【番外編】桐生ちゃん単独任務②
「ど、どうしてこんな・・・私も殺される・・・?」
東都警察署内取り調べ室。薄暗い部屋の中で、事情聴取に来たはずの年若い女性はガタガタと震えながら椅子の上で縮こまっていた。簡素な折りたたみ式のパイプ椅子は女性の身体の振動に合わせてカタカタと音を立てた。
私は目の前の女性を安心させようと微笑みを浮かべてなるだけ優しい声で話しかけた。
「落ち着いてください。そんなことにならない為に私___陰陽師が派遣されたのですから。」
「で、ですが・・・私にも彼女と同じ斑点が出て・・・」
女性は視線を忙しなく動かしたあと、縋るような視線で私を見つめておずおずと口を開いた。
「本当に・・・本当に大丈夫なんですね・・・?」
「はい、ご安心ください。」
私はにっこりと口角を上げて自信ありげな笑顔を貼り付けると、女性に問いかけた。
「ですから、被害者とあなたのことを教えていただけますか?」
***
パチン、と傘のようなカバーの付いた古めかしい卓上ライトを点けると女性は眩しそうに顔を顰めた。
「すみません、眩しかったですね。」
「いえ・・・大丈夫です。」
女性はまだぎこちないながらも会話できる程には落ち着いてきたようだ。
「それで・・・ええと。ミヤコ・・・被害者、の。彼女と私は同人活動で知り合った友人なんです。」
「同人活動?」
「ああ、ええと。趣味で行う創作活動___マンガとか、音楽とか___のこと、です。」
聞きなれない言葉に私が首を傾げると、女性は丁寧に注釈を添えてくれた。
「そうなんですね。あなたは何を?」
「あ、えと。私は主に漫画を・・・彼女は小説でしたけど・・・。」
彼女、というのは被害者のことだろうか。私は情報を引き出すべく雑談を続けることにした。
「お二人ともお話を考えるのが得意なんですね。」
「あ、や。得意って程では・・・。私も彼女も二次創作しかしてなかったですし。」
「二次創作?」
また知らない単語が出てきた。私が再び首を傾げると、女性は悩む素振りを見せた。
「うーん・・・」
「どうかしましたか?」
「えぇっと、二次創作っていうのは・・・」
女性は歯切れ悪くそう言うと、唐突にジャケットのポケットを漁り出した。
「えっと、これじゃなくて・・・あ、あったあった。」
女性はポケットから小さなクリアケースを取り出すと、中から紙を一枚抜き取って私の目の前に差し出した。
「これは・・・もしかして名刺ですか?」
「はい、イベント用の名刺です。」
可愛らしい絵柄の少年たちが描かれた紙片に目をやりながら名刺にイベント用も何もあるのだろうか?と疑問に思った。だが、ここで話を止めても仕方がないし、と考えてとりあえずはそのまま女性の説明を聞くことにした。
「それで、この名刺のここに描いてある子たちなんですけど、」
女性はとんとんとイラストを指先で示すと、先程までと違ってやたら饒舌に語り出した。
「『帝都七日戦争』っていうアニメ化までした人気漫画作品のキャラなんです。それで、その子たちのファンアートというか、こういうことしてたら良いなー、みたいな妄想を紙に起こしたりSNSに上げたりとか。そういうことを二次創作って言うんです。」
「そうなんですね・・・。興味深いです。」
つまるところ二次創作というのはアニメや漫画の世界観やキャラクターを借りてファン自身が見たいものを作り上げる、ということなのだろうか。・・・。
「さて、話を戻しましょうか。」
「あっ。すみません。」
「いえ。」
私が聴取を進めるべくそう口にすると、女性はバツが悪そうにまた椅子の上で縮こまった。
「大丈夫ですよ。・・・あなたが彼女と最近一緒に出かけた日時、場所、会った人。覚えている範囲で構いませんので、教えていただけますか?」
「は、はい。えっと・・・」
女性は何かを指折り数えると、重々しく口を開けた。
「先週は同人誌も扱っている古本屋に行って・・・その前の週には巡礼で廃校に。」
「廃校?それはどこのですか?」
また知らない単語が出てきたが時間もったいないのでそのまま進めることにした。それにしても、東都結界内に廃校なんてなかったはずだ。私の知らないうちにどこかが廃校になったのだろうか?
「日原です。」
「日原。」
日原・・・東都近くの山の方にそういう地名があったはず。と、言うことは結界外に行ったということか?
「東都結界から外に出たのですか?」
「は、はい。・・・あの、何かいけなかったでしょうか・・・?ちゃんと手続きもして出たのですが・・・」
「いけないこと、という訳ではないのですが・・・ただ結界外は怪異が出没するので危険なんです。年に数回は結界外で怪異絡みの事件が起きているので。」
そこまで説明すると女性はサッと顔を青くしてガタガタと震え出した。
「ま、まさか。その時に・・・?」
「落ち着いてください。外に出た時に真名___フルネームが分かる状態でしたか?」
「いえ・・・さすがに小さい頃から口酸っぱく言われてたのでそれはずっと気をつけていました。」
「なので恐らくないと思います」と女性は自信なさげに答えると俯いて黙り込んだ。
「そうでしたか・・・それなら、誰かに会いましたか?」
「いえ、誰も。」
「それなら、古本屋では?」
「店員さんと、店長さん・・・あと他に数人お客さんがいましたが・・・。」
「そうですか。」
場所的に怪しいのは廃校だが呪術という人為的なものである以上、古本屋で犯人と接触した可能性の方が高い。
「ご協力ありがとうございました。それでは事件解決まで保護させていただきますので、職員の指示があるまでここでお待ちください。」
私は女性に、にこやかにそう告げて退室した。そして扉の横に待機していた東都支部の陰陽寮職員に「あとはよろしくお願いします」と頭を軽く下げると、そのまま廊下の突き当たりの会議室へと向かった。




