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十九話、暴走。

長らく更新休んでいて申し訳ございません、  現実での忙しい時期は、峠を越えました。

◆◆◆


 ————瞬間、聖女の腕が切断された。



「……は?」



 腕が落ちる。切断面から血がどろどろと、肉片を零しながら……地面を血に染める。



「? …………それ、た……?」



 小首を傾げて、その腕に小さなナイフを持って聖女を見つめる。


 よたよた、と頼りない足取りでどうにか歩き出し、ナイフを確かに握りしめる。



「魔力を込めた飛ぶ斬撃、しかも私の腕を切断し得るほどの精度、ですかあ〜

 ————久々にキレだぜ、おい」



 聖女キックを放たれ、その爪先がアラカの溝に減り込む。



「っ……!」



 数メートル吹っ飛んで地面に倒れ伏す。肺を潰されたのか酷く苦しそうな顔を浮かべる。



「兄さんはそっちのクソドラと死想とその他諸々を足止めしといてください」

「あいよぉ!」



 腕へと豪炎を纏わせ、かかかっと笑うムラサメは黒竜の綴へと飛びかかった。






「ああ……そうでしたね、凄まじい回復を繰り返している、のでしたか。

 戦闘できるまで回復してるとは、本当に化け物ですね〜」



 ————素直にぶっ殺しに来ている。

 それほどまでに回復している。



「綴、さん……きずつけ、た。

 報復、しなきゃ……」



 虚な瞳で、まともに前すら見れないような極限状態で少女は悪意を滲ませた。

 ただ殺意、ただ悪意。それだけを頼りに立ち上がる。


「傷付けても、平然と生きているなんて、いう……不具合は、ただ、さなきゃ……うう、ん…ちが、う」



 善意など、善行などは凡人にだけ許された所業。

 悪意しか向けられなかった惨めなゴミは、惨めなゴミとして、悪意だけを身に纏うしか生きる術を持たない。


 ゆえに。



「気に食わないから、私、が、殺したい、と思うから……

 ————ころさ、なきゃ、ね」



 歪に笑む。瞳が真紅に染まる、殺意が滲み出る、瞳に宿る真紅がその輪郭をぐらつかせながら、けれども確かな形をなしている。


 顔を上げ、空へと〝夏の日差し〟を背にして立つ、聖女が、視界に。

 


「ぁ…………」




 ————夏。



「…ぇ、……ぁ……ぁ」



 ————アラカはその時、初めて自分が泣いていることに気付いた。



「……………」



 瞳孔が、震えてる。身体の包帯から、血がじわりじわりと溢れ出す。



「…………」



 ガラス玉のような瞳で、ただ溢れる涙を眺めてる。

 とても静かな呼吸が、その世界を支配する。



「…………ぁ、……ー………」



 こて、と膝を折る。


 無理が来たのだ。羽が折れそう、折れたい、気持ち悪い、そんなこと出来ない。


 立とうか、疲れている、少しだけ、本当に少しだけ…やす、もうか————違う。



「っ……!」



 ————ドォォォォォォォォォォォンッッ!!


 しかし未だ戦闘は続く、即座にその場から飛び退き、足先を犠牲に攻撃をかわす。



「……生死の寸前だけは察して避けますか〜

 全くもう……無理するのですから。しかし壊れていて本当に命拾いしましたよ〜」



 とん、と革靴でアラカの頭を踏み付ける。

 身体中はボロボロで、再生できるほどの精神的な余裕もない。



「……………」


「……不思議ですねえ。滅私奉公したあなたが、微塵も救われないなんて。本当に不思議。

 以前は、英雄と呼ばれたあなたが、どうしてこんなにも惨めで、滑稽で、憐れで、嗤えるのでしょう」



 頭の上に乗せた足を、ぐりぐりと貶すようににじる。

 腹部を蹴り、蹴りつける。アラカからの抵抗は無い、もう抵抗するだけの余裕が残っていない。



「……滅私奉公、したのは…………だれ?」


「————」




 その言葉に、聖女は頭が真っ白になった。



「滅私奉公、したの………だれ?

