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異世界を救えハムサンド 〜無双の秋 女神の事情も色々大変〜  作者: 一星
第二章 冒険者ギルドで一目置かれましょう
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ひろゆきをただの『物知り論破おじさん』だと思ってませんか?

◯前話のあらすじ

〝凶暴化〟した魔物がヤベェから照山を調査するよ!

 とは言ったものの。


 調査そのものは拍子抜けするほど簡単に終わった。

 銀杏の〝魔力サーチ〟のおかげで、道中で魔獣に遭遇せずに済むどころか、調査すべき目的地も容易く見つけてしまったからだ。


 曰く、「近くに、魔獣の魔力が不自然に集結している区画がある」と。


 結果から言えばつまり、アイアンベア出現の原因は、縄張り争いなどではなかった。


 その『区画』に足を運んで見れば、まさしく不自然。交通インフラも整えられていない山奥、人里から隠れて秘密裏に存在しているとしか思えない、人工的な巨大建造物がそこにあった。


 研究所――――と、そう呼ぶべきだろう。

 入口の上部には『Aー21棟』と刻まれている。建造物の外観を見る限り、決して、バカンス用の別荘などでは無さそうだ。



「……この中に、魔獣の魔力が集結してやがるって?」


「はい。逆に、人の魔力は感知できません。今が家探しのチャンスかと。行きましょう」



 そうして三人で研究所内に侵入する。内部構造もまた、快適さとは程遠かった。地下へ地下へと広がっているため窓も無く、複雑な構造の廊下はまるで迷路だ。


(……テレビ局なんかも、テロリストに占拠されたりしにくいように、複雑な構造になってるって聞いたことあるな)


 敵の存在を前提とした、侵入者を拒む造り。

 もはや、家探しするまでもなかった。歩けば目に入る。見れば分かる。

 数々の装置に繋がれた、ホルマリンのような液体に沈むアイアンベア。

 無数の檻と、その中に入れられ暴れている多種多様な魔獣達。

 また別の部屋には、棚にずらりと並べられた謎の薬品、机に散らばった書類の束。


 紙面に書かれているのは、研究データだ。

 案の定、やはりそこには、『凶暴化』の文字が散見された。



「おいおい……どうなってんだ? 人為的な〝凶暴化〟の実験だと? この国で、魔獣の軍事転用研究が進んでるなんつー話は聞いたことないが……。魔法研究や教育に金をかけて国力を上げた方が圧倒的にコスパが良いって、とっくの昔に結論付けられたんじゃなかったか?」



 ギルギガントもまた、ここで何が行われていたのか察したようだ。

 研究書類を読み漁るギルギガントの傍ら、近くにあるモニターを起動し、キーボードを叩き始める銀杏。



「パソコン……あるんですね、この世界にも」


「そのようですね。低速・低画質、マウスもキーボードも当然のように有線で、マックブック愛用の私から見たら腹立たしいほど低次元ではあるですが。見たところ、スペック諸々は90年代のそれですよ。ゴミカスなCPUに10MB前後のメモリ、HDD容量も信じられないほど低い、時代錯誤の遺物です。当然、通信技術も進んでないでしょう。一枚の画像を表示するだけで何十秒もかかっていたあの頃のストレスフルインターネットを思い出してエモさは湧くですね」


「いや……『あの頃』を知らないんで何とも。ストレスなのにエモいんですか」


「デジタルネイティブ世代はこれだから……。不便な時代ほど人々の創造性は輝くのです。脱帽としか言えないアスキーアート職人達の発想と創意工夫をご存知で? ひろゆきをただの『物知り論破おじさん』だと思ってませんか?」



 日本の文化に染まりすぎである。

 黄髪幼女の女神は肩を竦め、続ける。



「とはいえ、この世界の文明レベルを考えたら、十分以上にハイスペックです。街で普及している様子は無かったので、研究施設などでのみ使われる高級機器といったポジションでしょうか。……? ――――え?」


「? どうしました?」


「………………。……いえ、何でも。今はとにかく、情報のサルベージが最優先です」



 パソコンを操作していた銀杏の手が一瞬止まった。


 が、思わずといった様子で浮かべた訝しげな表情もすぐに引っ込め、再び作業に戻る。

 ……何事だろうか。『今言うべきことじゃない』と言うのなら、これ以上聞くわけにもいかないが。


 あの銀杏が。


 多分、月影と出会って初めて、明確に、感情を表情に出したのだ。

 月影にしてみれば、ただ事ではない。



「インターネット、と呼ばれるような大層なものはこの世界には無いでしょう。計算機としての使用が主なのと、あとはメールの送受信はしてるですね」


「さすが……異世界のパソコンだろうとお構いなしの手捌きっぷり。そろそろ言わせてもらいますけど、女神のくせにオタクすぎるでしょ銀杏さん」


「……別に、大したことはないのです。構造もシンプルですし、他人に見られることを想定してないせいでセキュリティも脆弱極まりないですし。――――はい、見つけました。私達が探すべき〝確信〟。少なくともこれで任務は完了ですね」



