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異世界を救えハムサンド 〜無双の秋 女神の事情も色々大変〜  作者: 一星
第一章 山籠もりの修行で魔法を覚えましょう
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やかましいですね。ぶん殴るですよ

○前話のあらすじ

山籠りを修了して、女神から新しくエンチャントの魔法が譲渡されたよ!


「……ぁぁぁぁあああああああああ、ぉわああぁあぁあぁあっっっ! あああああぁぁやばいやばいやばいっっっっ‼‼ おち、落ちる、ああああああああああっっっ‼‼」


「落ちませんってば。いいから落ち着けです」


「ほ、本当に? 大丈夫ですか? 落ちないようになってますっ???」


「はい。月影さんの握力とバランス感覚さえしっかりしていれば」


「じゃあ普通に転落死あるじゃないですかっ! やばいやばいやばい!」



 二人乗りの空飛ぶホウキが木々の上空を滑っていく。


 本能のままに騒ぐ道着の男と、やはり淡々と落ち着いている黄髪の少女。対照的な二人が、緑一面の景色を猛スピードで置き去りにしていく。



「私や月影さん自身を直接浮かしてあげられたらよかったんですけどね。転生してただの少女の体である今の私ではこれが精一杯です。落ちないように頑張ってください」


「せめて、絨毯にしてくださいよっ!」


「速度が出ないんですよ、あれ。大きいので」


「ゆっくり行きましょうよっ! 何をそんなに急いでるんですか! 邪竜さんとの別れ際からそうでしたけど……!」



 一ヶ月も一緒に過ごした邪竜とも、「それでは」と一言の挨拶であっさり終わらせていた。月影としても、今までのお礼も伝えきれないままだ。

 しかしそんな月影にむしろ銀杏は首を傾げる。



「邪竜さんはだって、『別れ』ってほどじゃないでしょう。月影さんが卒業したのは【臨死地獄(ドラゴンクエスト)】であって、邪竜さんとの修行はこれからも継続的に行っていただきますよ」


「あ、そうなんですか?」


「言ってませんでしたっけ。それに彼はこの世界の管理者です。我々の、このプロジェクトの最終目的をお忘れですか? 〝世界の歪み〟の原因を見つけて正すまでは、縁は切っても切れません。人里に下りるのはあくまで、情報収集目的が主軸です」



 そういえば、そうだった。地獄の修行漬けで月影の脳からすっかり抜け落ちていたが、そもそもそういう契約でこの世界に転生している。女神的には、〝月影が強くなる〟のはそのための手段に過ぎない。


 何にせよ、邪竜との交流が続くというのは朗報である。高所の恐怖が薄れて落ち着くくらいには、嬉しさが月影の胸中に湧き出てくる。



「だいたい……今度はどこに向かってるんですか? 何て言ってましたっけ、『王女を助ける』?」


「あるいは冒険者か村娘です。ああ、冒険者というのは、魔獣討伐や素材採集を生業とする人達のことです。〝冒険家〟とは別物ですよ」


「いやだから、つまりどういうことです? その人達を助けるというのは?」


「貴族のコネか、冒険者や地元民とのパイプがあれば、街での居場所作りから権力獲得から……後の月影さんのステップアップがスムーズになるです」


「……要は、恩を売れってことですか?」


「そうです。恩というのは売れば売るほどお得な、コスパ最強の信用取引なのです」


「うわ……」



 黄髪の社畜OLは言い切った。

 銀杏の合理主義っぷりは前々から思うことがある月影だったが、もうここまで来ると呆れを越えて清々しさも通り越して、二週目の呆れに突入する。



「異世界転生、成功例のパターンですね。どんな業界も長く続けば定石というものが生まれます。分かりやすく言えば〝テンプレ展開〟を、なぞれば間違いないのです。王族貴族のピンチに遭遇するという偶然はまあ期待できませんから、現実的には冒険者か、魔獣に襲われそうになっている一般人ですね。それも、できれば子供が好ましいです。意地汚い大人だと、純粋な感謝よりも、損得や利用価値でしか見られないハズレくじの可能性が高くなるです」


「損得や利用価値で恩を売る意地汚い子供も世の中にはいますよ。たとえば僕の目の前に」


「一緒にしないでください。合理的でこそあっても、私のどこが意地汚いですか」


「いや……食料調達失敗してほとんどご飯抜きみたいな日の僕の隣で、平気でバーベキューしたりする食い意地とか」


「……。やかましいですね。ぶん殴るですよ」



 反論できなくなったら暴力に訴える子供でもあるらしい。


「とにかく」と仕切り直すように、人間味溢れる女神は続ける。



「魔獣に襲われそうになっている少女を、今から助けに行くですよ」


「……乗り気はしないなぁ。人の命を自分の都合で利用してるみたいじゃないですか」


「割り切ってください。ビジネスとは得てしてそういうものです。結果として人の命が救われて、全ての収まりが良いのです。それともあなたは、大金を寄付するインフルエンサーを『売名行為』と批判しますか?」



 いつものように身も蓋もない例えを述べて、銀杏はさらに続ける。



「それにもう、すでに、〝絶体絶命の少女〟はサーチの魔法で発見済みです。だからこうして全速力で急いでいるのです。月影さんがどうしてもと言うなら、見なかったことにしますが?」


「……っ、そんなの……」



 するわけがない。

 助けを求める人がそこにいるというのなら、助ける以外の選択肢なんて、月影の中に無い。

 人助けに迷わない男になるために、月影は強くなったのだ。


 その想いは、その信念は、銀杏も知るところ。月影がどういう選択をするかなんて分かっていると言わんばかりに、それ以上の問答は飛んでこなかった。


 そうこうしている内に、見えてきた。日本で言うところの中学生くらいの少女が、森の中を必死に逃げている。その数メートル背後に、熊じみた大きな魔獣が迫っている。



「見かけはバケモノですけど、月影さんの勝てない相手じゃありません。今までの修行の成果をどのくらい発揮できるか……〝修行(クエスト)〟【初めての魔獣討伐】発令です。今までと違い、これは実戦なので、気を引き締めて臨むように。――――では、このまま降ります。いいですね?」


「は、はい……分かりました。とりあえず、助けます……! ……え、あのバケモノ本当に僕勝てますか?」

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