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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
irregular
70/79

分からない

三点リーダーとか空白の記号挿入機能にやっとこ気付いたので、既投稿分もそのうち直します

 そういや前…三度目の彼岸の後にも、こんな風に目が覚めたら病床の上だった。

 あの時は視界も不明瞭な中で問診が始まってキツかったが、今回は神原のおかげで視界が明瞭どころか身体が動かせる。


 …神原が戻ってくるまでに自分にできる範囲で状況を確認しておくか。


 そう考えた俺はぐるりと真っ白な病室を見回して___点滴スタンドに掛けられた三つのパックが目に付いた。

 どうやら混ぜて使う薬剤らしく、パックの表面にはそれぞれ「一」「二」「三」と番号が振ってある。パック内の薬液は無色透明であるにも関わらず混ざったあとの色がやけに毒々しいのは一体どういうことだろうか。

 ……だが、まあ。今こうして動けている以上変な成分は入っていないだろう。………多分。


 そっと点滴から目を離して先ほど神原が色々取り出していたクーラーボックスを開けてみると、大量のゼリー飲料が入っていた。よく見れば、隠すようにクーラーボックスの陰に置かれたゴミ箱に同じパッケージがいくつも詰め込まれていた。


 ……これは………まさか、神原が?

 だとすれば、相当な間ここにいたことになる。いくらこのゴミ箱が状態保存の魔導具であるとはいえ、満たされれば回収して捨てるだろう。

 にも関わらず、既にこれだけの量が入っているのなら……冗談抜きで、俺が昏睡してる間ずっとあいつはここにいた可能性がある。


「なんで___」

『…君、それ本気で言ってるのかい?』

「!?」


 聞き覚えのある声。だが一体どこに___と思っていると、コンコンコンと窓硝子がノックされた。


「……」


 ゆっくりと点滴スタンドを掴んで、杖のように体重を預けながら窓辺に歩み寄る。生憎開けないように枠に板硝子が嵌め込まれただけの窓だったが、外の景色とともに小さな丸っこい狐の姿が鮮明に確認できた。


「……穂稀さん。」

『や。おはようねぼすけさん。』


 小狐は窓の外の出っ張りの上で器用に耳を掻いて小さく欠伸をした。


***


「……で、どう意味ですか?」

『何が』

「さっきの『本気で言ってるのか』、ってやつです。」

『ああ。あれのことか。』


 穂稀さんは思い出したようにそう言って、小さく唸った。

 どうやら今回は小狐と穂稀さんの意思は連動していないらしく、ふくふくと丸い白い狐は退屈そうにその場に寝そべっていた。

 丸々とした体型に白い体毛が相まって、さながら鏡餅のようだ。


『うーん……本気で分からない?』

「……?」


 普通に考えれば……心配からの行動だろうが、神原が俺をそこまで心配するとは思えない。

 だとしたら___


「……不安、か?」

『そのこころは?』

「神原にとって俺は、事情を知っていてかつ話しやすい相手だろうし、しかも今後の出来事に大きく関わってくるとなれば___」

『あーはいはい。分かった。

……この鈍感。ラブコメ主人公じゃないんだぞう。』

「……何言ってるんですか?」


 らぶこめ?鈍感?

 ………どういう意味だ?


『はぁーあ。棗くん可哀想に……君の思いは微塵も伝わってないみたいだよ………』

「……勝手に神原の内心を図らないでくれませんか?そんなわけないでしょう?」

『……事実なんだけどなー。君、もう少し他人の感情の機微に気付けるようになった方が良いと思うよ。』


 この場にいたなら唇を尖らせていただろう呆れ具合で穂稀さんは『やれやれ』と呟いた。


『どうやら君には言葉にしなきゃ伝わらないみたいだ。……ね、神原棗くん。』

「え?」


 どうして神原に___まさか。

 ゆっくりと振り返ると、扉の前で神原が静かに佇んでいた。

 俯いていて表情は見えないが、どうやら……怒っているようだ。なぜ。


「神原……?」

「……急患が来てすぐにはお医者さん来れない、って伝えに来たんだけど……今の話、本気?」

「今の、って…何が……」

「僕がいつそんなこと言った?平里のこと、戦力してしか見てないなんて、言ったことないし思ったこともないのに……」


 神原はどんどんと上擦っていく声でそう言い切ると、顔を上げて俺を見た。揺らぐ瞳から涙がぼろぼろと零れ落ちて、年相応の子どもみたいだ。

 ……多分身体の年齢に精神が引っ張られてるんだろうな、とどうでもいいことを一瞬考えて、すぐにはっとして神原に駆け寄った。

 その弾みで点滴スタンドが大きな音を立てて倒れた。


「神原。」

「……なんで分かんないの。初めて繰り返したときだって、今だって、なんで自分が好かれてなくて、大事にされてない前提で………」

「……ごめん。」

「……全然分かってないでしょ。とりあえずで謝んのやめて。」

「………」


 ……どうすれば泣き止んでくれるだろうか。

 いくら頭では目の前にいるのが神原だと分かっていても、子どもが泣いているのを見るのは胸が痛い。

 風早さんと同じことで、同じように悲しんで、神原は泣きじゃくっている。

 ……どうして自分には関係のないはずのことで、風早さんも神原も悲しんでいるんだ?


 分からない。きっと、それは一度目の人生で捨ててしまったものなのだろう。

 分からない、が___少なくとも、理解はしたいと思う。きっと、あの頃の俺には重すぎただけで、悪いものではないだろうから。


「……悪い神原。俺にはどうしてもその言葉の意味が分からないんだ。」

「………そっか。」


 誤魔化したところですぐにバレる。なら、きちんと「分からない」と伝えた上で接した方が、お互いにとって良いのだろう。


「だけど……知りたいと思うんだ。風早さんの言ったことも、神原の言ったことも。」

「……ほんと?嘘じゃないよね?」

「ここで嘘ついても仕方ないだろ。」

「たしかに。……じゃあさ、じゃあさ、いつかちゃんと分かったら教えてよ。いいでしょ?」


 神原はそう言って、どうしてか嬉しそうに笑った。

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