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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
一章:Lotus
37/79

松也

「・・・久山?」


ポツリと口の端から零れた名前に、青年は目を見開いた。しかしすぐに元の笑顔に戻って口を開いた。


「今は古賀です。あの後、母方の親類の家に引き取られたので。」

「ああ、そう・・・」


久山、改め古賀松也。久山亡き今コイツが古賀姓を名乗っているってことは、完全にあの家は無くなったってことなのだろうか・・・。


って、そうじゃない。


「平里さん?どうかしまし___わわっ!?」

「どうしてここが分かったんだ?」


客のいない店内の隅っこのボックス席に古賀___もとい松也を押し込んでそう問いかけた。


「風早さんにも言ってないのに。」

「昔っから場所を探し当てるのは得意なんですよ。あの時だって、結界越しでも見つけてたでしょ?」


松也は得意げに親指で自身を指しながら常磐色の目を歪めてにへらと笑った。そしてはたとした様子で松也は「そういえば」と俺の顔を覗き込んだ。


「全然魔力感じませんけど何があったんすか?怪我して引退した、ってのは聞きましたけど。」

「・・・・・・ただの後遺症だよ。」

「そっすか。・・・ところで話変わるんすけど、何か食べても良いっすか?」


俺が素っ気なく返すと松也はそれ以上踏み込まずに備え付けのメニュー表を手に取った。


「はいはい。ご注文は?」

「えぇっと。ちょっと待って・・・」


松也がパラパラと頁を捲る音を聞きながら、俺はふっと窓の外の青空に目を向けた。

突き抜ける程の蒼と真っ白な入道雲のコントラストが、夏の到来を嫌でも実感させる。

さらに海の近くというだけあってか、湿気を含んだ風が吹き抜ける度に磯の香りが鼻腔をくすぐった。


そういえば、あいつらは海を見た事があったんだろうか___


不意に浮かんだ疑問にチクリと痛みを感じて顔を伏せた。


「平里さん!決まりました!」

「!あ、ああ。」


松也の声にハッとしてエプロンのポケットから小型のバインダーを取り出した。


「言っても大丈夫っすか?」

「ああ。どうぞ。」

「まずパンケーキとー、サンドイッチとー、ソフトクリームとー、あとサイダーで!」

「ちょっと待て」

「はい?」

「食べ切れるのか?」

「いけます。」

「そうかぁ・・・」


自信満々に断言する松也の様子を見て、「ならいいか」とペンを走らせて注文を書き留めた。


・・・パンケーキとソフトクリームってデザートだよな・・・。デザート二回食べるのかコイツ。

どこぞの大食らいもデザートは一回しか食べなかったのに。


そう頭の片隅で考えながら注文を繰り返して確認を取ると、俺は厨房へ引っ込んだ。


***


しばらくして。


湯気が立つ程の熱さをものともせずに、松也はパンケーキをペロリと平らげてサンドイッチに手を伸ばした。


「落ち着いて食えよー。」


水差しからグラスへ水を継ぎ足しながら俺は「喉詰まらせるなよ」と声を掛けた。すると松也はごくんっと喉を動かして頷いた。


「大丈夫です。それよりも早くソフトクリーム食べたいので・・・」

「そうかぁ」


溶けるから、と食べ終わってから出すことに納得していたものの、やっぱり先に食べたかったのだろうか。


そう思い少しの罪悪感に落ち着かない気持ちになっていると、サンドイッチの最後の一切れを口に放り込んだ松也が手を挙げた。


「ふぁふぇふぉふぁふぃまふぃいあ・・・」

「行儀悪いぞ。」

「・・・・・・食べ終わりました!ソフトクリームお願いします!」

「はいはい。」


空になった皿を厨房に下げて、ソフトクリームを椀に盛って戻った。


「お待ちどうさま。」


カチャンと涼やかな音を立てて硝子製の椀を目の前に置くと、松也はあからさまに目を輝かせた。


「わぁ・・・!いただきます!」

「あ、ちょっと待て。そんなに勢いよく食べたら・・・」

「ゔっ・・・!」


止める間もなくパクパクとソフトクリームを口に入れまくった松也は、案の定頭を抑えて固まった。あーあ。


「冷たいものを勢いよく食べると頭痛くなるぞー。」

「先に言って下さいよー・・・」

「言い終わる前にやらかしたのはお前だろ。」

「そうでした・・・」


痛みですっかり元気のなくなってしまった松也の様子に、かつての久山と神原のことを思い出した。あの時は・・・・・・確か、かき氷だったか。


「・・・ゆっくり食べれば大丈夫だぞ。」

「はい・・・。そうします。」


ちびちびとひとさじ、またひとさじとしょげたまま口に含んでいくのがなんだか面白くて、俺は思わず笑ってしまった。


「なんで笑ってるんすか?」

「いや・・・なんでも。・・・ふっ、はは」

「ちょっとー?平里さん、めっちゃ笑うじゃないすか。」


そう言って松也は頬をふくらませながらも、楽しそうに目は輝いている。

これは・・・そうか。


「・・・・・・ありがとう。」

「ん?何のことすか?」

「いや、なんでも。」

「・・・へへ、はーい。」


松也はきょとんとした表情を浮かべたが、少しだけほっとしたように笑った。


『あの後』『あの時』に関しては前日譚参照です

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