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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
前日譚:不揃いな式盤
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淵瀬に変わるとも②

___霊域突入から数時間後。

私たちは西洋風の、茨に覆われた古い墓地にいた。墓石の裏に身を隠してなんとか息を整える。


「クソ!こんなの聞いてねぇぞ・・・!」


平里さんが焦りと混乱を抑え込んだような、怒気を含んだ声色(こわいろ)でそう吐き捨てたのが聞こえた。それもそうか。丁等級だと報告されてた霊域に乙等級相当の怪異が住み着いていたんだから。

当初の予定では入口付近の、比較的怪異の少ない庭園エリアで実習を済ませる筈だった。なのに、アレが突然出現したせいで、こんな奥まで入り込んでしまった。


「どうしよう。もう霊力が基準値ギリギリしか残ってないや。久山さんは?」

「私も。平里さんは?」

「俺ももうない。」


腕に着けたメーターを見ながら、各々そう返した。なんとか撒けたとはいえ、出口まではかなり距離があるし、なんなら他の怪異だっている。霊力も魔力も、どちらかが空っぽになると命に関わるから、これ以上の権能や魔導具を用いた戦闘は危険だ。


「救助が来る可能性は?」

「一応、突入から十五分経ったら教師陣が様子見に来てくれることにはなってはいるが・・・。この感じだと霊域内と外部の時間の流れが違いそうだからいつ来るかはわからない。」

「そっか。じゃあアテにはできそうにないか・・・。」


平里さんと神原は顔を見合わせてため息をついた。もしこの霊域の時間が数十倍に引き伸ばされているのなら救助を待つのは現実的では無いし、よしんば来たとしても乙等級を相手にできるだけの実力者がいるかどうか。ああでもない、こうでもないと三人で相談していると、突如ズシンっと地面が揺れた。


「何!?」

「久山落ち着け!・・・嘘だろ。アレは。」

「平里さん?・・・あ。」


平里さんの凝視している方向を見た神原はサッと顔を青ざめさせた。私も気になってそっちを向いてみると、そこにはさっきの乙級怪異よりもおぞましい何かがいた。視界に()()入った瞬間に、キンッと全身に悪寒が走り、喉が詰まった。

頭が重いのか、ぐらぐらと揺れる長い首。だらりと首の中程から垂れた長い腕。腕に見合わない短くて大きな鳥のような脚。そして、全身を覆う黒い魚のような鱗。

実習前に参照した怪異のデータベースにこんなヤツのデータは無かった。これって、もしかして。


「新種・・・?ここにはそんなのいない筈だろ!?」

「そんな・・・!」


平里さんと神原は焦った様子だ。私は対峙経験がないから、未確認個体の危険度が理解出来ない。しかも、恐怖で四肢に力が上手く入らないこの状況では、私はただのお荷物にしかならない。せめて余計なことをしないように気を付けないと。神原はともかく平里さんを危険に晒したくは無い。なんとかこの状況を打破する術を考えないと。

何か、ないかな・・・何か・・・


「・・・あ。」

「久山?どうした?」

「あの。私たち陰陽師にも一応魔力ってあるんですよね?」

「ああ、異能者には程度の差はあれ、両方備わっているからな。・・・急にどうしたんだ?」

「いえ、ちょっと。魔力メーター貸して貰えませんか?」


平里さんは、訝しげな表情で腕からメーターを外すと私に差し出した。私は受け取って腕に巻くと、メーターの数値を見て確信した。


「これなら・・・!」

「久山さん、もしかして何か思いついたの?」

「そう。だからアンタも測って。」

「?わかった。」


ぶっきらぼうな口調でメーターを差し出すと、神原はちょっと困惑気味に受け取った。


「数値いくつ?私二七五〇。」

「ええと、二二五〇。・・・あれ、結構高い?ってことは。」

「やっぱり。平里さん!」


私が呼びかけると平里さんは渋い顔をしていた。勝手に神原にもメーター渡したのが嫌だったのかな。


「久山、もしかしてお前らが魔導具使おうとしてないか?」

「そうですけど。」


メーターを返しながらさらっとそう言うと、平里さんは額を押さえて俯いてしまった。なにかマズいこと言っちゃった?


