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八話、仲良くなった

毎回、誤字報告をくださり感謝です…!


ランキング入りしました、皆様のおかげです。ありがとうございます…!

 その声に、周囲の人がヒュッ、と息を忘れた。


 今彼女はなんと言った?

 彼らの耳が確かならば〝しちゃいけない〟と言わなかったか?


 〝したくない〟でも〝しない〟でもなく、〝しちゃいけない〟とはどう言うことだろうか。

 まるで〝殺意を必死に抑えてるような〟……本音では〝殺したい〟と言っている様な……そんな違和感が止まらないのだ。


 そこらの凡愚が「殺したい」というのはまあ流せる。簡単に流せる。

 何せ生きるとは当然に息苦しいし、辛いし吐きそうだ。


 そんな毎日へ唾吐く様に殺したい相手も、その証明もできずに殺したい、と告げるのだ。


 しかし目の前の少女はそう言った手合いとは明らかに違っていた。


「(なんであんなに、苦しそうに…?)」


 心底、本当に本音から苦しそうに〝殺意〟を呟くのだ。

 そして異常はそれだけじゃない。


「って待て。腕にナイフ刺さってるぞ!!

 保健室の先生呼んでくる!!」


 ざわ、とクラス中がその様相に驚く。

 ————アラカは自分の腕にナイフを刺し貫いていた。


「っ…!」


 そしてその勢いのまま、ナイフを〝腕の肉が抉れるように〟引き抜く。

 もはや引き千切ると言っても遜色ない行為は教室に血飛沫を撒き散らして周囲を恐怖させる。

 

「……血、赤、噴き出す真紅……

 死の匂い、うん、大丈夫、大丈夫……少しずつ、少しずつ衝動サカズキを満たせば、治る…から……」


 そう虚な目で呟くアラカに、クラスメイトはようやく気付いた。

 その深刻さに、だ。


「(……殺人衝動ぐらい、持っててもおかしくない事件だったんだ。

  そりゃそうだよ、あんな事件…俺なら自殺してる)」

「(ここらであの事件にことを知らない奴なんていないし、内容も壮絶って聞いたぜ?

  殺人事件の一つは平気で起きてもおかしくない程度には酷いし……仕方ないよな、殺したいと思うぐらい)」


 ————殺人衝動。それに近しい破壊衝動を抱えていることに周囲が示したのは〝納得〟であった。


「お、おい。俺がすぐに助けてやるから、こ、こいよ」


 それを見ていた男は何を思ったのか〝こうなった原因である癖に〟下卑た性根で語りかけた—


「ひっ」


 ————触るな。



「ぁ、ぁあ……ぁっ……」


 ぼろぼろと、涙が溢れ出す。

 それも無理はないだろう、心底不快で気持ち悪いとしか思えない人間に抱き付かれたのだ。


「っ!!」


 パシっ、とそこで初めてアラカは手を弾くという行いをした。


「は……?」


 それを受けて、親友は呆気に取られたような表情を浮かべて、次いで気分を害したのか、酷いしかめ面を浮かべて。


「せっかく人が助けようとしてやったのに……」


 次の瞬間、アラカの顔面を殴られた。


「謝ってるじゃん! 何で許してくれないの!? おこなの!? 殺すよ!? つか死ねよ!!」

「っ、ぁ゛が、……っ゛」


 アラカのお腹を蹴り飛ばす。溝に入ったのか、息ができずアラカは喉を押さえる。


「ーーっ゛ーーっ゛」

「黙ってちゃ分からねえだろうがああああああああ!!!」


 どんっ、どんっ、馬乗りになり顔面を殴る男、酷いなあ。


「ごめんって言ってんじゃん、とか怒鳴り始めたぞアイツ」

「口で謝るだけなら誰でも出来るし、それで気持ちよくなれるなら楽しそうな作業だな」

「謝った側から殴り出したぞアイツ、誰か止めろよ」


 焦るクラスメイト、殴られるアラカ。そこは正しく地獄だった。



「……ぁ……ぁ……ぅ……」


 本当に、本当に小さく呼吸をして教室の隅で必死に震えながら頭を守る姿は虐待された小動物を思わせて、周囲の人間の心を抉った。


「(何でこんな酷い目に遭うのだろう)」


 何故。

 過去のあの事件、そこから全てが歪んだ。


 ならばあの事件がなければこんなことは起きなかったか?

