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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
二章:Re:Re:Re:start
54/79

泥中

___数時間後。

越前、風早家別荘。


「いやあ、相変わらず宍戸はひどいことするね。」


広大な敷地の、これまた広大な御屋敷の一室で、俺は風早さんと四角い座卓を挟んで向かい合っていた。

高い天井とほのかに香る木の匂いと、不安でぐるぐるし続ける思考に落ち着かず返事が出来ずにいると、風早さんは気遣うような表情を見せた。


「あ、疲れたでしょ?なにか食べるかい?」

「いえ・・・おきになさらず。」


正直、今は母の容態が心配で何も喉を通りそうにない。だが、風早さんは俺の返答を無視して使用人にあれこれ指示を出してにっこりと笑った。


「母君のことなら心配いらないよ。今回も魔力中毒だったから。じきに目を覚ますよ。」


今回『も』、ということは前回と同じように一人になった時を見計らって宍戸家の魔導師が母に魔力を一気に流し込んだのだろう。孤児となった俺を合法的に宍戸に迎え入れるために。

まだ異能者としての価値は未確定にしろ、亡くなった前当主の血を唯一引く俺が魔力を使えるようになる前に、天涯孤独にして手懐けよう、ということだったのだろう。

俺に素質があれば良し、なくともいい血筋の娘と子を産ませてその子に素質があれば良い。あいつらにとっての俺の価値は、品種改良用の種馬のようなものだ。

倫理観の欠片もない奴らだ、相変わらず。


「・・・そうですか。」


なんとかそれだけ絞り出して、外の憎たらしいほどに晴れ渡った青空に視線を向けた。

・・・風早さんは「心配いらない」と言ったが、母は数時間経っても未だ昏睡状態だ。安心出来るわけがない。

そうは思っても毎回助けてもらっている手前、言い返せるわけもない。

俺はやり場のない感情を押し付けるように、卓上に置かれた緑茶を飲み干した。


「・・・ねぇ。」

「・・・?」

「何かさ、ないの?言いたいこととか・・・」

「え?・・・とくには・・・」

「そっか・・・」


言いたいこと?何か・・・あ。

そういえば、今までお礼を言いそびれていた気がする。風早さんが優しいからと甘えすぎていたのかもしれない。

見返りのない援助をし続けるのは苦痛なのだと知っていたのに、俺はなんてことを。


「かざはやさん!やっぱりありました、いいたいこと。」

「うん?なんだい?」


期待するように目を輝かせてこちらを見つめる風早さんに、ちくりと胸が痛んだ。

早く言わなければ。落ち着いて、舌足らずだからといって噛まないように。よし。


「ありがとうごじゃ(ざい)ました!」


噛んだ。気を付けてたのに噛んだ。

恥ず・・・。

何となく気まずくて俯いていると、背後から急に抱き上げられた。

驚いて振り返ると、寂しげに微笑む風早さんと目が合った。


「そういうことじゃないんだけどなー。」

「え?」

「平里はもっと周りに頼ったり甘えたりすることを覚えた方がいいよ。・・・少なくとも、私は平里がワガママ言ったって文句言ったって反抗したって見捨てないし、嫌いにならないよ。」

「あ・・・」


そうだ。三度目のときに西園寺に叱られて、分かっていたはずなのに。

どうして、素直に口にできないのだろうか。

どうして、信頼しきれないのだろうか。


「・・・」

「平里はどう思っているか分からないけど・・・君が思っている以上に君のことが大事な人はたくさんいるんだよ。だからさ」


黙り込んだ俺をそのまま抱きしめて、風早さんは少し上擦った声で呟いた。


「ちゃんと話して欲しいんだ。今じゃなくていいから・・・」


優しい言葉のはずなのに、何故か苦しくて、風早さんの顔を見れなかった。


***


「はい、くよくよするの終わり!」


突然大きな声でそう言って、風早さんは座布団の上にストンと座った。


()()()()()()()()()


「あの?」

「このくらいはさせてよ。今の平里は赤ちゃんなんだし、良いでしょ?」

「五さいじは、あか(ちゃ)でゃ(では)ないとおも()ますけど・・・」


また噛んだ。長く話すとどうしても滑舌が追いつかない。

体が幼児(ねんね)である以上舌足らずなのは仕方ないことだとしても、精神が大人である以上恥ずかしい・・・。


「っふふ、そうだね、んっふふー・・・でもまだ未就学児(よちよち)なんだから実質赤ちゃんと言っても過言では」

「さすがに、かごん、ですよ。」

「そっかぁ・・・」

「そーですよ、だから」

「いや、だからと言って下ろしはしないよ。目離した隙に拐われたら困るし。」

「なるほ()・・・?」


風早家・・・異能六大家門の屋敷にそんな危険な(やから)が入り込む可能性なんてあるのか?

今までの事を思い返して俺は首を捻ったが、風早さんの圧に何も言えなくなった。

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