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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
一章:Lotus
40/79

話し

「だーかーら!なんで何も言わずにいなくなったんですかぁー!!!」

「ちょっ、静かに」

「なんでですかぁー!」

「壁薄いから!両隣に迷惑だから!」


とっぷりと日が沈み鈴虫が鳴き始めた頃、すっかり出来上がった松也と一本の空き缶を交互に見つめて途方に暮れた。

なんで・・・こんなことに・・・。


***


数時間前。


「それじゃあ平里さん。洗いざらい吐いてもらいましょうか。」

「取り調べか?」


ダイニングテーブルを挟んで向かい合わせに座った直後、松也はキリッとした表情でそう言い出した。

すかさず俺が切り返すと松也は楽しそうに人差し指を立てた。


「こーいうのは雰囲気が大事なんすよ。だからほらほら、全部パーッと言っちゃって下さいよ〜。」

「・・・そうかぁ・・・」


そう説明しているうちに早くも『ごっこ』に飽きたらしく、ヘラヘラと笑いながら松也は急かしてきた。


「・・・・・・話す前に、一つ聞いても良いか?」

「なんすか?」

「その、お前は・・・古賀は。俺の味方か?」

「え?」


聞き方を間違えた。違う。

聞きたいのはそんなことじゃない。


歯切れ悪くそう問いかけると、松也はきょとんとした表情で固まった。


「ああ、違う。そうじゃなくて、えっと・・・・・・」


いざ話そうとすると頭がぐちゃぐちゃになって何一つ上手く言えない。どう言うべきか分からずに挙動不審になっていると、松也は何かを探るように視線だけを走らせた。


「ふむ・・・オレの助けが必要なんすね?」

「っ!・・・なんで分かったんだ?」

「見てたらなんとなく、そうなんじゃないかって思って。」


「勘ですけど」とふにゃりと笑う松也を見て、ほっとした。


難しく考える必要なんて、なかったのかもしれない。言葉を選ぶ必要も。


「・・・すごいな、古賀は。俺は・・・全然分からなかったのに・・・」


誰のことでもなくそう呟くと、松也は少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。


「言わなきゃ分からなくてとーぜんっすよ。人間なんですから。」

「人間・・・・・・。ああ、それもそうだな。人間だもんな。」

「そーですよ。・・・んで、オレは何すれば良いんすか?」

「人探しを・・・ちょっと待ってくれ。」


俺はさっきの紙袋をからCDケースを取り出すと松也へ差し出した。


「CD?このジャケットの人を探せば良いんすか?」

「違う。中を見てくれ。」

「はぁ。」


松也は怪訝(けげん)そうな顔で受け取るとケースを開いて中のメモを取り出した。


「ぞあ、つ・・・?」

「あ、五十音順にした時に一つ上の文字を読んでくれ。ひっくり返ってる文字は一つ下を。」

「えぇと、ぜ・・・?」

「あの前はんだぞ。」

「ぜ、ん、ち、の、せ、ん・・・にょ?で、み、ほ、の、ま、つ、ば、ら・・・・・・『全知の仙女』、『三保の松原』?これは?」

「噂だよ。望月さんにも調べてもらってたんだ。」

「へぇー。・・・でもなんで暗号に?」

「趣味なんだろ、多分。」

「なるほど?」


望月さんの口車に乗せられて色々話してしまったときはどうしようかと思ったが、糸口が見えたから結果オーライだったな。・・・良くはないが。


「それで。オレはこの『全知の仙女』を探せば良いんすね?」

「ああ。・・・その、デマかもしれないし、無理そうなら断っても___」

「なんで急に弱気になってんすか?協力しますよ。だから、ほら。ちゃんと全部話してください。もし無理そうなら__」


松也はそう言って傍らのボストンバッグを開けると、缶飲料を数本テーブルの上に並べた。

・・・酒?


「酔って全部言っちゃいましょう!」


松也はそう言い放つと、この上なくいい笑顔になった。


***


そして今に至る。


「・・・まだ俺、何も言えてないぞー・・・。」


俺はそう呟いて、酔いが回ったのか床で寝息をたて始めた松也の頬を引っ張った。


「・・・・・・はぁ。」


明日お隣さんに会ったら謝らないとなぁ。


酔い潰れた松也を抱えあげて窓際のベッドに転がすと、俺は床に転がった空き缶を拾い上げた。


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