 いいや、あの事件がなくても性根の腐っているコイツらのことだから当然、何かが起きるであろう。


「(ああ)」


 ————性根が腐った屑に、攻撃されていたな。

 不道徳を受けた、人生に欠損が起きた。

 ならば、どうする?


「(人を傷付けた。なら、これは〝傷付けられる覚悟〟があったの、だろう。

  なかったとしても、人を傷付けた奴が、平然と、のうのうと生きているのは〝悪〟だ)」


 目の前の存在は悪だ。ならばこそ、


「(悪は————同質量の痛みを、味合わせねば、ならないな)」


 瞬間、空がドス黒い赤に染まった。


 雷鳴が轟き、アラカを守護するように男を弾き飛ばした。


 そして齎される異能はそれだけに過ぎない。


 ドロドロに溶けた血の雫が砂となり、床を〝殺し始める。


 腐ると言う現象すら許されず、フローリングの床が灰のように空気へ舞う姿は正しく〝殺す〟と呼んで差し支えないだろう。


 そしてその破壊の権化めいた現象を引き起こしているのは真実、アラカであった。


「え、力は無いってニュースで」

「いや待て、これ、かなり危険なんじゃ」


「ひぃぃぃぃぃぃっ!?!?」


 アラカに馬乗りした男はその黒い稲妻に怯え惑い、背後に退けそった。


「っ……っ……」


 パチッ、バチッ、と身体を黒い稲妻が守るように蝕む。

 それにアラカは気付かない。


「ストップ」


 その聞き覚えのある声にピタリ、と稲妻が止まり指向性を宿して男————コードレスへ向かった。


「……」

「生きてるかね、綴くん」

「問題ありませんよ。お気遣いなく」


 それはコードレスと、菊池正道であった。

 何故二人がいるのだろう、とでもいいたげな視線を送る。


「……?」


 攻撃が少しだけ弱まる、


「様子を見にきた、保護者なのでな」

「迎えに来たのですよ」


 最悪の発言だが、その中身はどちらも同じである。


「ああ、正道さんとは丁度下で会ったので」

「ああ、そこで保護者として軽く会話をしたのだが」


 二人で並び、

 青年は腕を捲りコキリと鳴らした————笑顔のまま。

 上司は眼鏡を外して脳天に血管を浮かべて見下すようこちらを見た————笑顔のまま。


「「仲良くなった」」


 その割には瞳に殺意が満ちているのは何故だろうか。

 そして先ほどまでアラカを殴っていた男へその殺意が向けられているのは気のせいだろうか。


 もう男は泡を吹いて倒れる。


「アラカくん。何故泣いているのですか」


 アラカは怯える手で、必死にコードレスの腕を掴み、自分の体に寄せた。


「…………」


「っ……っ……っ……」


「…………」


 無言で、コードレスは上着を頭からかぶせた。

 それはコードレスがこの状態をそれだけのことだ、と判断したことに他ならない。


 菊池アラカが誰かに抱き着いて、涙を堪えている。

 

 コードレスは腕をピクリと動かそうとしてみたが、きっと彼女にはされるがままにされたほうがいいだろう、と。


「……対応は任せます」

「そっちもだ。泣かせたら保護者として貴様を殺す。

 嫁に云々とか抜かしても殺す」


 同時にアラカは気絶して、目尻に涙を湛えたままに胸へ倒れ込んだ。


感想、ブクマ、評価、いいね。いつも本当にありがとうございます…! 大変、モチベに繋がっております…

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