 慣れた手付きでキーボードやマウスを操作し、あらゆるフォルダが表示されていたモニター。その中の一つをダブルクリックしながら銀杏はそう言った。


 一通のメール。

 その差出人の欄に見えた、『青藍』の二文字。



【差出人:青藍・エドガー】

【件名:作戦失敗】【本文:〝凶暴化〟実験の個体が1体、Aー21棟の近辺で目撃・討伐された。研究は中止。施設ごと破棄する。緊急マニュアルC17パターンに移行せよ】



 なるほどたしかに、他人に盗み見られることをまるで想定していないメールだ。


〝青藍〟の研究施設であることが丸分かり、暗号や隠語なども用いておらず直球に本題を示している。



「研究は中止……なるほど、だから施設内がもぬけの殻だったんですね」


「……。いえ。そんな呑気な感想を述べている場合ではないですね。これは、やられました。はめられたです」



 焦りが伝わる、言葉を口にする銀杏。表情はやはりクールだが。



「急ぎ、脱出です。……と言っても、今さら間に合わないでしょうね」


「? どういうことだ? はめられた?」



 書類から顔を上げ問うギルギガントに銀杏は、端的に最速に、最低限の言葉で説明する。



「彼らは何故施設ごと破棄しようとしてるです? それは、見られちゃいけないものを見られたからです。では何故、まだ建物はおろか資料までそのままにして放置されてるです? それはもちろん――――後に調査に訪れた調査員(わたしたち)を、道連れにするためです」



 直後、だった。



 ズゥウウウウウウンッッッ‼‼ と、建物全体が震えるほどの、地鳴り。



 続き、四方八方から聞こえる爆発音と崩落音。もはや確認するまでもなく分かる。建物全体が倒壊している。


 いいや、それはただの現象、結果に過ぎない。

 より正確には、



「暴れてる、ですね。研究所内の魔獣達が」



 耳をすませば、倒壊音に混じって聞こえてくる、遠吠えに鳴き声に唸り声。


 三人は顔を見合わせ、瞬間、地を蹴って部屋を飛び出していく。


 施設のかなり奥深くまで来てしまっていた。

 現在いるのは地下。近くの窓や壁を壊して脱出というわけにもいかず、最悪のポジショニングだ。

 あるいは、そこまで含めて手の平の上か。



「これみよがしに研究書類を放置してたのも、私達をあの部屋に釘付けにするためでしょうね。調査に来たのですから、あんなきな臭い書類があればスルーするわけありません」


「それで、僕達があの部屋で調査してるタイミングで、トラップ発動ってわけですか……!」


「データ通信が実現してるですから、監視カメラがあっても何も不思議じゃないです。私達がまんまとおびき寄せられたところに、起動されたモンスターハウス。倒壊で死ぬのが先か、魔獣に食い殺されるのが先か。監視カメラがあるのなら、どこかでデータも取ってるかもですね。魔獣を解放するというただ一手で、施設の破棄、口封じ、データ収集まで叶うです……さすが、研究者らしいコスパの良さですね」


「感心してないでっ! 今僕達、大ピンチですから!」


「お前もな! 叫ぶ余裕あるなら走るエネルギーに回せ! ――――次の角、右だ!」



 ギルギガントの指示に従い、右折。

 彼はその後も次々と、ルート選択のたびに迷うことなく先頭切って駆けていく。



「もしかして……入り口までのルート全部把握してるんですか? この迷宮みたいな施設を」


「そりゃそーだろ。未知の領域に踏み入るときは、何よりマッピングが大前提の基本だ。覚えとけ新入り! 次は右の階段だ!」


「む……階段手前、魔獣に遭遇するです。〝凶暴化〟の個体です。月影さん、戦闘準備を」



〝魔力サーチ〟で銀杏が予告した通り、直後、月影達の前に魔獣が姿を現す。


 アイアンベア、よりは小柄か。

 大きな虎のような魔獣が、鋭い殺気を宿しながらその眼光を月影達に向けた。


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