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異世界を救えハムサンド 〜無双の秋 女神の事情も色々大変〜  作者: 一星
第二章 冒険者ギルドで一目置かれましょう
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もう少しだけ、無茶をしよう

◯前話のあらすじ

月影が一人で囮になって400体の魔獣と戦うよ!

「私は、特に心配していませんよ。精神力だけなら一級品。月影さんなら、この程度なら、乗り越えられると私は思ってるです。では、ご武運を」



 冷徹黄髪女神からの不意な激励は、月影の中で仄かな、それでいて重くて強いエネルギーを湧き上がらせた。


 負けていられない。

 負ける気がしない。


 何せ、異世界を股にかける女神の太鼓判だ。その期待に応えられなくてどうする。




「〝月影流〟――――〝大地・弾拳〟」




 盛大な着弾音が響いた。


 月影の眼前。

 最初に襲いかかってきたイノシシのような魔獣が、螺旋状に吹き飛んでいく。

 周囲の魔獣にぶつかりながら転がっていった先。イノシシの魔獣はすでに、その一撃で絶命していた。


 さて。


 火蓋は切られた。開戦だ。


 気を抜かず、油断せず。

 浮足立たず、基礎を忘れず。

 魔法を発動するために大事な、イメージすべきものとは何だったか?



 ――――『現象ではなくそこに至る〝力〟を、です。結果を妄想するのは誰にでもできますが、過程のエネルギーを認識するのは難しいものです』



(土。大地の力。世界の基盤、生命の神秘。安定と循環。決して崩れることのない、どっしりとした膂力。火のエンチャントと違って、解放じゃなく一体化のイメージかな。……アイアンベアのときは考えなしに脊髄反射で攻撃しちゃったけど、こんな森の中で火はマズいもんな)


 襲いかかる無尽蔵の魔獣達。

 を、一体ずつ確実に、洗練された一撃をもって仕留めていく月影。


 次々と。

 次々と。

 もう何十分が経つだろうか。



「は……ッ! 全然余裕だよクソッ、かかってこい……っ!」



 嘘だ。余裕など無い。

 自己暗示の空元気が月影の喉を震わす。


 魔法譲渡の副作用……全身の気怠さがとんでもない。

 学校なんか余裕で欠席するほどには体調不良だ。以前インフルエンザにかかったときを彷彿とさせる。――――いや構うな。雑念は捨てろ、目の前の敵に集中しろ!


 しかし、どれほど月影が完璧な集中力で対応しようとも、この大群の猛攻を完璧に捌けるわけがない。

 物理攻撃だけじゃなく、たまに魔法を使う個体もいるからタチが悪い。

 高電圧を全身に纏っていたり、かまいたちのような風の刃や音響兵器のような咆哮を繰り出したり……トリッキーな攻撃にも臨機応変に対応していかなければならない。


 何度も被弾し、疲弊していく。

 邪竜がくれた、自動回復機能付きの道着が無ければとっくに死んでいる。

 その自動回復にしたって、月影の魔力を消費する。魔力切れになれば詰みだ。



「――――〝エナジードレイン〟ッ!」



 飛びかかってきた狼の魔獣に、タイミングを合わせて拳を突き刺す。拳は狼の心臓を貫き、盛大に鮮血が舞った。


 同時に、月影の中に魔力が流れ込んでくる感覚。

 これで、消費した以上の魔力は補える。

 道着の自動回復機能と、〝エナジードレイン〟による魔力吸収があれば、理論上は無限に戦えるのだろう。


(……とはいえ)


 無条件で吸収し放題、なんていう使い勝手のいい魔法でもない。

〝エナジードレイン〟を使うためにもまた魔力を消費するのだ。消費エネルギーより吸収エネルギーが上回らなければ意味がない。


 魔獣の体内で一番エネルギーが強い、心臓に向けて的確に、発動しなければならない。

 今の月影の、効率の悪い魔法運用では、それでようやく収支プラスだ。一度たりとも失敗している余裕は無い。


 銀杏の言う通りだ。ワンミスだけでもう、致命的。


 そんな、綱渡りのような戦いを、かれこれ何十分繰り広げているのだろう。

 これから何時間、繰り広げることになるのだろう。


 一挙手一投足が命懸けのノーミスチャレンジ。

 終わりの見えない、地獄のような無限組手。


 さらには、挙げ句の果てに、


(……っ、アイアンベアも、何体いるんだよこれ)


〝凶暴化〟したアイアンベアは、マロン曰く、A級冒険者のパーティがようやく討伐できる相手だとか。

 それが今、視界に映るだけで、何体も、何十体も。


 これは、まずい。

 今ここに応援が駆けつけたところで、どれほど意味があるのやら。無駄死にが増えるだけだ。アイアンベアより強い魔獣がいないとも限らない。


 使い捨て前提の囮、くらいには増兵も役立つか。


 問題は、月影がそんな尊い犠牲を良しとしないこと。


 そしておそらく、銀杏はそんな尊い犠牲を良しとするであろうこと。



「…………」



 最善の道であることは分かる。

 綺麗事がリスキーなのも知っている。

 だけど月影にも、どうしても貫きたいものはある。


『応援が到着するまで、生き残ってみせるのです』……銀杏には、そう言われた。


 でも、生き残るだけじゃダメだ。

 もう少しだけ、無茶をしよう。



「なってみせるさ……っ、街の一つくらい守れる、強い男に」



 拳を強く握り、ゆっくり丁寧に、改めて構える。

 己の選択に一切の後悔などしない。あの日から、そう決めている。


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