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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
一章:Lotus
42/79

遺跡

駅前のアスファルトで舗装された真っ直ぐな道を離れ、森の中のぬかるんだ土を踏みしめた。

転々と佇むかつての時代の遺跡と、生い茂る木々の隙間から覗く背の低い植物。

文明と隔絶されたかのように自然に侵食された道とも呼べないような植物の切れ目を進んでいくと、突如目の前に大きな建造物が見えてきた。


「見えて来ましたよ。あそこのどこかにいるはずです。」

「あれが・・・?」

「はい。魔導技術が発展する以前___旧時代の遺跡です。」


三保の松原にいる訳じゃなかったのか。それならあれは、間違いだったのだろうか。・・・それともまた、別の情報なのか?


「平里さん?どうかしましたか?」

「あ、いや。なんでもない。早く行こう。」


慌てて俺がそう返すと、松也は頷いて止まっているエスカレーターに足を乗せた。


***


エスカレーターを登り終えると、目の前に崩れ落ちたガラスと、その向こうに半円状のホールが広がっていた。元はカウンターだったのであろう胸下程の高さの台が壁に沿って複数並び、奥にはアリの巣のように複数の扉に繋がる通路が見て取れた。

周囲を観察してみると、壁面にはすっかり色褪せて読めなくなった、元はポスターだったであろうボロボロの紙が貼り付けられている。


「・・・映画館、か?」

「え?ここがですか?」

「見た限りな。恐らくあっちの部屋はシアター室だろうな。」

「へぇー・・・言われてみればあのガラスの箱とか、ポップコーンマシーンっぽいですね。」


うんうんと大袈裟に頷くと、松也はビシッと奥の通路を指差した。


「じゃあ謎も解けたことですし!早く探しに行きましょ!」

「はしゃぎ過ぎるなよ。遺跡なんて長年放置されてるんだから、気をつけろよー?」

「はしゃいでません!」

「嘘つけ。」


松也は俺が言い終えるより先に、目を輝かせて通路の奥に飛び込んで行った。

マジか。床、抜けてたら多分落ちてるんだろうな。引っ張りあげる準備しとくか。

あまりの無防備さに呆れながらも後を追いかけようとすると、ふと視界の端に黄金色の影が走った。


「・・・狐?」

「きゅーん」


俺の呟きを肯定するかのように狐は一声鳴くと、くるりと踵を返して走り去っていった。


「・・・なんだったんだ?」


ここを(ねぐら)にでもしているのだろうか。俺は少し引っかかるものを覚えながらも、松也を探すべく『3』と書かれた手前の扉を引っ張った。


「!?」


その途端、中から白い光が溢れ出し、俺の視界は白く染め上げられた。

白の中に、触れた床の感触も、廃墟特有のカビの臭いも、聴覚すらも溶けていく。

為す術もないまま、俺は目を塞いで立ち尽くすことしかできなかった。


***


瞼の裏に焼け付いた白が消え去って、恐る恐る瞼を上げると見知らぬ場所にいた。地下鉄の通路のような薄暗く、少し湿気た狭苦しいコンクリートの狭い通路。所々溶けたように壁と一体化している四角い柱。息を潜めて感覚を尖らせると、前方___通路の先から冷たい風が吹いていることに気付いた。


「霊域・・・か?」


警戒したまま一歩、また一歩と音を立てぬよう進んでいく。そしてやっと道の終わりに辿り着いた時に目に入った光景は、名状し難いほどに異質なものだった。


いくつもの通路がぐるりと外周に続いている円形の、灰色のコンクリート製の部屋。部屋の中心を取り囲むように聳え立つ山吹色の柱は、果て見えないほど高い天井へ向かって何本も伸びている。しかもよく見れば、それぞれの柱に酸で溶けたような文字とも言えぬ文字らしきものがびっしりと刻まれている。

さらに追い討ちをかけるように唯一の光源らしき壁に等間隔で並んでいる切れかけ蛍光灯が、不気味にブツブツと点滅を繰り返していた。


「なんだ?ここは・・・」


窓もなく、扉もなく。緑もなく温かみすらない。

これは、まるで___


「牢みたい、だろう?」


突如響いた自分以外の声に、半ば反射的に声の主の方へ顔を向けた。

分厚い丸メガネの奥から覗く、知性を感じさせる澄んだシェーレグリーンの瞳。珈琲(コーヒー)色の緩くウェーブした長い髪は、その身長よりも遥かに長いらしく無惨にも地面に引き摺られていた。声の主はひらひらと柱の隙間から手を出してこちらに振ると、そのまま手招きをした。


「こっちに来てくれないかい?話をしよう。」


彼女はにっこりと微笑むとそう言った。


「・・・。」

「警戒してる?見ての通り私はここから出られないし、何もしないよ。だからほら、ね?」

「・・・変な真似したら撃つからな。」

「銃持ってたの?・・・まぁ、君がそれで来てくれるなら良いけど。」


右手を脇のホルスターに入っている拳銃にかけてじりじりと距離を詰める。嫌な汗が首筋を伝って行くのを感じながらも、不安を悟られないためには目を逸らすことはできない。彼女はそんな俺の様子をにこやかに見つめて柱にもたれかかった。


柱を挟んで、互いの距離が一間ほどになった時、彼女は口を開いた。


「君の名前は?教えてよ。」


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