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いと愛しき君たちへ  作者: おおよそもやし
前日譚:不揃いな式盤
16/79

久にあらずと

「神原、もうすぐで階段が見えてくるはずだ。」

だから頑張れ、とでも言いたげに平里さんは僕を見た。


「わかった。ところで平里。」


「サヤは寝てるの?」

「・・・え?」


僕の言葉に平里は一瞬動きを止めた。

そしてその呼び名の意味を正しく理解すると、息を呑んで目を丸くした。


「お前、まさか・・・神原、なのか?」

「それだとどっちか分からないでしょ?・・・まあ、通じたから良いけどさぁ。」


僕は平里の隣に並ぶと、眠っている片割れの顔を覗き込んだ。

まだ顔に巻かれたままの封印具が痛々しいけれど、すやすやと穏やかな寝息を立てているのを確認して、僕はほっとした。やっとこの家から離れられるのだから幸せになって欲しい。


「なぁ、その・・・いつからだ?」


愛しいなと思いながら片割れの寝顔を眺めていると、平里が掠れた声で問いかけてきた。


「そんな怯えなくても良いのに。別に前回だって口喧嘩こそすれど、手を出したことはお互い一度もなかったでしょ。」


ね?と笑いかけると平里は「確かにな。」と言いながら後ずさった。


「なんで逃げるのさ。」

「逃げてない。さっさと質問に答えてくれ。」

「場合によっては逃げるつもりでしょ。・・・別に騙してた訳じゃないよ。さっき壁ブチ破った時に・・・。」

「あぁ・・・なるほど。だからあの時無事だったのか。」


僕の回答に安堵の笑みを浮かべると、平里はゆっくりとまた歩き出した。


「・・・まさかお前も覚えてるとは思わなかった。」

「そうなの?」

「だってお前、俺のこと嫌いだったろ。」

「・・・君がそう思うんなら、そうなんじゃない?」

「なんで急に不機嫌になってんだよ。」


嫌いだったらそもそも話なんてしないのに。

・・・まあ、いくらちゃんと本音ぶつけてくれるのが嬉しかったからって、あんな絡み方してたら勘違いされても仕方ないか。

僕がどう返そうかともだもだしていると、平里が「そういえば」と思い出したように呟いた。


「風早さんも覚えてるぞ、前回のこと。」

「・・・え?」


そんなはずは・・・。()()()()()()()()のは平里だけなのに。

いくら霊力が桁違いに高いからといって、そんなことが有り得るのだろうか?


・・・面倒だな。


僕はわざとらしくため息を吐くと、平里を見上げた。


「ねぇ平里。風早さんには僕のこと内緒にして。」

「え?なんで。」

「だって、平里だけじゃなくて僕も覚えてる、なんて知ったら面倒くさそうじゃない?」


嘘は言っていない。主に認識の齟齬とかが、だけど。


「ふーん。ま、確かにあの頃みたいに猫可愛がりされんのもキツいもんな。」


平里は勝手に納得すると、ニカッと明るく笑った。

やっぱりアレ、傍から見ても猫可愛がりだったんだ。・・・平里もやられてたけれど。


「わかった。言わないでおいてやるよ。」

「ありがと。助かるよ。」


僕はほっとして、一歩前に出ると、


「それじゃ、話も済んだし早く帰ろう。」


と笑いかけた。

平里はやれやれといった風に微笑むと、ちょっとずり落ちてきたサヤを抱え直して僕に続いた。


サヤの暴走は今回は起こらなかった。これも平里と風早さんのお陰だ。


風早さんのことはちょっと想定外だったけど、二人がいるならきっと今度こそ幸せに____みんなで笑っていられるはずだ。


きっと、これからは・・・。


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