 みじめ、なの…………だれ…?」

「……………………」



 何も、言えない。今の一瞬、ただの一瞬でこの少女は一体どれほどの情報を、聖女から簒奪したのだろう。

 一体どれほど、見透かされたのだろう。


 ————自分は今、本当に優位に立っているのだろうか?


 その言い知れない不安に、聖女は冷や汗を掻く。



「…………ふ、ふ……」


「……笑うな」



 天使のような笑みなのに、酷く苛々させてくる。敵意が沸く、殺意と殺意と殺意が聖女の脳裏を埋め尽くす。


「あは…………は……」


「笑うなッッ!!」



 衝動のままに放たれる拳は素人目にも軌道がぶれていることが分かる、まるで稚児の暴走だ。


 怒りのままに拳を振るう聖女は同時に、こんなことを考える。



 ————もし、全盛期だったら、と。



「……っ! ええ、そうですかそうですか〜。

 ならいいでしょう————テメェの人生に欠損でも残しちまえばいいのかねえ?」



 全身がもう壊れて、関節部も破壊されて一部は骨さえみえている。

 そんなアラカの首筋の…花の紋章に触れて、魔力を注ぐ。


「……ッ…!」


「あなた、性行為とかで精神が壊れたのよね……じゃあ、それを信じかけてた誰かにされたら、どうなっちゃうのかしらね」



 胸ぐらを掴み、耳元でそんなことを囁く。そしてアラカをそこらへ投げ捨ててからムラマサへ呼びかける。



「にーさーん! そろそろ帰りますよ〜。

 そんなところでジェル状に溶かされてないで早く来てください〜」



 聖女は斬り落とされた腕を拾い上げて、肉と肉を重ねて……淡い光を放ったかと思えば……切断された腕が元通りに治っていた。



 そして綴に問答無用で二桁ほど瀕死にされていたムラマサも再生をして爆発して肉片になって聖女の足元にぺちゃ……と落ちる————そして再生をする。




「逃がすと、お思いですか?」

「ええ、それはもうっ」



 綴の問いかけに元気いっぱいで答える聖女。

 そしてアラカを掴んで綴へと見せつける。



「だって言ったじゃないですか〜

 ----挨拶は終わったって」



 アラカを投げ飛ばして綴へと渡す、それを受け止めない綴ではなく可能な限り衝撃の少ない人間の身体に変化して受け止める。



「……何か、流しましたね」



 即座にアラカの変化に気付く、そして————瞳を重ねた。



「アラカくん、その身に宿る毒を今すぐ私に————寄越しなさい」


「ぁ……ぁ、ぁ……ぅ……」



 唇を強引に奪う。そこを起点にアラカの身体に流されたものが綴へと流し込まれる。



「眷属の所有物を奪う際に使われる機能を、毒を移すために使うなんて本当に変わってますね〜」



 それは眷属の機能を使用した技であり、それを眺めて聖女は綴を眺め。





「————まあ、それが狙いなのですけれど」



 狙い通りと、ほくそ笑んだ。



「…………っ…!?」



 瞬間、綴がアラカから目を逸らしながら頬を紅潮させた。



「っ……ッ゛…!」



 次いで、息が荒くなる…それを抑えようとするほどに、その激情は暴走を繰り返す。

 加えて何処か、悪意や憤慨を滲ませて、歯軋りをしだす。



「今の隙に逃げますよ」

「………」

「兄さん?」

「ん? おう、わかった」



 それをみて消化不良だ、と憤慨しつつも聖女はその場を離れた。




「戦闘は、終わった……の…?」


「…………」



 ウェルが安全確認をするためか、その場にふわりと降りてくる。見れば手紙による再生も出来たのか



「おーい、クソ、ドラ……何してる、の」


「……すまない、少し」



 身体を竜の形態に変え、大きさはワイバーン程度のものとなり…アラカを抱き上げて……。



「————この子を痛め付けてくる」

「……………は? なに、いx」



 ————————————————。



 轟音、轟音、轟音! その場にあらゆる破壊音と、それに相応しい破壊を齎して竜は空へと飛び去った。

次回、r18シーンです。

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[一言] 行動返しの会話的に強引でも喜びそうな気もする
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