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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
二章:Re:Re:Re:start
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これから

少しして。風早さんは菓子類の盛られた器を運んできた使用人たちを下がらせると、ぽわん、とシャボン玉のような結界で自身と俺を包み込んだ。

これは・・・防音と気配遮断、あと不可視の結界だっただろうか。確か二週目のときに久山邸で使ったときに、そう説明された気がする。


「それじゃ、真面目な話しようか。あ、お菓子は自由に食べていいよ。」

「それなら、さきにおろし」

「それはダメ。」

「・・・それなら、せめてひざのうえは・・・」

「それなら良いよ。」


即座に却下され、渋々妥協案を提示したところあっさりと許可された。


・・・どういう基準で判断しているんだろうか。


・・・幼子扱いされていないか?いくら見た目が子供に戻っていても中身は大人のままだから落ち着かない。

下ろされた膝の上で座り直すと、俺は短い舌で、たどたどしく前回の人生で穂稀(ほまれ)さんから聞かされたを話し始めた。


***


「なるほど・・・・・・」


 風早さんは顎に手を当てると、ふむ、と頷いた。


「つまるところ件の霊域の主・・・『カミヨリ』だから便宜上『アラガミ』と呼ぶけれど、彼女は元々私たちと同じ陰陽師の人間だったと。」

「はい」

「・・・権能の使用過多でああなってしまう。そして、権能を使って時を戻し続けている神原も同じように怪異化しそうだと。」

「はい」

「・・・・・・その、こう言ってはなんだけど・・・かなりギリギリの状況ってこと?」

「そうですね・・・」

「そっ・・・かあ・・・・・・マジかぁ・・・」


風早さんは力無く呟くと、両手で顔を覆って天を仰いだ。

無理もない。


かつて・・・これからの神原は陰陽師の中で風早さんの次___上から二番目に強かったのだ。今はまだ久山と実力がさほど変わらないとはいえ、怪異化して霊域まで生み出したとしたら・・・誰も勝てないだろう。


「どうすべきか・・・私も彼岸に・・・でも勅命を下されるからそれを・・・」


考え込んでいる風早さんは、ブツブツと口から思考が漏れ出ていることにも気付いていない。

やっぱり、風早さんが(みやこ)に召喚されるのがネックなのだろう。彼岸級ならば、総力戦で臨むのが順当であるにも関わらずあの状況だったのだから。

なら___


「かざはやさん」

「ん?どうかしたかい?」

「たしか、さいしょのときは『ちょくめい』ではなく、ただの『ようせい』、でしたよね。」

「そういえばそうだったね。それがどうかしたかい?」

「それなら、さいしょの、ながれに、そうべきだと、おもうんです。」

「最初の流れ・・・って、まさか」


最初の流れ、最初の俺たち。


風早さんが自由に動けるようにするためには、それを再現すべきなのだろう。


状況からみるにおそらく、あの勅命は俺を匿った風早さんに対する宍戸家の嫌がらせだ。

それなら、宍戸家と風早家の確執のなかった、あの時の状態をもう一度作るしかない。


それに、そもそも母さんが殺されたのは俺のせいだ。俺がそれを選べば、もう危険な目には遭わなくても良くなる。


だから、きっとこれが今の最善だ。


「おれを、ししどけに、いかせてください」

「っ駄目だ。それは・・・!第一、宍戸に行けば君は」

「ひどいめに、あうでしょーね。まえみたいに」

「なら・・・」

「でも、だいじょーぶ、です」


下賎な血、妾腹の子。宍戸の私生児。

自分たちが無理矢理連れてきたクセに、そう言いながら俺を疎んだ。

そんな家だからこそ、あの頃の俺に傷は残り性格も歪んでしまった。そして・・・たくさん周りを傷付けてしまった。

だが、あいつらは努力することよりも、足を引っ張ることに夢中になったどうしようもない連中なのだと。俺は決して独りなどではないのだと。

そう理解した今なら、もう怖くない。


「だから、かざはやさん。おねがいします」

「・・・・・・母君のことは?一緒にいなくても___」

「だいじょうぶ、です。きっと、いっしょにいないほうが、ながいき、できるので」


ふるふると首を振って風早さんを見上げると、ひどく痛ましい表情していた。

自惚れでなければ、心底俺の身を案じているような。そんな表情だった。


「・・・・・・・・・・・・分かったよ。」

「ありがとうございます。・・・ははのこと、おねがいします」

「うん。任せて。」


揺らいだ漆黒の瞳を隠すように伏せて、風早さんは堅く頷いた。そしてしばし視線を迷わせたあと、ぽつりと零すように呟いた。


「・・・・・・ねぇ、平里。今回はちゃんと、助けを求めてね。()()()()()になる前に・・・・・・」


遠くで遊ぶ小鳥の声以外聞こえない、すっかり静まり返った室内で、


どうしてもその言葉に、素直に頷くことができなかった。


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