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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
二章:Re:Re:Re:start
53/79

分岐点

「おいチビー、煎餅食うか?」

幼児(ねんね)に煎餅はあんまりだろ。ビスケット食うか?」

「大差ねぇじゃねーか。」

「うっせ。甘い分こっちのがいいだろ。」


遺跡(実家)からほど近い、これまた旧時代の遺跡を再利用した集荷場。

高い天井を支える、等間隔に並んだ幾本もの太い柱の間を、慌ただしく職員達が走り回っている。


その内の一本の下で、俺は筋骨隆々・・・とまではいかないでもかなりムキムキの青年たちに囲まれていた。

普通に考えたら五歳児いる状態での荷造りは至難の業だ。だからこそ、彼らは快く幼児の面倒をみているし、母は俺を預けたのだろう。

理解できる。できるが、だとしても___と、身体に引っ張られたのか少し寂しさを感じていた。


それに、もし俺の知らないところで変化が起きていたら・・・?


こればかりは、何度繰り返しても安心できない。不安に押しつぶされそうになってぎゅっと膝を抱えていると、ガラガラと台車を引く音が近付いてきた。


「お、山本。戻ったか。平里さんは?」

「それが見当たらなくて・・・とりあえず荷造りは終わっていたので運んできたんですけど。」

「いない?バックレ・・・るわけないよな、平里さんはそんな人じゃねぇし。なによりチビを置いて・・・おっと。」


しまった、という風にガタイのいい青年は口を押さえてこちらに視線を向けた。


一度目の人生では傷付いた。が、もう俺は()()()()()()()()

だから大丈夫だ。うまくやれる。やってみせる。


静かに立ち上がって、荷物積み上げられた台車に近寄る。


「おい、チビすけ?どうした?」

「このはこ、あけて。」


そう言って俺が一番下の大箱を指すと、わらわらと集まってきた青年たちは揃って首を捻った。


「あーけーてー!」


少々恥ずかしかったが、ダンダンと地団駄を踏んで癇癪を起こした子供のように振る舞う。

・・・これでダメなら・・・床に寝っ転がって駄々を捏ねてみるか?嫌だな・・・。

そう思っていると、根負けしたように青年たちは上に乗った荷物を降ろして大箱を開けた。


「なっ・・・」

「おいどうし・・・は!?なんで・・・」

「とりあえず医者呼べ!あと警邏連中にも連絡入れろ!」


箱の中には少しの小物とともに、両手両足をビニール紐で縛られ、ぐったりと気を失っている母の姿があった。


***


医者を待つ間、集荷場の職員たちは慌ただしく母の応急処置をしてくれた。

拘束を外し、布団の代わりに畳んだダンボールを並べその上に寝かす。そして身体が冷えないようにと上から予備のアルミシートをかけて呼吸が正常であることを確認する。

その様子をぼんやりと眺めていると、先程「医者を呼べ」と叫んだ色黒の青年が話しかけてきた。


「よく気付いたなチビ。えらかったな〜。」


俺の頭をわしゃわしゃと撫でてにっと笑う。


「うん・・・」


その温かさにほっとしてこくりと頷くと、母の方に視線を戻した。

色白だった肌は病的なまでに血色を失い、今朝は輝いていた髪もくすんで見えた。

瞼は伏せられたまま開く気配もなく、浅い呼吸を繰り返している。


「医者はまだか?早くしないと・・・」

「ばっ、チビの前で」

「でも、どんどん顔色が」


・・・今回は間に合わない?そんな、どうしたら・・・


目の前が真っ暗になりそうになった直後、入口に吊るされた鈴が激しく鳴り響いた。

驚いて全員がそちらを見ると、いつの間にか入口に黒髪の着物姿の少年が立っていた。少年はカランと一歩踏み出して口を開いた。


「もう大丈夫だよ。」


少年は俺の目の前にしゃがみこむと、俺の両手を包み込んで微笑んだ。


「あとは私に任せて。」


十二歳の風早さんの言葉に、俺は強く頷いた。


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