神依
「俺は___」
半ば無意識に名乗ろうとしていることに気付き、ぱっと口を押さえて目の前の女性を睨みつけた。
「急にどうしたのさ。たかが自己紹介くらいで。」
彼女はなぜ睨まれているのか分からないとでも言いたげに首を傾げた。
「馬鹿言うな。」
そう言って拳銃を引き抜いて銃口を突きつけると、彼女は笑った。
「短気だね。そんなんだから彼女に怒られたんだろう?」
「何を言って___」
「西園寺の子にこの間叱られたばかりだろう?『浅慮』だって。」
「!?」
「そうでしょ?宍戸蓮くん?」
「は!?」
なんでその名前を知っている?その呼び方は一週目の___!
「なんでお前が知って___」
「ふふ。」
目の前の女は銃身に触れると、ついーっと指先でなぞって銃口を逸らした。そしてそのままグリップを握ったままの俺の手に触れて、にっこりと不気味な笑顔を作った。
「私は宇迦之御魂神の神依、ホマレ。君たちのいう旧時代の人間だよ。」
旧時代、だと・・・!?馬鹿な、五百年以上前のだぞ!?人間が生きていられるわけが___!
目を見開いたまま硬直していると、女性___ホマレは俺から手を離して内緒話でもするかのように人差し指を口に当てた。
「少し、昔話をしようか。」
***
約五百年前。
旧時代と呼ばれる、まだ異能者である陰陽師も魔導師も存在しなかった時代。
その時代に、世界中の国々を巻き込む程の戦乱が三度起きた。
一度目、二度目と回を重ねる毎に殺傷能力も被害規模も跳ね上がっていく兵器の発展に、八百万の神々は危機感を示した。
『これ以上続けば皆滅んでしまうのではないか?』と。
そして起こった三度目。その時にはこんな島国なぞ沈められるほどの凶悪な兵器が開発されていた。
そこで神々は我々人間を護るために人間を依代___神依の器とし、世界から日本___倭を隔離し、世界の人々の記憶から消し去った。そして倭の人々が混乱しないよう、こちらもまた人々から世界の記憶を消し去った___。
「ってのが主な出来事だね。・・・大丈夫?理解できたかい?」
「大体は・・・」
クニグニ。ヤオヨロズ。カミガミ。
全く聞き覚えのない単語に翻弄されながらも、何となくそれまでの日常を変えてしまう程のできごとがあったであろうことは理解できた。
「それで・・・その、『ヤオヨロズ』の『カミガミ』ってのはどうなったんだ?今はいなくなってしまったのか?」
「いるよ〜。むしろ、今の君たちの方が詳しいんじゃないかな?」
「え?」
戸惑う俺の胸元を指してにいっと笑うと、ホマレはゆっくりと口を開いた。
「君たちの言うところの『異能者』、特に『陰陽師』。彼らが現代の神依だよ。ま、信仰を失って久しいからか、神様の意思が表に出てくることなんて稀みたいだけど。」
「カミヨリ・・・が、陰陽師・・・」
カミガミの器、カミヨリ___カミガミの依代。
それが陰陽師?
「それなら、魔導師はなんなんだ?」
「あー。魔導師はさ、外国___海の向こうの国の血が濃い子だね。そっちには魔法使いだとか精霊使いだとかがいたらしくて、魔力とかそっちの能力値が突出してるから神依___陰陽師と違って神様が依らずとも異能が使えるらしいよ。」
トツクニ、ソーサラー、ドルイド、マナ。また知らない単語が増えたな・・・。
思わず頭を押さえて天井を仰ぎ見ると、ホマレは不安そうな表情になった。
「大丈夫?君にはまだ伝えなきゃいけないことがあって・・・覚えられそう?」
「少し頭を整理する時間を頂ければ・・・」
「ああ、はいはい。じゃあ大丈夫になったら言ってね。」
クニグニ、トツクニ。ヤオヨロズ、カミガミ、カミサマ。カミヨリ、陰陽師。ソーサラー、ドルイド、魔導師___。
必死に単語を反芻して理解しようとしている俺を、目の前の仙女はただ静かに見守っていた。




