を極めればいいのだから。魔法使いとして王道に強くなるための研究の方が、コストもリスクも低く済むからだ。


 しかしこの世界では、魔法研究はかなり遅れている様子だった。

 王道の魔法研究が停滞している間に、邪道の魔獣研究が芽を出してしまったということか。


(やはり、侮れませんね。不便な時代の、人類の創意工夫というのは)


 ただし、だ。

〝人獣一体化〟……聞くからに、不穏な研究だ。裏社会の組織の研究ということも鑑みれば、一体、どれほどのモルモットが犠牲となったことだろう。


 発展に犠牲はつきもの。……なんて言葉じゃ、きっと割り切れないのだろう、あの男は。

 銀杏の頭に浮かんだのは月影の顔だった。



「私としたことが、ミスりましたね。敵の未知の戦力くらい、前提で考えなければならないのに。希望的観測に伴う侮り…………認めるです。あらゆる事態への想定不足、冷静さを欠いて思考が鈍った私の負けなのです」



 マロンを連れ去っていると思しき男を見つけて、浅慮で突撃してしまった。


 本来であれば、見つけ次第、あらゆる戦闘準備を整えながら、しばらく男を泳がせるべきだった。

 マロンが生きているのは〝魔力サーチ〟で分かるし、わざわざ生きたまま回収した以上、目的地につくまでは殺されまい。上手くいけば〝青藍〟の本拠地にまで辿り着けるかもしれない。

 それが、銀杏にとって一番、ローリスクハイリターンな選択肢だった。


 でも、『一刻も早く助けたい』という気持ちが先行してしまった――――その感情を、蔑ろにできずに優先してしまった。


 月影に触発されているのだと、ここで初めて気付く銀杏。

 価値観が。

 あるいは〝心〟が。


 ふぅ、と少し大きめに息を吐く。

 認めよう。悪い気も、していない。だが、これは完全なるミスだ。理性と感情、切り離すべき場面では切り離さなければならない。


 感情を、尊重した上で。

 改めて冷静に、理性でもって選び取る。今この状況を切り抜ける、最善の選択を。



「提案があるのです」



 黄髪の女神は、淡々と、男に向かって言葉を投げる。



「あなたが連れ去ろうとしているマロンさん、――――と、私。交換しませんか?」


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