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十七話、聖女派副首領


 大爆音の果て。壊れたアスファルトに、記者らの死体が溢れかえっている。



 ウェルは朝凪が庇い、どうにか生存。


 アリヤは春馬がギリギリで抱き締めて飛んだことで事なきを得る。



 生きているのは結界を張ったウェルや、アリヤの周辺の少しの記者ばかりで他は死んでいた。ウジテレビも死んでいた。





 ウェルからの治療を受けて、どうにか千切れかけの手足を治している朝凪。


 アリヤと春馬は元々、離れた場所にいたため、春馬が飛び退くだけで効果範囲からは外れた。精々春馬の足の一部に虫に齧られたような穴が出来ているだけである。






「……急に攻撃、ですか。

 随分なご挨拶ですね」



 綴は黒竜の形態になり、アラカを庇う姿勢で背に刺さる大量の〝火の槍〟を消滅させる。



「耐久性の持つ竜の鱗。

 そして体積を大きくすることで起きる耐久性能の低下の配慮。

 刹那の間にそこの眷属を庇うように、いや実際庇ったのか。

 魔力による性能強化、今の一瞬でここまで貼るとは、お前すごいやつだな!」




 睨み付けた先、夏の太陽を背にただただ真っ直ぐな笑顔を浮かべる青年がいた。



 そう、真っ直ぐな笑顔(・・・・・・・)だ。



「おう、そうだ! 紹介が遅れちまったな! いけねいけねっ」



 くかか、と屈託なく笑う————周囲に散らばる死体を造った張本人が。



「聖女派副首領! 桐谷ムラマサ! 聖女の唯一無二の〝眷属〟であり」



 拳を握り締め、キャッチボールをする際のように、腕を後方へと控え。






 ————腕が大爆炎と呼ぶべき火力を纏う。



「この世全ての英雄を目指すものだああああああああああああ!!!!」



 ドォォォォォォォォォォォンッ!! 大爆音と共に放たれる腕の炎。



 腕に炎を纏わせて、振り被る。それだけ、本当にそれだけなのだ。



 だと、いうのに。



「安心しなァ! しっかり還元炎の性質を込めてるよォ!!」



 この炎、は。




「酸化しない配慮ご苦労様、最高にいらないですね」




 ————綴の身体を貫通せしめた。



「(……これを試練に運用するには、少し強過ぎるな。

  手加減したら、普通に死にかねない)」



 炎の細かな調整さえ可能とする術技。



「つ、づ…り……っ」


「大丈夫です」



 龍の鱗を貫通して、穴さえ空いている。当然、不死の異能で修復されるが重要なのはそこじゃない。



「はっはーーん! 防御不可能な我が術技!

 これぞ不滅の夏(エーテ・イモルテル)の真髄なりッッッ!!」



 ————装甲を破壊して貫通する超火力。


 それが尋常な術技ではないのは、相手の〝腕〟を見れば明らかだった。



「己でさえ御しきれない域の超火力。

 とんでもない欠陥技ですね————右腕が黒い骨だけになってるじゃないですか。」


「————」



 僅かに生き残っているテレビ局のスタッフは、その尋常じゃない状況に嘔吐した。




 ————ムラマサの右腕は、余りにも致命的に壊れていた。


 少しだけの肉の繊維と骨を残して何もかもが残っていないのだ。


 最早スケルトンといった方がいいような壊れ方、そして恐るべき点としてそれを〝自分の技〟の反動だと嗤っていることに尽きる。




「あっはっはっは! 英雄には無茶はつきもの! そういうもんだろう? それにほうら」



 腕をトントンって叩き。


「————守護騎士は死なないんだよ」




 ————再生を始めた。



「……なるほど、君は聖女の〝隷属〟の眷属ですか」


「応とも! 自由意志に俺は俺だという真理! 行動殺人鏖殺と!

 何もかもが許されてる隷属だがなああああああああああ!!」




 眷属の種類。

 傀儡、寵愛、隷属。様々な種類があり、それによって起こる変化も様々だ。


 傀儡であれば〝無意識を操作する〟という事象が可能だった。無意識のうちに行動してしまう……その無意識を自在に加護所有者は操れる。


 寵愛は様々な加護の中でも唯一〝縛りらしい縛りがない〟という特徴がある。当然、副作用めいたものも幾らかあるが、基本はそうだ。




 そして————隷属。

 ありとあらゆる面を〝封じる〟ことが出来る。

 有体に言えば奴隷だ。主人の死亡でも死ぬし、主人が気分が悪くなればそれだけで窒息しかける、痛みを覚えればその痛みを共有され、そして




「聖女がいる限り! 死なぬ老いぬ黄昏ぬうううううう!!」

 邪竜の〝寵愛〟の眷属よ! その技を示せぇぇぇい!!」





 ————主人が生きてる限り、ソイツは死なない。






「させませんよ、君という試練はまだ難易度が高すぎる」



 竜形態の綴が飛び込んでくるムラサメに頭突きを放ち吹っ飛ばす。大重量、そして魔力の扱いに長けている綴の頭突きは並の怪異ならば半壊させる威力を持つが……。



「はんっ、試練だぁ!?

 ————お前はこの子の神になったつもりかよ、くっだらねえええええええええ!!」



 ぶっ壊れた瓦礫から頭に一筋の血を流したムラサメが大激怒を繰り返しながら突っ込んでくる


 腕に炎を纏う————全てを破壊せしめる火力を持つ炎だ。



「何が試練で何が道かは聖女が決める! そしてお前はただの人!

 人が神の真似事するなああああああああああ!!!!」



 両手を駆使して放たれる拳はしかし、その性質から防御も不可能。

 そして時よりバズーカのように飛ばされるそれは余りにも強力な一撃だ。



 ————だが、しかし。



「残念です。神の真似事ではない————魔王の真似事をしたいのですよ。

 分不相応なのは百も承知、ですがそれでも」



 ————黒竜のアギトは、ムラマサの腕を意図も容易く喰い千切り尻尾で吹き飛ばし。



「成したい夢がこの身にはあるのですよ」



 ドロドロになった腕をそのままムラマサへと吐き捨てた。



「ぎゃあああああああああーーーーーーはははははははぁーーーーー!!」



 痛いのか、歓喜しているのか、恐怖しているのか、狂しているのか、どれでもなくどれでもある大爆笑をもって、ムラマサは立ち上がる。



「は……なるほど……理性派の元首領というのは、本当らしい。

 嗚呼、クソ……半身が溶けちまったよ。へへ」



 軽やかに、爽やかに、純白な子供のようにそう笑んで————溶けた半身を笑った。



「ニーベルングの指環に登場するファブニルは、己の黄金を奪おうとしたものへと酸の毒を吐いたらしい。

 ははっ、眷属がお前の黄金かよ、眷属なんて普通は使い捨ての道具だろうにな」



「無論ですよ。この命が紙屑にしか思えなくなるほどの輝いている、至高の宝玉だ。

 ————ゆえに死ね、お前は不快だ」



 口腔内に魔力が集まり————殺戮の————ブレスを————放つ————刹那に。







「————————それは少し待ってほしいのですよ〜」



二章の敵キャラ登場です。通常攻撃一回したら腕が無くなります。


ただすぐ再生します。例えるなら毎ターンステラを撃って来て、ターン終了時に全回復してくる感じです



読んでくださりありがとうございます…!

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