三月十八日②
実際に目にした霊域内部は、先程桐生が見せてくれた地図とほぼ相違なかった。違う部分といえば、坂道の所々に積み上げられた小石ぐらいだろう。
岩盤をくり抜いたような不自然な大穴を覗き込んでみたが深すぎるのか、底に暗い闇が広がっているばかりだった。下から吹きあげてくる湿気を含んだ冷たい風がふと頬を撫ぜると、突然身も心も凍えるような悪寒に襲われた。
「ッ・・・・・・は。」
息を大きく吐き出して気分を落ち着かせようとしていると、後ろにいた神原がとんとん、と肩を叩いてきた。
「大丈夫?」
「ああ・・・もう大丈夫・・・。」
「本当にぃ?」
神原は疑わしげな視線を向けると、不思議そうな表情を浮かべた。
「っていうか、何度も来てるのになんで毎回同じことしてるの?」
ひそひそと小声で神原は俺にそう尋ねた。
「あ・・・それが。覚えてないんだ、この霊域のこと。」
同じように小声でそう返すと、神原は「ふぅん」とだけ呟いて黙った。
「二人ともなに話してるの?」
「小鳥遊に言うほどのことじゃない。」
「平里がビビってたから励ましてたんだよ。」
「ビビってねぇ!」
図星をさされて思わず大声で反論してしまい、慌てて周囲を見回した。怪異の気配はなく、しんと静まり返っていることを確認して俺は安堵した。
「悪い、ムキになって。」
「ううん、僕もデリカシーなかった。ごめんね。」
「ねぇー、そろそろ先に進んでいい?」
声の方を見ると、隊列から少し離れた坂道の始点で久山が腕を組んでいるのが見えた。
「すまん。」
「ごめん。」
慌てて駆け寄ると、久山は仕方ないなぁ、とでも言うように笑った。
「じゃあ行くよ。各自何か気付いたらすぐに声に出してね。」
久山はそう言うと躊躇いなく坂道に向かって足を踏み出した。




