見つけた
しゃらしゃらと、小さな金属が揺れる音がする。
怪異か、それとも生存者か___。
前を歩く西園寺が身を乗り出して確認しようとするのを止めて、俺は単眼鏡を取り出した。
「そんなの持ってきてたの?用意が良いのね。」
「逆に何なら持ってきてるんだよお前。」
「失礼ね。それになんだか随分と私への扱いが雑になってる気がするわ。
・・・霊符と応急セットと水は持ってるわよ。」
「霊力メーターは?」
「・・・・・・必要ないわ、ええ。なくても何となく分かるもの。」
「忘れたんなら素直にそう言え。」
「忘れたんじゃないわ。必要ないから持ってきていないだけなんだから。・・・本当よ?」
「はいはい」
そう軽口を叩きながらも、キリキリとダイヤルを回してピントを合わせる。
まず、白い魔導科の制服が見えた。白を着ているのは甲等級以上の生徒のみだから、恐らくあれが『総角さん』だろう。
その後ろに隠れるように、陰陽科の榛摺色の制服が数人。周囲に怪異は___確認できない。
「生存者発見。行くぞ。」
「了解。怪異は?」
「視認できなかったが、隠れている可能性がある。警戒しながら行こう。」
「了解。じゃ、私が先行するわね。」
「頼んだ。」
突入からおよそ二時間。内部の薄暗さにもすっかり慣れた様子で西園寺は坂道を下っていく。
俺は後方を警戒しながら、その背中を追いかけた。
十歩。怪異はいない。
二十歩。異常なし。
三十歩。四十歩。五十歩___。
歩いて、歩いて、歩いて、歩いて。
ようやく生存者たちの声が聞き取れる距離にきた時。
突然、西園寺が慌てた様子でこちらを振り返った。
「どうし___」
「伏せて!」
頭を掴まれ地面に寄せられる。反射的に膝と手をついて、何とか顔面強打を避けたと思った瞬間、先ほどまで頭のあった場所を何か硬質なものが勢いよく掠めていった。
「・・・・・・は?」
怪異か?いや、でもそんな気配はしなかった。
それなら、何だ?
視線だけを動かして、そっと後方の飛来物を確認すると、そこにはバスケットボール程の大きさの鉄球が転がっていた。
・・・鉄球?
しかもよく見れば、投擲した後に回収できるように幾重もの鎖が巻き付けられて飛んできた方向へと続いている。
完全に武器だ、これは。
「・・・いきなり何するんですか!総角さん!」
「おー?なんじゃ、西園寺か。すまんのー、怪異かと思ってのー。」
にわかに騒がしくなった前方に視線を戻すと、西園寺に似た金茶色の髪の魔導科の女学生が西園寺に両手を合わせていた。
あれが・・・六大家門の総角家の・・・・・・。
学生服を着崩して、スカートの下にジャージを身につけている様は、お世辞にも上品とはいえない。
だが、鍛え抜かれた肉体とその身に内包されている魔力量が彼女が只者ではないことを、これでもかと物語っている。
確実に強い。下手したらあの頃の西園寺や久山よりも強いんじゃないか?
なぜこれほどの人材が、前回までの時間軸でずっと無名のままだったんだ?
まさか、俺の知らないところで別の事件でも起きていたのか?
・・・・・・今は考えるのはよそう。後で風早さんか穂稀さんにでも聞けばいい。
今は答えの出ない思考を断ち切って、改めて彼らの方へ意識を向ける。
陰陽科の生徒は・・・ひーふーみーよー・・・六人か。
そのうち二人は監督役の二年生。あとは一年生。
ってことは・・・編成が前回までの実習と同じなら、ちょうど二組。初回の実習は突入までいくチームは一組あればいい方だから、これで全員だろうか。
念の為他にもいないか聞こうと口を開きかけた、その時。
ふと、白い制服の陰から黒い髪の一年生がキッとこちらを睨みつけていることに気付いた。
なんだ・・・?
「・・・何か・・・?」
「・・・」
しばらく彼は何も答えずにこちらを睨み続けていたが、やがてふいとそっぽを向いて動かなくなった。
「・・・?」
何なんだ?・・・ひょっとして、俺は何かしてしまったのか?
・・・・・・この短時間でそこまでやらかせるとは思えない。が、俺が中等部に行ったこともなければ、委員会や行事で同じになったこともない・・・はずだ。
平時なら無視すべきなんだろうが、ここは前回までは存在しなかったイレギュラーな霊域だ。
敵意から予想外の動きをされてしまっては、余計な損耗を・・・犠牲を招く。
それだけは避けたい。
とはいえ、理由も分からない状況でどうにかできるほど俺は優れてはいない。さらに言えば、公式にはは伏せられているが、誰が流したのかもはや公然の秘密である俺の『宍戸の私生児』などという出自に見合わない待遇に対するやっかみなども多い。
・・・・・・彼が霊域で何かしようなどと考えるほど愚かでなければいいが・・・。
俺は息を吐いて思考を落ち着けると、改めて質問をすべく彼らの方へと歩み寄った。
・・・人の悪意というものは、時に倫理すらかなぐり捨てて実行されることもある。
「さすがにそこまではしないだろう」、「まさかこんな場所ではしないだろう」といった常識を軽々と越えた犯罪が起こるのがその証拠だ。
だが、この時の俺はそこまで想定しきれていなかった。
この小さな不安が最悪の形で実を結ぶことになるとは。




