とある王女のモーニングルーティン
【午前7時 寝室】
部屋に入ってきたのは、専属メイドのアチル。
毎朝、王女を起こすために奮闘する。
「おーじょさまぁー! あーさでぇすよぉ!」
身体をゆさゆさと揺らしながら、そう声をかける。
「むにゃむにゃ、そんなに蒸しパンを持ってきたら、食べきれない……」
(また、寝言かぁ……)
アチルは呆れながらも、身体を揺らし続ける。
「ほら、今日は国王様と出かける約束を……」
「えー、次はケーキぃ? ふへへ、いいのぉ?」
夢見心地の王女に、キレかけたアチルはポケットからあるモノを取り出した。
なんと、それはコショウである。
王女の鼻に、コショウを振りかけると……
「へ、へっ……へっくち!」
くしゃみの反動で、王女は目を覚ました。
「ア、アチル! コショウは止めてってあれほど!」
「だとしたら、呼び掛けてらすぐに起きてください」
アチルは満面の笑みを浮かべながら、部屋を出た。
(アチルが満面の笑み……あれ、完全に怒っているわ……)
▫▫▫
【午前7時50分 食堂】
寝室用の服から、食事用の服へ着替えると食堂へ向かう。
毎朝、8時には朝ごはんを食べる習慣がある。
(近隣諸国の王室に比べれば、割かし遅い時間ではあるが)
「おはようございます」
食堂には、家族が既に座っていた。
国王と母上、そして弟だ。
「随分と遅かったですわね」
母上が言う。
「……え、ええ。少し寝坊しまして」
「またアチルに無理やり起こされただろ。愚痴を言いながら、メイド室に戻っていってたよ」
弟が横から言う。
「……ちょっと、言わないでよ」
王女は小声で言う。
「いい加減、アチルに迷惑をかけないように。自分で起きるよう、努力をしなさい」
国王が呆れながら、そう言う。
「……はい、すいません」
「朝食をお持ちしました」
メイド長のリスレが、食事を乗せたワゴンカートを押して食堂に入ってきた。
「前菜のサラダと、麦飯。そして、ビィージのトマト煮込みでございます。」
ビィージは羊の配合種で、王女が住んでいる国の名産家畜だ。
他の羊肉と違い、風味のクセがあまり強くないのが特徴だ。
そして、食事は基本的に黙食である。
命あるモノを頂く事に心の内で感謝をしながら食べるのが伝統で、王室に限らず一般市民までこの黙食が浸透している。
▫▫▫
【午前9時37分 浴室】
朝食を済ませると、身体を洗うのが定番だ。
家族は夕飯後に身体を洗うのだが、王女だけは朝食後に済ませる。
理由は、前専属メイドであるミボシの影響がある。
ミボシに育てられた王女は、他の家族とは違い毎朝身体を洗っていたと言う。
混雑を避ける為に夕飯後ではなく、朝食後を選んだと聞いている。
それがいつしか、自分自身のルーティンになっていった。
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【午前10時7分 更衣室】
身体を洗うと、そのまま更衣室へ向かう。
この日は、国王と隣国へ謁見する事になっている。
(隣国の王子の誕生祭に呼ばれて赴く事になったのだ)
「うーん、どっちが良いのだろう」
清楚な純白が良いのか、それとも少々派手に色付きのドレスにするか。
「ねえ、ドレスはどっちが良いと思う?」
メイク道具を準備していた、アチルに聞いてみる。
「……わたくしに意見、ですか? そうですねぇ……今回は隣国の王子の誕生祭ですから、あまり派手にしない方がよろしいかと」
少し考えた後「そうね、言う通りかもないしれないわ」と、白のドレスに決めた。
「では、ドレスに着替えましたら、化粧を施しますね」
アチルが言うと、王女は頷いた。
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こうして、着替えて化粧を施した王女は、国王と隣国に向けて馬車を走らせたのであった。
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