カミサマ、
神原が、久山の霊力ごと権能を・・・?
権能自体はカミサマとやらを久山から神原に移し替えれば可能なのかもしれない。だが、霊力ごととなると奪われた久山は___
「そんなことする訳ねぇだろ!!!」
ガンッと柱を叩くとホマレさんはゆるやかに首を横に振った。
「事実だよ。残念ながらね。」
「神原が久山を殺す手選ぶ訳が___」
「でも方法はなんであれ、彼は毎回そうやって巻き戻している。」
「だとしても・・・だとしたら、なんであんな・・・・・・自分が殺した相手と何事も無かったかのように接せるんだよ・・・」
消え入りそうな声でそう呟いて、俺はずるずるとしゃがみ込んだ。
「あんなに・・・・・・」
大事だと。大好きだと。見ていれば伝わる程に神原も久山もお互いを尊重していた。
それなのにそんな惨い手段をとったのなら、本当に他に方法が無かったのだろう。
だが、だとしても。あまりにも神原が___。この覚え続けなければいけない繰り返しの中で延々と、自らの手で片割れを殺め続けなければいけないなんてあまりにも酷だ。
「・・・それでも。そうしなければやり直しできないんだよ、彼は。」
しゃがみ込んだままの俺の頭をホマレさんは
ぎこちない手で撫でるとそう言った。
「・・・」
きっと神原がそうまでして___自身の精神を削ってまでこの世界をやり直していたのなら、それは久山が生きる未来のためなんだろう。知ってしまった事実に心がぐしゃぐしゃになりそうだ。
言ってくれれば。俺の手を求めてくれれば。そしたら、何かしらできたかもしれないのに___。・・・・・・俺が言えたことじゃないが。
結局。そこまで神原に信用されてなかったのだ、俺は。
自惚れていた愚かさに怒りが込み上げてきた。だが、それ以上にそんな苦しみを一人で抱え込んでいることにも気付かずにいた自分に腹が立った。
「・・・ホマレさん。」
「なんだい?」
「教えてください。どうしたら・・・どう足掻けば誰も死なせずに済みますか。」
顔を伏せたままそう問いかけると、ホマレさんの息を呑む音が聞こえた。・・・無理難題、なのだろうか。やっぱり、俺は弱いから___
「それに関しては・・・そうだなぁ。まず、君が自分の権能を自覚することからだね。」
「え?」
権能?俺の・・・?
思いもよらない発言に面食らってホマレさんの顔をぱっと見上げると、彼女は優しく微笑んだ。
「直接的なことは教えてあげられないけれど・・・少しだけヒントをあげようか。君の権能は・・・倭の神々のものではなく、外国の神のものだ。」
「!?・・・待ってください。トツクニの記憶が消されたのに、トツクニのカミサマが存在は許されるんですか?」
「許されないよ。だからほとんどの宗教やらなんやらは日本、倭の外に弾き出されたわけだし。」
「それなら・・・」
「けれど、例外はあるってものだよ。何事においてもね。」
俺の声を遮ると、ホマレさんは手をひらひらと振って立つように促してきた。よく分からないままに立ち上がると、ホマレさんは目を合わせてニヤッと悪童のような笑みを浮かべる。
「・・・なんですか?」
「いや〜?・・・ところで平里くん。君が神様なら外国のものを消すときに一々全部潰していくかい?」
「俺が・・・?・・・・・・いえ、俺が消す立場だとしたら影響度に応じて優先順位の高いものを消して___あ。」
もしかして、影響度が少なければそもそも消す必要がない___?だとしたら・・・
「お?分かったかな?」
「可能性は・・・でも、カミサマってもっと、こう・・・器用なのでは?一気に全部消したりとかは・・・」
「あっはは。そういう神様もいるかもしれないけど、基本的に日本の神様はその辺テキトーなんだよ。」
「消しすぎて綻びが出ても困るしねー」、と付け足してホマレさんはにひひっと変な笑い方をした。
「ま、そういう訳でお目こぼし頂いた神様が君に宿ってるんだよ。」
「つまり、知名度が著しく低いトツクニのカミサマ、と。」
「ふ、不敬・・・!?・・・その通りだけどさー、もうちょっと言い方どうにかならなかったの?別に現地じゃそれなりに有名どころの神様だったんだけど・・・。」
「でも倭ではそれほど知られてなかったんですよね?」
「う・・・・・・まあ、うん。そもそも信仰が途絶えて久しい、古代の宗教の神様だからね。それはしょうがないよ。」
「そうですか。・・・ところでシューキョーってなんですか?」
「えっ嘘!そこも消されてた!?・・・あーでも、たしかに神様を忘れてるなら宗教って単語もいらないかぁ・・・」
「カミサマに関わる単語なんですか。」
「そうだよー。んー・・・そうだなぁ・・・」
ホマレさんは顎に指を当てて考え込むと、やがて気まずそうに苦笑した。
「説明むつかしいや。ごめんね、諦めて!」
「そうですか。」
彼女が説明できないのなら、仕方のないことだろう。他にその単語を知っている人間もいないのだから。
「ごめんねー。本筋には関係ない単語だから許してー。・・・さ、話がちょっと脱線しちゃったね。本題に戻ろっか。」
ホマレさんはそう言うと、瞳に厳然たる賢者とも、底知れない暗澹とも取れるような仄暗さを宿して顬を押さえた。
「ホマレさん・・・?」
「・・・・・・なんでもないさ。そんなことより、さ!ヒントもあげたことだし次はあの黄泉比良坂の主の・・・・・・あの、怪異、の話を・・・」
先程までの飄々とした口調とは打って変わって訥々と言い淀みながら言葉を紡ぐ仙女の様子に、俺の頭にはひとつの仮説が思い浮かんだ。
カミヨリ、器、カミサマ、権能。
先程のトツクニの記憶の話からしてカミサマは万能ではない。だが一般人を見るに、それでもそのカミサマの持つ『権能』は人の身には有り余る力なのだろう。そんな力を使い過ぎた場合、器たるカミヨリは果たして人のままでいられるのだろうか?
そしてあの時感じた違和感。どこか自分たちに近しいような、そんな感覚___。
「・・・・・・ホマレさん。」
「ん、なんだい?」
「アレ、怪異なんかじゃありませんね?」
「何を言ってるんだい彼女は___」
「アレが、カミヨリの成れの果てなんじゃないんですか?」
「っ!・・・それ、は・・・それは・・・」
柱の間から手を伸ばして、目に見えて動揺しているホマレさんの手首を掴む。驚いてぱっとこちらを見て固まるのを無視して俺は言葉を続けた。
「教えてください、ホマレさん。もし、そうなら・・・・・・神原には、あとどれくらいの猶予があるんですか?」
俺の問いかけに目の前の仙女は痛々しい様子で重い口を開いた。
「・・・少し、昔話をしようか。」




