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十六話、テレビ局


 一国のトップの来日。それは話題性が常に上がる大事であり、ゆえにこそその日も報道陣がその場に集まっていた。



「本日! 寝◯られ絶対殺す聖教国の事実上のトップとされるレヴィア教皇が来日します」


「レヴィア教皇が来日する間は側であの菊池アラカ君が護衛として側にいるそうですね」


「魔力生成能力が皆無に近い状態だと発表されているのに護衛に抜擢される。

 その点から菊池アラカくんとコンタクトを取りたくて来日、と……考、え……」




 各々がそんなことを言って、カメラを回す中————一瞬で空間が静寂に満ちた。




 白銀の髪、愛おしい獣の耳、何処か常に疲れ切っている動作。


 その一眼を集め易く、これ以上なく特異な容姿の特徴。


 それを視界に入れたことでアナウンサーは戸惑い————そしてその異質さに息が詰まりそうになる。



「はい、ここにいますよ。

 報酬は後で強引に奪いますので、ええ……手を取って」



 灰色の髪をした女性に介護された状態で、ヨタヨタと、どうにか……本当にどうにか歩いているのだ。


 身体中の傷と包帯。虚無しか映さない壊れ切った瞳。



 精神の破壊が今も尚、断続的に続いてる。



「————」



 その姿は、そこにいるだけで周囲へと静寂を齎す。


 ただそこにいるだけで、その痛ましさに胸が締め付けられる想いを抱いてしまう。


 アラカという少女は余人からみればそんな存在なのだ。



「っ……ぁ゛…………っ……!」


「「「っ!?」」」



 ————発作。


 周囲の視線を釘付けにする悲劇の存在。世界中の注目の的であり、この世界を救う最後の希望。そんなアラカが発作を起こせば周囲も当然のようにパニック状態に陥る。



「視線、視線ですね」



 それに対して穏やかな声色で本質を見抜く女性————綴はそっとアラカを抱き締めて視界を覆った。



「アラカ君、こっちを見てください」



 その声にアラカは顔を上げて、覗き込むような状態の綴を見る。


 視線が合う。ぴたりとあう。



「私を、殺してみますか? 私としては別に構いませんよ」


「ふぐっ………!」



 アラカの口に、綴の人差し指の関節部を添えて————牙を突き立てさせる。


 皮が破れ、血が溢れる。吸血衝動、牙を強引に突き立てて食い殺さんとする行動は破壊衝動を抑えるには相性が良かった。



「私の名前はなんですか。

 言わなくていい、ただ脳裏で文字を浮かべる程度で構いません」



 穏やかな声色でそう言われて、アラカは名前を脳裏で浮かべる。


 牙による破壊で、幾らか発散ができたようだった。


 ただ————綴、と。



「(服を被せる……というのはトラウマを蘇らせて難しいでしょうが、これなら大丈夫そうですね)」



 そして視界を隠したまま、記者らへと向き、言葉を綴った。



「日常生活のふとした動作一つさえ、トラウマのフラッシュバックになりかねない重病人です。

 出来ればこの子に近付くのは控えていただけると助かります」



 ————日常生活を送ることさえ、奇跡に近い。


 そんな状態なのは冷や汗でおかしくなりながら、虚無の瞳で……無表情で泣きながら、綴の胸に寄りかかっている姿を見れば一目瞭然だろう。




 それを伝えられ、ペコリを頭を下げられる。


 その真正面からの対応は、彼らの芯へと響かせた。







「あのー、インタビューいいですか?

 ウジテレビの者なんですが〜」


 局名もう少しどうにかしろよと言いたくなるような名前のウジテレビが前に出る。


 他のテレビ局をぐい、と強引に押し退けるのはなるほど現在、2022年7月2日現在で炎上しているテレビ局の親戚みたいな名前をしているウジテレビ局らしい行動だった。



「インタビューを申し込んだのですが、毎度断られてしまったのでーあはは」


 まさかの序章越しの伏線回収。


 アリヤと正道が毎回、取材拒否をしていたりしたのがここに来て暴発した。



「そうそう。菊池アラカ君に聞きたいのだけど、今回の件について何か一言あるかなぁ?」



「…………」



 ビクッと震えて、綴の背中に隠れて裾をぎゅっと掴む。


 破壊行動で幾らか安定したとはいえ、常に綱渡のような状態なのだ。下手な刺激はやめて欲しかった。




「何故、そんなことを聞くのですか」



 ————たった今の言葉、微塵も聞いてなかったのか。


 そういう意味を込めて問いかけるもしかし。



「何故ってそりゃあ……日本中の人が、いいえ、世界中の人が気になってるからねえ」



 主語を肥大化かせるのが趣味なのだろう、世界の(自称)代表はしぶとかった。




「…………はあ、申し訳あ」



 ————瞬間。それは起こった。




「…………!」


「…!」


 初めにアラカと綴が。



「…………何か」


「……あかい、のが……くる」



 次に春馬と朝凪が。



 鳥が、犬が、猫が、虫が、空気が空間が世界がその場が————森羅が死を感じた。




「あのねえ、こっちは天下n————」





 ドォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!




 瞬間、その場へ死が満ちた。

序章の伏線回収。なんでも仕込んでみるものですね。






読んでくださりありがとうございます…!

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