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異世界を救えハムサンド 〜無双の秋 女神の事情も色々大変〜  作者: 一星
第二章 冒険者ギルドで一目置かれましょう
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終焉の時は近い。

◯前話のあらすじ

月影が無茶して頑張ってるよ!

 黄色い髪を揺らしながら、銀杏はギルギガントとともに照山を駆けていく。


 街に下り、ギルドに応援要請した後、ジルの呼びかけで速やかに所属冒険者が招集された。高ランク冒険者やそのパーティが何人も何組も、今まさに月影のもとへと向かっている。道案内のため、二人は先頭だ。



「くっそ……、時間食った! まだ無事だろーな、月影の野郎! もうかれこれ四時間は経つか……? 応援要請に時間がかかりすぎだ。この緊急事態に、腰の重い連中ばっかで呆れるぜ……っ」


「まあ、タチの悪い冗談だと思われてたですもんね。まるでオオカミ少年です」



 ジルの権威で強制招集をかけるまで、冒険者達の集まりは酷いものだった。

『〝凶暴化〟した魔獣が少なく見積もって数百体』――――ギルギガントの報告はほとんど誰も、真剣に耳を傾けなかった。


 ジルも言っていたが、ギルギガントは人望はある方である。

 だがそれ以上に、あまりにも、彼らにとってその報告は信じられないものだった。



「? 狼……少年? 何だって?」


「いえ、なんでも」



 オオカミ少年の物語は当然、この世界の住人は知らない。つい、いつものクセで例えてしまった。そんな自分に、銀杏は心中で失笑をこぼす。


(月影さんとの会話が、『いつものクセ』ですか。……ほんの一ヶ月。そこまで長い付き合いでもないですけどね)


 銀杏は、女神だ。

 数々の異世界を管理する、高次元の存在だ。

 が、だからといって何でもアリじゃない。無敵でも全知全能でもない。

 女神には女神の問題があるし、厄介で不自由な〝社会〟に縛られるのは人も女神も同じ。例を挙げれば今まさに、銀杏は会社員として出張中の身である。


 この仕事が終わるまで、女神の世界に帰ることはない。この世界から移動することはできない。

 どころか、ほとんどの魔法も使えない状態で、才能ゼロの月影と一蓮托生ときたものだ。


 短くも長い、濃い一ヶ月。

 銀杏の記憶に蘇るのは、決して、ハムサンドの味だけではない。



「……このあたり、だな。改めて警戒を強めろお前ら!」



 背後の冒険者達に向けて一喝するギルギガント。


 道中に魔獣の死体が散見されるようになってきた。

 地面や木々に飛び散った血と肉片。魔獣の多くは心臓を貫かれて死んでいる。戦場はもう近い。



「銀杏、お前の〝サーチ〟圏内には、月影はまだ入んねーのか?」



 月影の安否を心配してそう問うギルギガントに、銀杏は淡々と返す。



「元々〝魔力サーチ〟に範囲限界などないですよ。私の魔力と集中次第。月影さんの安否はあえて確認してません。今は最低限、周辺数十メートルの魔獣だけ索敵してるです」


「何でだよ、心配じゃねーのか? 一瞬確認するくらい……」


「月影さんの現況がどうあれ、私達の取るべき行動に変わりはないので。全速力で現地に向かう、ただそれだけです。無駄なリソースを割くメリットがないのです」


「……この短時間で俺も、お前のことはだいたい分かってきたよ。ドライな奴だぜまったく」


「異論でも?」


「いーや、異議なし、正論だ。その年でその徹底した効率主義。末恐ろしいぜ」



 呆れた様子でそれだけ言い放つギルギガント。実際にはこの黄髪の幼女は人ならざる存在であり、見た目通りの年齢ではないわけだが、もちろんそんな暴露などせず銀杏は聞き流す。

 ただ、一つだけ、



「それに」


 と、クールな女神は申し添えた。


「月影さんなら、持ち堪えられるです。体力と魔力は理論上無限。あとは精神力の勝負なのです。何も、数百体全て討伐しろと言ったわけじゃありません。四時間ただ生存するくらい難しくないですよ」



 今の月影なら。彼の実力を鑑みれば。



 ――――『それを信頼と呼ぶのだよお嬢さん』



(……不覚。ジルさんの言葉を思い出させられました……癪な思いですね)


