てがみ
「で、友達はできたのかい?」
「・・・ひつようですか、そのじょおほー。」
入学からしばらく経ったある日。
校門で待ち構えていた風早さんにとっ捕まった俺は、体育館裏に引きずり込まれた。
締め切られた青漆色の鉄扉の奥から、ボールの跳ねる音と床に靴底の擦れる甲高い音がやけに響く。
その前にある低い段差に並んで腰掛けて、俺は風早さんの質問に半ば投げやりに答えていた。
と、いっても内容は「授業はどうか」とか「昼食はきちんと食べているか」といった平和なものばかりだから、真面目に返さなくても別段問題はないのだが。
「だって、気になるだろう?今回は色々と想定外な状況になってるみたいだしさ。」
「せめて学校でくらいは穏やかに過ごして欲しいだろう?」、と風早さんは腰掛けている冷たいコンクリートを指でなぞった。
「・・・べつに、ひつようないでしょう。ゆうじんなんて。」
ふいと視線を逸らして答えると、小さなため息が耳に届いた。
一般人ならまだしも、俺たちは異能者だ。学園を卒業して実戦に出るようになったらどうせ滅多に会えなくなる。もし運良く同じ支部に配属されたとしても、こんな俺に嫌気がさして離れてくに決まってるだろう。
いくら行動を改めようと努力したところで俺の本質は変わらない。結局どれほど変わろうとしても俺は俺でしかないのだから。
それなら、最初から一人でいた方がマシだ。 相手にとっても・・・自分にとっても。
「うーん。こりゃ根が深いや。」
風早さんはどこか寂しげな表情でがしがしと後頭部を掻いた。そしてはたと何かを思い出したかのように宙に視線を留めると、真っ白な学生服の上着のポケットから何かを取り出した。
「・・・あ、そうだ。平里、これ。」
「?なんですか・・・てがみ?」
受け取って観察してみる。真っ白な封筒には宛名も差出人も書かれていない。
中には数枚の紙が折りたたまれて入っているのか、少し厚みを感じる。
何の変哲もない、ただの手紙だ。
これが何か・・・と問いかけようと風早さんを見上げると、風早さんは柔らかく目を細めた。
「そうだよ。・・・君の母君からの、ね。」
「は!?」
慌てて突っ返そうとしたが、小学生が中学生に敵うはずもなく、背負ったままだった学生鞄にするりと入れられた。
「かじゃはやさ・・・」
「大丈夫だよ。それは君にしか開けられないから。」
「そーゆうもんだいじゃ・・・!」
手紙から宍戸の臣下の過激派連中に母さんの居場所がバレでもしたら・・・!
ただでさえ私生児の俺が目障りなのだ。俺の精神を折るために母を殺す、くらいのことはされてもおかしくない。
だからこそ、俺は母との繋がりを絶たなければいけないのに___
「今は読めなくてもいいから。
・・・君が、持っているべきだよ。」
焦る俺の両手を握って、風早さんは真剣な眼差しで俺を見つめた。
俺は、断らなければいけないのに。
突き返さなければいけないのに。
なんでか、なにも言えなかった。
***
それから数年後。
中等部への進学を間近に控えた年の、うだるような暑い日のことだった。
その日は梅雨もまだだというのに蝉がうるさく鳴いていて、そこら中に燕が飛び回っていた。
空はいっそ不気味なほどに晴れ渡り、そこかしこで陽炎が揺らぐような___そんな猛暑の日のことだった。
中等部の討伐実習で使用中であった丁級霊域が、突如として乙級霊域に上書きされたのは。




