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異世界を救えハムサンド 〜無双の秋 女神の事情も色々大変〜  作者: 一星
第二章 冒険者ギルドで一目置かれましょう
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魔獣。魔獣。魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔

◯前話のあらすじ

道連れ自爆の研究所から急いで脱出するよ!

「む……階段手前、魔獣に遭遇するです。〝凶暴化〟の個体です。月影さん、戦闘準備を」



 銀杏の指示通り、構えて魔法発動の準備をする月影。

 ――――だったが、



「いいや、構うな! 突っ切る!」



 止まることなく地を蹴るギルギガント。

 懐からフラスコのようなものを取り出し、その中に入っていた謎の液体を、少し離れた地面へとブチ撒ける。


 と、虎の魔獣の意識が明らかに、その箇所へと移った。

 隣を素通りしていく月影達に目もくれず、魔獣の足は謎の液体の方へと向かっていく。



「通称〝マタタビ〟。〝凶暴化〟した魔獣をおびき寄せる液体、だそうだ。さっきの研究資料に書いてあった薬品を部屋から奪ってきた」


「……っ」


「よく聞け新入り。〝凶暴化〟した個体は稀に、特殊な固有能力を持つ。アイアンベアも炎吐いたって話だろ? そいつはまだマシな方で、基本的に分類不能・多種多様な能力ばかりだ。こいつらに応戦するために人類は魔法を生み出したって説もあるくらいでな」



 ズガン……!


〝マタタビ〟の方に向かって走っていった魔獣が勢い余って壁に激突した音が響く。

 と……その周囲がみるみるうちに腐っていった。


 見れば、魔獣が走ってきたルートも。腐敗が足跡となってくっきりと残っている。


(触れたら腐る魔法……かな。あのまま戦ってたらと思うと……)


 邪竜の道着で回復はするだろうが、拳が腐る経験はさすがに、できればしたくない。思わずつばを飲む月影。



「まるで人間で言う〝異能(オリジン)〟。強ぇ上に初見殺し。いくらお前らがバカ強ぇっつっても、いちいち戦ってらんねーだろさすがに。どうせ建物が崩落したら、討伐するまでもなくこいつら全滅だ。俺達は逃げ切ることだけ考えりゃいい」


「……ふむ。なかなか有能なのです。見直しました、キリギリスさん」


「ギルギガントだ! 俺は虫けらか!」



 そのあたりは、さすがベテラン冒険者というべきか。

 ギルギガントの道案内に従い、遭遇する魔獣は〝マタタビ〟で回避しながら走り抜けていく。

 時折、〝凶暴化〟していない魔獣――――すなわち〝マタタビ〟が効かない魔獣も現れるが、難なく月影が撃破する。


 銀杏の〝魔力サーチ〟、月影の戦闘力、そしてギルギガントの予想外な大活躍が組み合わさり……やがて。



「っし…………、抜けたぁっっ!」



 崩落しゆくモンスターハウスから見事脱出、三人揃って地上の土を踏むことが叶った。


 月影の視界を満たしたのは、まず、シャバの光。

 続けて胸に湧いてくる、ピンチを脱した安心感。


 背後から聞こえてくる、建物がいよいよ限界を迎えて無惨に潰れていく崩落音。


(っぶな……、本当にギリギリだったのか……っ)



 そして――――太陽の逆光に目が慣れ始め、月影の視界に映ったのは。



「……、え?」



 研究施設周辺を取り囲むように、月影達を睨みながら近付いてくる、夥しい数の魔獣。


 魔獣。魔獣。魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣。



 周囲一帯、四方八方。

 見渡す限りの方向から聞こえてくる唸り声。


 さすがの、ギルギガントもピタリと固まり、冷や汗を流して苦笑していた。


 表情を変えない銀杏はどんな思いでいるのやら、周囲をぐるりと見渡して、一言。



「ざっと400体。全個体エネルギー暴走――――〝凶暴化〟してるですね」


 絶望的状況を淡々と告げられ、改めて固まる月影とギルギガント。



「先程私達がいた部屋から、おそらく、さらに地下。予想以上の魔獣が飼われていたようです。……私の〝魔力サーチ〟はレーダー的な二次元認識なので、Z軸座標に重なっていると数が分かりづらいのが難点ですね。地下から伸びる複数の隠し通路があったようで、そこから各所に出ていたです」


「じゃあとっくに〝サーチ〟で把握してたんですか?」


「それどころじゃなかったので、教えても無意味かと。まず私達が無事脱出することに全リソースを割くべきでした。雑念は有害です」



 言う通りだ。月影達が何をどうしたところで、この現実は変わらない。


 ここをどう切り抜けるか。この絶望にどう対処すべきか。今考えるべきもまた、それだけだ。


(……ただ僕達が逃げおおせても、危機が去るわけじゃないよな)


