四度目
ふっと目を覚ますと、薄暗い部屋にいた。
打ちっぱなしのコンクリートの床と、簡易的に板で仕切られただけの壁。唯一、自分の下にだけ敷かれた柔らかな素材の絨毯とふわふわのクッションだけが部屋に色を差していた。
キョロキョロと周りを見回すと、部屋の隅でもぞもぞと動く影を見つけた。
俺は立ち上がって一目散にその影に向かって駆け出した。そしてぎゅっと抱きつくと、回らない舌でその影の主を呼んだ。
「おかあさん!」
***
五月、某日。
桜もすっかり新緑に染まり、初夏の気配のしてきた頃。
旧時代の遺跡___恐らく立体駐車場___の一角で、俺よりも幾分か濃い、淡い金の髪を揺らしながら母がダンボール箱に荷物を詰めていくのをただ眺めていた。
「見てて面白いの?」
「うん」
こくりと頷くだけで重心が傾いて、ぐらりと全身が揺れた。成人の身体に慣れているからか、五歳児の頭でっかちな身体の動かし方がかなり不安定だ。そのうえ、気を抜くとすぐに普段通りの言動をしてしまって、かなり不気味なことになってしまう。
さすがにそれは母に申し訳ない。
俺を父方の家から守る為に片親でいることを選び、毎日忙しなく働き、さらに見つからないように居を転々としているのだ。そんな母をバケモンの親にする訳にはいかないし、何より昨日までの坊やと違う、坊やはどこ、なんてなられたら罪悪感で死にたくなる。
幸い、というべきかこの時間に戻ってくるのも三度目だから、多少は五歳児の擬態も上手くできるようになっていた。多少は怪しまれるかもしれないが、それでもまぁ、なんとかなるだろう。
それよりもまずは。
「よいしょー!・・・あ。配達屋さんかな。」
母が詰め終わったダンボールを詰みあげた、そのタイミングで、ビビィー、と音の割れたブザー音が玄関の方から聞こえた。
「はーい」
パタパタと小走りで玄関に向かう母を、転ばないように、慎重に軽い足音で追いかける。コンクリートの床で転んだら洒落にならないし、何よりここで怪我したことでこれから先の展開が今までと変わったら困る。
「お引越しの荷物、回収しに来ましたー!いやぁ、平里さんがいなくなったら寂しくなりますね。」
「あはは、そんなぁ。こっちこそ助けられてばっかりで・・・」
いつもと変わらない世間話の内容に少しほっとしつつ、俺はいつも通り母の服の裾を引っ張った。




