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異世界を救えハムサンド 〜無双の秋 女神の事情も色々大変〜  作者: 一星
第二章 冒険者ギルドで一目置かれましょう
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もう驚かねーけどよっ!

◯前話のあらすじ

ギルギガントと一緒に照山へフィールドワークに行くよ!

『そういえば、照山でマロンが襲われたという魔獣……アイアンベアだというのは本当かね? それも、〝凶暴化〟していたと』



 先程の、応接間での会談の後である。


 銀杏がマロンの栗プリンを食している、会談のアディショナルタイムでジルが問うてきた質問だ。


 ジルが取り出した資料で、アイアンベアの姿形を確認する月影と銀杏。見る限り、間違いない。〝凶暴化〟した際に現れるという体表の特徴も一致していた。



『もぉ、だから言ったじゃないですかお祖父ちゃんっ』


『すまんすまん。マロンを疑っていたわけではないのだ。何重にも確認しておかねばならん事案での』



 ぷりぷりと頬を膨らませるマロンを穏やかになだめつつも、ジルの表情は深刻になっていく。



『その魔獣が、何か問題でもあるです?』


『本来、照山なんぞに出現するような魔獣じゃないのだ。それに、〝凶暴化〟それ自体も滅多にないレアケース。非常に稀な偶然なのか、そうじゃないならあるいは、何者かによる必然か』


『何者か?』


『以前捕らえた〝青藍〟のスパイというのがまさに、〝凶暴化〟に興味を示していたのだよ。うちの〝魔力研究室〟の、〝凶暴化〟にまつわる研究資料ばかりを盗もうとしていた』


『私達が遭遇したアイアンベアは、〝青藍〟によって意図的に、〝凶暴化〟させられた魔獣であると? 一体何のために?』


『魔獣の兵器化。どの国の軍も議論しておる机上の空論だ。人類史の数万年、未だ直面し続けている〝魔獣〟という厄介な未解決問題は、裏を返せば、それだけ巨大なエネルギーと言える。制御さえ完璧にできれば、ノーリスクの使い捨て戦略兵器として、いくらでも活用できよう。極めつけは、それでいくら被害が出たところで、不運な魔獣災害として〝事故〟で片付けられる点か。災害という最強兵器をコントロールする術など、軍事関係者なら喉から手が出るほど欲しいだろうよ』


『……なるほど』


『だとすれば、〝凶暴化〟の研究に熱心なのも納得がいくですね。敵陣に送り込んだ爆弾が線香花火じゃ困るです。爆竹やネズミ花火のように暴れ回ってナンボです』



 主に月影に向けられた、銀杏の補足説明。

 線香花火などの概念を知らないジルは疑問符を浮かべた様子だったが、『まあ納得できたならよい』と流す。



『当然、軍事力を求めるのは国だけではない。秘密裏に兵器開発を目論む反社会勢力が、あの山で魔獣の制御および〝凶暴化〟の研究・実験を行っていた可能性がある』



 そうして。

 最後にジルは、居住まいを正して続ける。



『というわけで――――最初の任務を与える、月影、銀杏。このアイアンベアについて、秘密結社〝青藍〟との関連性を調査してきてくれ』






〝幻影室〟としての任務は、ギルドマスター直属の隠密活動だ。

 故に、ギルギガントには『照山に生息する魔獣の調査・討伐』という、フィールドワークさながらな名目でジルから説明されているようだった。


 出くわす魔獣の生息地や行動パターン、危険度や討伐報酬など、教育係らしく教鞭を垂れながら二人の前を先行していくギルギガント。


 やがて。

 昨日、月影がアイアンベアを討伐したその地点まで、到着した。



「……本当にここで、アイアンベアが? そんな危険な魔獣が出現するような場所じゃねーんだが」


「いたのは事実です。月影さんが討伐しました。たまたま気まぐれな個体が、散歩がてら山を下りてきたのでは?」


「アイアンベアの生息地は〝上〟じゃねー、照山を越えてもっと〝奥〟だ。危険な魔獣だらけで、天敵も多い。あの辺の魔獣は、自分達の縄張りから外に出ることは滅多にねーんだよ」