 などと。

 心中でしかめっ面をしている銀杏は、雑念で〝魔力サーチ〟がわずかに遅れた。


 動かしていた足が思わず止まる。〝サーチ〟よりも先に、銀杏の視界に、その光景は飛び込んできた。



「えっ」



 開けた場所だった。

 学校の体育館くらいはあるだろうか。


 その広場の全てが、魔獣の死体で埋め尽くされている。


 死屍累々。血肉の海。

 殺伐の二文字が具現化したような、まさに地獄絵図。


 その中央に、彼はいた。



「ハァ……ハァ、あ……やっと来た。ハァ……遅いですよ、銀杏さん」



 疲弊し切って、顔面蒼白。肩で息をしながら座り込んでいる月影。

 今ここで、息をしているのは月影だけだった。



「全部、倒しちゃいました……ハァ。よかったですよね?」



〝魔力サーチ〟を全開にして、周囲を探る銀杏。そして、その言葉が真実であることを知る。

〝凶暴化〟した魔獣はこの照山に現在、一体たりとも存在していない。



「おいおい……マジで、どんだけだよ月影お前……っ」



 絶句する女神の隣で、ギルギガントは、それ以上の驚愕と呆然に包まれている。背後の冒険者達も言わずもがなだ。


 そりゃそうだ。一体出現しただけでも、〝災害〟と表される脅威。

 事実、〝凶暴化〟したアイアンベアたった一体に月影は、命からがら辛勝だった。


 それがつい昨日の話なのだ。



「……成長、しすぎなのです。月影さん」


「? ぼそっと、何か言いました?」


「いえ……お疲れ様です」



 データを超えた、数値を無視した、理論を凌駕した、異常で超常な飛躍。

 この数時間、どれほどの無茶を繰り返したことだろう。


(『見極める力が足りない』と、説教したばかりですのに……)


 引き際も見極めず、ただひたすら、逃げることなく戦い続けたのだろう。


 おそらくは、応援部隊の犠牲を減らすため。

 銀杏だって、人命を軽んじているわけではない。が、無情な選択をしなければならないときは、迷うことはない。それが最善の道であるならば。


 綺麗事で世の中は回らない。全てを欲張れば、待っているのは破滅だ。

 自身のその考えが、間違っているとは銀杏は思わない。


 それでも、月影は全てを救ってみせた。

 強引に、力尽くで。思いもよらぬ、理屈じゃない限界突破で。

 肉体も魔法も、技術も経験も追いついていない未熟なまま。


 ただ一点、〝心〟のみで。



「…………」



 評価基準で言えば、減点だった。でも今、銀杏は、それを口にする気にはなれなかった。


 才能ゼロの月影に、唯一期待していたもの。期待以上だったもの。

 銀杏の口から漏れ出た言葉は、素直に。



「お見事です。今はただ、その〝強さ〟に敬意を」


「……照れるじゃないですか。らしくないですね、手放しで称賛なんて」



 長い戦いを終えた月影を労うのは、当然のケアである。褒めるべきは褒めねば伸びない。だから別に、『らしくない』などということはない。


 そんな、誰に向けたわけでもない弁明が銀杏の脳内を巡りながら。


 ようやく事態は解決。

 二人して一息ついた――――ところだった。





「……? ――――は?」





 まず最初に気付いたのは、〝魔力サーチ〟を発動中の銀杏だった。


 続いて、月影の細胞が震える。


 やがて、他の冒険者達も、気付く。

 その異変に。異常事態に。


 気付かない方がおかしい話だ。

 見える。聞こえる。空を見れば、その姿が。その咆哮が。



「え……邪竜さん?」


「いえ、別人です。別竜です。……他の竜がまだこの世界に現存していたとは。それも三頭も」






 ――――BBBooOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOォォオオッッッ‼‼‼‼






 禍々しく巨大な翼を広げ、殺気と狂気を振り撒きながら、上空を通過していく三頭ものドラゴン。


 アイアンベアが〝災害〟なら、この光景は一体何なのだろう。



「……カタストロフ、ですか」



 月影が呟いた。

 この世界は崩壊に向かっている。一番最初に銀杏が言ったことだ。


 終焉の時は近い。


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