平里さんはそのまましばらく唸っていたが、やがて腹を決めたように「よし」と言って私たちに向き直った。


「どんな魔導具なら使えそうなんだ?」

「え、良いの?監督責任とかで問題にならない?」

「他に方法も思いつかないしな。それに生きて帰れなきゃそもそも責任もないだろ。」

「平里さん・・・。やっぱり昔からなんだかんだ優しいよね。僕は拳銃っぽいのがいいな。」

「余計なこと言うな。」


平里さんは神原の言葉にぶっきらぼうに返すと、上着の内ポケットをゴソゴソと漁り出した。


「これとかどうだ?」


平里さんは白いステンレスのような質感の、拳銃のような形の、箱と板をいくつか組み合わせたようなものを取り出して神原に見せた。どう見てもポケットの大きさに入らなそうなんだけど、どうやって入っていたんだろうか。

平里さんが陰陽師なら、結界術の応用で納得できるんだけど。魔力では基礎はできても応用はできないから、不思議だな。陰陽師に師事していた経験でもあるのだろうか?


「ありがとう!これ使わせてもらうね!」

「ん、じゃあ次。久山は?」

「あ、じゃあ和弓みたいなのってありますか?矢は魔力で出す型の。」

「ちょっと待ってろよ。それなら・・・。」


平里さんはそう言うとポケットからズルっと弓を取り出した。不思議なポッケみたい。本当にどうなってるんだろう。このポケットも魔導具なのかな。


「弓本体と弦に陣が組み込まれてるから魔力通すだけで矢が出てくるようになってる。ただ、属性切り替えの機能は付いてないからその辺は自分で調整するしかないが・・・。」

「そのぐらいなら大丈夫です。」


私は平里さんから弓を受け取ると、まじまじと弓本体に彫り込まれているの魔導回路を観察してみた。私の背の丈程もある白木の和弓に、レースのような精緻な模様。そしてその中に無駄なく織り込まれている回路。私はその完成度の高さに感嘆しながらも、魔力操作の基本を思い返した。


ゆっくりと体の熱を手元へ集める。じんわりと手が温かくなってきたらそのまま魔導具へ熱を受け渡す。たったこれだけ。あとは各々で努力するしかないらしい。霊力操作も似たようなものだから、異能力ってそんなものなのかも。ただ、霊力はあくまで体内で回してるから速度は気にしたことなかった。なら、と思って、ゆっくりを意識して魔力を手元へ集めてみた。・・・霊力違ってちょっとあったかい。心地いいな。


私がその新発見にちょっとワクワクしてると、ふと隣で練習してる神原の様子が目に入った。


「神原!危ないから俺の手掴んで練習しろ。ゆっくり込めないと爆発するから。」

「え、爆発?・・・なるほど!わかった、いざという時は一気に魔力込めれば良いってことだね?」

「違うっての!」


どうやらいつもの霊力操作と同じ速度で魔力操作をしようとしたらしく、平里さんに小突かれていた。

いざってときって・・・自爆でもするつもりなの?

うわぁ、と若干引いた顔で様子を眺めていると神原と目が合った。


「あ、久山さんはもうできるようになったんだね。すごいなぁ。」

「別に。たまたま基礎覚えてただけだし。」

「それでもすごいよ。魔力なんて普段使わないのに。」


にっこりと屈託のない笑顔で賞賛されると、相手がコイツでもちょっと嬉しいと思ってしまった。駄目、絆されないで。私。


「神原ー?時間ないからこっちに集中しろ。この流れを覚えとけ。」

「あ、うん。・・・随分ゆっくりなんだね。」

「体内循環と同じ速度じゃ魔導具の強度が足りないからな。久山は・・・驚いた。魔力操作が上手いんだな。ロスも少ないし。」

「あ、ありがとうございます。」


平里さんは神原の手を掴んだまま、感心したように私の手元を眺めた。本職の人に褒められると嬉しいな。上手くできててよかった。




なんとしてでも、ここから生きて帰らなきゃ。このまま死ぬ訳にはいかない。まだ、やるべきことは山積みなんだから。

この世界における定義解説コーナーです


⑤霊域について

霊域とは怪異の作り出した異空間の総称です。霊域内部は時間の進む速度がおかしくなっていたり、空間が不自然に繋がって迷宮のようになっていたりします。基本的に内部には怪異が大量にいるため、しっかりと準備してから立ち入るのが賢明でしょう。


⑥学校について

陰陽師・魔導師の異能者は初等部は任意で、中等部以上は専門の学校に通うことが義務付けられています。ただし、全国各地にある怪異対策支部で乙等級以上の異能者に師事している場合は高等部まで入学を遅らせることが可能です。

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