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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
前日譚:不揃いな式盤
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淵瀬に変わるとも④


「まだ諦めるには早いと思うよ。」


その声が聞こえた直後、突然瞼の裏が白くなって怪物の叫び声が聞こえなくなった。恐る恐る目を開けると、そこにはあの怪異ではなく、見覚えのない銀縁眼鏡の男性が立っていた。首筋まで伸びる黒い髪と優しげな黒い瞳。そしてこの人のためだけに誂られたであろう着物には風車のような紋があしらわれていた。


「風早様!?なんでここに!?」

「ああ、平里。気になってつい。来ちゃった」

「来ちゃった!?」


風早?

風早家といえばたしか、陰陽師の三大家門のひとつだったはず。そして現状で『風早』を名乗ってるのは当主だけだ。

ってことはこの人が___!?なんでそんな大物がここに!?

しかも、平里さんと親しそうだし。平里さんって何者?


私があまりの情報量にぽかんとしていると、涙目の神原が駆け寄ってきた。


「怪我してない!?大丈夫!?」

「あ、神原・・・。」


なんでか分からないけど、神原の顔を見たらほっとして膝から力が抜けてしまった。そのままへたり込むと神原はおろおろと狼狽えながら手を差し出した。


「怪我したの?立てなさそう?大丈夫?」

「いや・・・」


そんなに心配しなくても、と思った。なんで神原はこんなに私のことを心配してるんだろう。少なくとも神原にとって私は、嫌な人間なのに。悔しい。どうして私は神原みたいになれないんだろう。どうして?


そもそもどうして私は神原に成り代わらなければならないなんて思い込んでいたの?


少し考えた後、私が神原の手を握って立ち上がると、神原は少し嬉しそうな表情ではにかんだ。なんでそんな顔をするの?やっぱりおかしいよ。

少し離れたところで平里さんと風早様が話してるのが見えた。・・・平里さんって、もしかして名家の出だったりするのかな。


「久山さん?・・・あ、風早様が気になるの?挨拶しに行こっか。」

「私が行っても迷惑じゃないかな。だって、」

「大丈夫だよ。行こう!」


神原はそう言って私の手を引っ張ると、二人の方へゆっくりと歩き出した。


「風早様!」

「あ、神原くん。・・・大きくなったね。『様』じゃなくて『さん』で良いよ。あ、飴食べる?」

「あはは、いらないです。先程はありがとうございました。」

「良いよ、気にしないで。こういうのは大人の役目だから。・・・ところでそっちの子。大丈夫そう?」

「え、あ、はい!おかげさまで・・・」

「それは良かった。お名前は?君も飴いる?」

「久山、です。飴、はいらないです。」


急に話を振られてびっくりした私はかなり挙動不審に見えたに違いない。ああ、普段ならもう少しマシな反応ができたのに!あーもーどれもこれも神原のせいだー!

むぅ、と少しむくれていると平里さんに突然担ぎあげられた。ひょいって感じで軽々と持たれた。どこに筋肉しまってるんだろうか。


「風早様。まだこの二人は一年生なので今から目を付けるのは止めてやってくれませんか」

「うーん。でもなー。有望株は早めに確保しておいた方が良いと思うんだけど」

「時期を考えて下さいって言ってるんですよ。今からプレッシャーをかけられたら出る芽も出ないでしょう」

「・・・それもそうだね。ああ、そうだ平里」


風早様は袖口をごそごそと漁ると紙片を二枚取り出した。


「霊符、使ったんでしょ?予備に持っておきなさい」

「げ。まさか見てたんですか?」


担がれたままちらっと顔を覗くと、平里さんはめちゃくちゃ嫌そうな表情を浮かべていた。っていうかあの爆発は霊符だったんだ。・・・え?霊符?


「見てないよ。ただ平里の霊力の残滓がすごいから・・・。」


風早様が笑いながらそう言うと平里さんはさらに嫌そうな顔をした。


「平里さん、霊力操作できたんですね。風早様に師事してたんですか?」

「あ〜・・・ちょっと昔な」


歯切れが悪そうにそう言うと、平里さんは渋々霊符を受け取っていた。昔は陰陽師志望だったとか、陰陽師の血筋とかなのかなぁ。


「そういえば入口付近に乙等級の怪異いましたよね?どうしたんですか?」


神原が思い出したようにそう尋ねると、風早様はすっかり忘れていたようにそういや居たね、と返した。

もしかして乙等級くらいじゃ記憶に残らないってこと?どれだけ強いんだろう。


「久山さん、風早様はこの間甲等級から此岸級になったんだよ」


そう思っていると、顔に出ていたのか神原がコソッと教えてくれた。そういえば異能者や怪異は基本的に甲乙丙丁で等級分けされている。けれど、そこの枠組みに収まらないほどの力を持つ者を異能者側は『此岸級』、怪異側を『彼岸級』と呼ぶと習ったっけ。


「・・・実在したんだ、此岸級って」

「ね。歴代でもまだ三人目らしいし」

「他の二人はいつの人なの?」

「平安だよ。ほら、あの二人」

「あー、あの有名な」


神原と二人でそんなことを話していると、風早様が「やっぱりあの二人欲しいな・・・」と呟いて平里さんに「ダメですよ」とたしなめられてるのが聞こえた。


「あの、風早様」

「さんで良いよ。どうしたのかな?」


風早様はなんだか嬉しそうに、満面の笑みで私に目線を合わせてそう言った。私は話しかけても大丈夫そうで、ほっとして、


「えっと、なんでさっきから神原はまだしも私のことも欲しがってるんですか?」


と聞いてみた。さっきから気になってたんだよね。


「えぇーっと、それは」


風早様は言葉に詰ったようで、なぜか視線をぐるぐると泳がせた。目線だけとはいえ、目が回らないのかな?そう思って風早様を眺めていると、平里さんは私をそっとおろした。


「・・・それh痛ァ!?」


風早様が口を開いて何か言おうとした途端、バチンッと音がするほどすごい勢いで平里さんが風早様に平手打ちした。


「まだ何も言ってないよ!?」

「はいはい」


平里さんは適当そうに返事をすると


「さっさと帰るぞ。この状態で霊域に留まりたくねぇ」


と言って私と神原の肩をポンと叩くとスタスタと入口の方へ歩き出した。


「いたた・・・平里?ねぇ、なんでぶったの?」

「久山も神原も戻ったら報告の前に医務室行っておけよ。帰還報告は俺と風早様でやっておくから」

「無視しないでよ、平里?ちょっと」


平里さんは風早様を無視してスタスタと先頭を歩いていく。なんか風早様って想像してたより子供っぽい人なんだなぁ。そんな二人の様子を後ろから眺めながら歩いていると、なんだか先刻までの緊張感が嘘だったように思えてくる。生きてて良かった。

・・・そういえば、あの新種って結局なんの怪異だったんだろう?そんな疑問を残して私達の初実習は幕を閉じたのだった。


あとから思えば、アレは___よく似ていた。

どうして気付けなかったのだろう。

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