 たった一体。

〝凶暴化〟したアイアンベアの目撃情報たった一つで、街への危険を考えて調査隊が組まれるほどだ。この世界の住人にとっての、この光景の脅威度は推して知るべしだろう。


 というより。アイアンベア一体に悪戦苦闘していた月影にとっても、普通に絶望である。


 だから――――月影は、選択を迷わない。



「〝マタタビ〟、まだありますか?」


「……ああ、少しだけな。これをいかに活用するかが突破の鍵に――――」


「全部ください」


「えっ」



 ギルギガントが懐から取り出して見せた〝マタタビ〟を、その手から奪って月影は、自分の頭から浴びた。



「……っ、お前……っ」


「僕が残ります。お二人で、先に」



 唖然とするギルギガントにそう言い放ち、心身ともに、戦闘準備をする月影。



「バカか、無茶すぎんだろ! 『先に』っつっても、そもそも逃げれねーし……」


「大丈夫、銀杏さんは空を飛べます」


「は? 空を?」


「無茶は承知なので、早く応援を呼んできてください」



 全員逃げたら、放置されたこの魔獣達がどう動くか分からない。すぐそこにある街が危ない。

 この山中で全てを解決するには、誰かが残って、全ての魔獣を引き付けておくしかないのだ。


 そんなことは、ギルギガントも百も承知だろう。いくら月影といえど自殺行為だから提案しなかっただけだ。だが、〝マタタビ〟を被った月影はもう引き返せない。


 言葉に詰まったギルギガントは、歯を食いしばりながら撤退へと足を向ける。これ以上は、交わす言葉の一つ一つが致命的なロスタイムだ。


 そして、銀杏もまた、



「まったく……。無謀と勇敢を履き違えるのは、中途半端な実力者にありがちな愚行なのです。自殺を是とはできません。『ワンチャンいける』と思い上がってましたか? あなたはやはり、〝見極める力〟が圧倒的に足りていませんね。……今は、それだけ。説教する暇は無さそうなので、端的に、用事だけ済ませるです。――――おでこを出してください」


「ぉわ……っ!」



 出してください、と言いながらも実際には、月影の頭を掴んで強引に引き寄せるように。


 銀杏と、おでこを合わせる。

 瞬間、月影の脳に流れ込んでくる膨大な情報。



「う、……っ」


「今回はちょっと、魔法に器が追いついてないのです。キツいかもですが、耐えてください。食い殺されるよりマシでしょう」


 頭がクラクラする。

 全身の細胞が痛みでも痒みでも痺れでもない謎のアラートを鳴らし続けている。

 強い風邪でも患った感覚。身の丈に合わない魔法譲渡の副作用ということか。


 銀杏から新たに授かる、〝異能(オリジン)〟。その全容を把握した。この魔法に名前を付けるなら、



「〝エナジードレイン〟……」


「月影さんなら、各個撃破はできるです。問題なのはその量。――――この魔法を上手く活用できれば、エネルギー枯渇で詰むことはありません。あとは、無尽蔵の鬼レベル無限組手に耐える精神力があるかどうか。アイアンベアのときを思い出しなさい、ワンミスが致命的なのです。気を抜かず、油断せず、集中力を保ち続けるのです。応援が到着するまで、生き残ってみせるのです」



 いつもより早口でまくしたて、異空間から取り出した空飛ぶ絨毯にギルギガントを乗せる銀杏。

 周囲の魔獣がすぐそこまで迫っている。もはや一秒の無駄話もしている余裕はなく。


 しかし。

 早口でこそあれ、淡々とした声音。相変わらずの無表情。



「発令です。緊急〝修行(クエスト)〟【無限組手】」



 その余裕そうな顔には、微塵も、焦燥の色は浮かんでいない。



「大きく減点からスタートです、月影さん。その浅慮な行動は褒められたものじゃありません。ダメダメです、あとで説教です。――――が、そのマインド、心意気、即決即断には、それ以上の加点を」


「……っ」


「異世界転生プロデュース、ステップ20『街を一つ救いましょう』。……緊急の強制イベントとはいえ、これほどの短縮は異例なのです。私も始末書モノですよまったく。でもこれをクリアした暁には、一気にステップアップです。〝エナジードレイン〟は前払いのクリアボーナスと思っていただければ」


「……助かります。いえ、助かるかどうかは僕次第でしたか」



 そうして空へと飛んでいく銀杏達。

 言い残した言葉が、最後にもう一つだけ。どんな表情をしているのだろうか、残念ながら顔は見えなかった。



「私は、特に心配していませんよ。精神力だけなら一級品。月影さんなら、この程度なら、乗り越えられると私は思ってるです。では、ご武運を」


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