 はぐらかすための適当な銀杏の返答を、バッサリと一刀両断するギルギガント。


〝幻影室〟の任務を知られてはならない以上、〝青藍〟のことも伝えることはできない。



「つーか、本当に討伐したのか? 死体も無ぇみてーだが」


「あるですよ。……ほいっと」



 銀杏が言うところの、『アイテムボックス』。

 魔法でどこか別空間にでも片付けられていたらしいアイアンベアの死体が、月影達の目の前に突如として現れた。

 その謎現象に、言葉を失うギルギガント。



「……、……っ、今、どこから?」


「魔法に決まってるです。異空間に収納スペースがあります」


「お前の〝異能(オリジン)〟は『魔力サーチ』っつってなかったか?」


「? それもあるですけど。……ああ、なるほど。ここの常識では、複数の〝異能(オリジン)〟持ちはレアケースなのですね」



 ギルギガントのあまりの絶句っぷりに、何かを理解したらしい銀杏。

 認識を共有するべく、続けて月影にも言葉が向けられる。



「まだまだ私の認識が甘かったようです。この世界の魔法は、予想以上に進んでません。少々、常識を更新する必要がありそうです。後々になってこのズレが不都合を生んでも困るです。とりあえず、普通は〝異能(オリジン)〟を複数扱えないものだと、覚えといてください」


「そうなんですか? いやでも、邪竜さん……は、規格外だとしても、ギルドマスターも魔法二つ使ってませんでしたっけ?」


「ええ。ですから、ジルさんも規格外のレアキャラだったということですね。強さのみならず、その存在自体がです」


「いや……当たり前だろ、〝滅竜伝説〟のジルさんだぞ。嘘か真か、その昔ドラゴンを討伐したことがあるっつー……世界有数の英雄だ。本気で、マジで知らねーのかお前ら?」


「滅竜……ああ、何かそんなこと言ってたっけ。世界有数か……思ってたよりすごい人なんですね」



 信じられないものを目の当たりにしたような表情でギルギガントは驚いていた。あと、分かっていたことだが、月影達が記憶喪失だという話もハナから信じられてはいないようだ。


 この世界の人間なら知らぬ者はいないほどの存在。記憶喪失でこそないが、そもそもこの世界の人間でない月影達は、もちろん知らなかった。



「……月影、まさかお前も、〝異能(オリジン)〟を二つ使えるなんて言わないよな?」


「使えますよ。さっきも使ってましたよ。〝月影流〟と〝エンチャント〟……肉弾戦の強化とサポートなので、傍目には分かりづらいかもですね」


「二つだけじゃないですよ。月影さんはこれからまだまだ、追加で習得していってもらうです」


「は……? 〝習得〟は、ギルマスの〝異能(オリジン)〟だろ」


「ではなく。普通に習得です。修行で覚醒させたり、私の魔法でインストールしたり」


「…………ああ、理解した。お前らの『普通』が全く普通じゃねーことを理解した。ずっと、何言ってんだか分かんねーよ、このバケモノどもめ。頼もしい限りだぜ」



 呆れ顔で、それでいてわずかに、その表情に嬉しさを滲ませている様子のギルギガント。


〝教育指導室〟のトップ。ギルドの戦力増強に携わる立場として、『頼もしい限り』というのは、他意無く文字通りの意味だろう。



「とにかく――――ここでアイアンベアを討伐したというのが本当なら、まあまあ異常事態だな。しかもこの死体……〝凶暴化〟してんじゃねーか。この災害レベルの脅威をたった二人で討伐したっつー荒唐無稽エピソードはもう驚かねーけどよ」


「いえ、実際に戦ったのは月影さん一人です」


「もう驚かねーけどよっ!」



 自分に言い聞かせるように、声を張ってリピートした。



「〝凶暴化〟のプロセスは諸説あって解明されてねーが……一説には、魔力のオーバーヒートが原因だと言われてる。生態系が乱れるほどの縄張り争いがあった際なんかによく見られる現象でな、超簡単に言えば、ファイターズハイが極まった上に慢性化してるっつー説だ」


「生態系が乱れるほどですか……とんでもないな」


「乱れねー方がおかしいだろ。アイアンベアレベルの魔獣が種族規模でドンパチやってんだぜ? しかも今回は、〝奥地〟にとどまらねー、こんな山の麓にまで出現しやがった。争いの範囲がこの近辺にまで拡大してる可能性がある。……控えめに言って、やべーな」



 ギルギガントの中の、スイッチが切り替わるのが見て取れた。

 表情に滲む緊張感と覚悟。月影もまた、息を呑む。



「調査する必要があるな。このまま放置して街に被害が出ないとも限らねー。研修のフィールドワークは中断、俺の独断で緊急任務だ。いいか、お前ら?」



 願ってもない。その調査こそまさに、月影達が望み、請け負っている本来の仕事だ。


〝青藍〟が無関係だったとしても、今の話が本当なら、どうあれ急いで事実確認をすべきだろう。


 二人からの異論がないことを確認し、ギルギガントは調査に乗り出した。



「お前らの実力を見込んでだ。ギルド入ったばっかなのに、悪いな付き合わせて。方針は調査のみ、とはいえ、任務のレベルはA級は超えるだろう。俺のパーティでも危険な仕事ってことだ。慎重に行くぞ」


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