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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
一章:Lotus
39/79

逃げられない!

「待たせたな。」

「あ、平里さん。」

「中で待ってても良かったんだぞ?暑かっただろ。」


店の外に立っていた背中に声を掛けると、松也はにししっと笑って俺の肩に腕を載せてきた。


「分かってるでしょ。あの人と二人になったら耐えられませんよ。」


ちらりと店内に目を向けると、松也は苦笑した。


「苦手か?ああいうタイプは。」

「苦手・・・っていうか・・・落ち着かなくなるんすよね。神原たち相手にしてるみたいで。」


『神原』。


その名前に俺はピタリと動きを止めた。

少し傾き始めた日が、ゆっくりと影を伸ばしていく。


「平里さん?」

「あ、ああ。なんだ?」


名前を呼ばれてハッとした。ぎこちない顔で向き直ると、松也は驚いた表情をしてこちらを見ていた。


「平里さん、まさか・・・いや、なんでもないっす。」

「なんだよ。」

「いえ、なんでもないです。・・・ところで、今日お邪魔しても良いっすか?」

「どこに?」

「平里さんの家。」

「なんのために?」

「さっき言ったでしょ。『話の続きは後で』って。」

たしかに言ってた、が。

「今散らかってるから・・・その辺の店とかじゃダメなのか?」

「だいじょーぶっすよー。気にしませーん!・・・それに外で話すと絶対大事なこと伏せますよね?」


にっこにこな作り笑顔を浮かべて目の奥でこちらを睨め付けると、松也は逃げようとした俺の両肩を思いっきり掴んだ。


「ねー?平里さん。」


逃げられない・・・!蛇かよコイツは・・・!!!


「う、ぐぅ・・・!分かったよ!!!文句言うなよ!!!」

「やったー!あざーっす!」


勝った!と言わんばかりの松也の笑顔に胃が痛くなりながらも、俺は家の方へと歩き出した。


***


歩くこと約十五分。

目の前に現れた無骨な鉄筋コンクリートのアパートに何故か松也は目を輝かせていた。


「そんな面白いか?」

「だってこんなシンプルっていうか、飾り気がないっていうか・・・箱みたいな建物初めて見ました!」

「ふーん」


下位だったとはいえ六大家門である神原家の親戚、やっぱりこういう類の賃貸住宅とは縁がないのか。金持ちめ。


「あ!そういえば平里さんって何階に住んでるんですか?」

「一階。」

「へー、一階・・・一階!?セキュリティとか大丈夫なんですか!?空き巣とか・・・」

「今のところ大丈夫だな。たまに洗濯物がどっか行くくらいで。」


カラスが洗濯物ごとハンガー奪ってくんだよな、この辺。網とかで対策しても賢いから普通に突破してくるし。


「あっ・・・そうなんですね。」

「?」


なぜか急に静かになった松也に不安を覚えつつも、一階の奥から二番目のドアに鍵を差し込んだ。


「言っとくけど、汚いからな。何も期待すんなよ。」

「はーい。」


そう前置きして、俺は立て付けの悪いドアを思いっきり引っ張った。

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