九話。菊池家会議
追記。新着誤字報告を送ってくれた読者様。いつも読んでくださりありがとうございます。
誤字報告の仕方からこの作品を愛してくださっていることが伝わり大変嬉しく思います。
ですが申し訳ございません、作者にも作者なりのこだわりがありますので誤字報告については適用は控えさせていただきます。
そのこだわりは今後の展開を以て納得していただければ幸いです。
◆◆◆
「護衛…任務…?」
「ああそうだ。降りてもらっても構わない」
翌日、菊池家ではとある相談が起きていた。ソファに三人の娘が座り、その垂直の位置にある椅子に正道が座る。
アラカ、ウェル、アリヤ、そして子竜フォームでアラカの膝上で寝ている二人と二匹は正道からある依頼を受けていた。
「近いうち、ある国のトップが来日する。
その際にアラカくんに護衛をさせたいらしい、と政治家のお偉い様から連絡が来た」
「依頼主、は?」
「皐グループ」
「さて、御曹司殺しに、いくか」
ウェルは手紙を生み出して周囲を旋回させ始める。
「ウェルストーップ。あとで拳銃あげるからストーップ」
「誇りある自害さ、せようとすんな」
ウェルテルに拳銃送るのは完全に煽りなのだが、それでなんとか意識を逸らすことができた。
「はい、落ち着かせるために煽りました。ごめんなさい。
お詫びに今夜はウェルの好きなもの作るから許して」
「チッ、ヘイト管理してから、の謝罪。その上で飴を出すのは上手い。
踊らさ。れてやるの」
アリヤに抱き締められて頭をよしよしされながらウェルは一応の落ち着きを取り戻す。
「……迷惑をかけるね」
「いいえー。高給取りなのでその分の仕事はします」
寧ろアリヤはアラカが最近、落ち着き気味なので物足りなさを感じていたレベルだった。
正道はチップ代わりに500円玉をスッと渡す。アリヤはそれを受け取り「お嬢様フィギュアの製作費用が増えた…!」と小さく呟いた。
「話を戻すが、簡単な話、アラカ君を表に出せる……と、自分たちにはその影響力があると言いたいのだろう」
皐グループ。一回殺しかけた相手である、アラカは可能な限り参加しない方がいいだろう。
そしてアラカは数秒目を閉じて……宣言した。
「…………参加、します」
「じゃ、ウェルは参加する、の」
「お嬢様が行くなら行くしかないです」
全員参加の意思。というよりアラカだけにきた依頼なのであった。
だがそれでも正道は全員に意思を聞いた、それはこの男なりの考え、というものがあるゆえだった。
「そうか」
それに対して、極めて簡素な返答をする正道。
しかし分かる奴には分かったのだろう、その微細な変化に。
「珍しい、と思ったの?」
「そうだ」
ウェルの問いに何一つ顔色を変えずに返答する。
相変わらずの巌のような印象を与える三人の娘の養父(何故か去勢済み)に、ウェルは慣れたと言わんばかり「はっ」と乾いた笑みを浮かべて両手で呆れたような仕草をとる。
「当然なの。ウェルはそこまで、馬鹿じゃn」
「ウェルくんが思った以上に思慮深くなっていて」
「ああ゛!?」
「冗談ですよ。ちなみに何故、ウェル君は承諾したのかね」
ニコリとぎこちなく。果てしなく綺麗な微笑みを浮かべてウェルへ問い掛けた。
————ぞわぞわぞわ。
「上司が……笑った……!?」
「馬鹿な、なの…! ありえん」
「初めて見たウッソ……」
「反応最悪だ、笑うんじゃなかった」
巌のような男、正道を行く馬鹿、自分の感情を理屈で捩じ伏せる馬鹿。
それが菊池正道という男である。
「ま。まあ……いいの。それで何故承諾、したのか? だったの?」
ウェルはドン引きを隠せずに戸惑いながら話を続けた。
正道不憫。
「まず始まりは、違和感を覚えること。考えるはその後」
つまり今回は違和感を覚えたところから始まったのだとウェルは続ける。
「オッサンは、ウェルらへの依頼。だいたい一人で拒否してこっちに話を通さない、の。
取材依頼、護衛依頼、何故か、モデルの依頼、あと、タレント系…? とか、全部切ってる」
————ならば何故、今回は違う?
「まあ、何か違う事情があるんでしょうね〜」
アリヤがそう纏めると正道は「見事」と言ってウェルの方へ500円玉をスッと差し出した。
そしてウェルはそれを受け取り「お小遣いげっと」と呟いた。
「君たち三名が想像している通り、今回の件は少しばかり厄介だ。
数分悩んだ挙句、意見を聞く運びとなった」
「数分なの、マジでオッサン(形容詞)なの……」
「まあ〝考える〟ってまともにやったら数分で終わりますからね〜」
「…………情報不足?」
アラカのポツリという声に正道は「そうだ」と肯定の言葉を出した。
「ああ。アラカくんの言う通りだ。
今回の件は私の独断で決めるには少し面倒な件でな。
なので君らの意志という情報に委ねる、ということになった」
アラカは500円玉をゲットしてポケットにしまう。
そして本題へと入っていく。
「まあ、結論から言うとだ。
————向こうが少しばかり面倒な権力者」
「把握」「なるほど」「…………はい」
頭の優れた奴が力を持つより、頭のおかしい奴が持っていた方が何倍も恐ろしい。
今回のケースはその後者に齎されたのだと告げていた。
「もし拒否ったら?」
「私の立場が少しばかり複雑なことになるだけだ。
大きなデメリットではないにしても少しばかりのデメリットはある」
つまり、断り難い依頼だったということ。
正道の立場が複雑になっても正直、アラカらは痛くも痒くもないがそこは最低限の義理立てであった。
「強制とか、じゃないの、草」
「強制だと無意味ですからね。できない奴とやれない奴はどうとでもなりますがやる気がない奴はとことん救いようがない」
末っ子属性のウェルはどんどんストレートに突っ込む。
菊池家(重度の精神崩壊状態、巌の男、表面だけお淑やかガール)ではそのストレートな部分が割と重宝されており、同時に奇妙なバランスが保たれていた。
「相手の意思を尊重と、かじゃないの、笑う」
「そんなものは世の善人の特権でしかない。
私のようなものにそれがあるとも思えん」
相変わらずひたすらズレてる正道に三人の娘は「(やっぱこの人、頭いいけど馬鹿だ)」と同じ感想を覚えた。
読んでくださりありがとうございます…!