エピローグ
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銀色の髪を自分の膝に預け、安堵した様子でうとうとする少女を見て俺は微笑った。
あまりにも酷すぎる運命が可笑しくて、可笑しくて笑わずにはいられなかった。
「嗚呼、本当に君は悪の才能なさすぎる。
自分を傷付けた奴らを正しく復讐したい思ってる癖に、勝手に優しくされた思い出を浮かび上がらせる……酷い善性だよ、呪いとしてしか機能してない」
相変わらず笑みは消えず、アラカには一切触れず。手を後ろの芝生へ置き、支えにして空を見た。
「君にほんの少し、あと少しだけでも『傷付けたから死ね』と、振り切れた考え方ができればどれほど幸福に過ごせることか。
それとも別人だと割り切る技術、かな? あの時に君が殺した時点での風魔さんと、過去に実際に存在した風魔さんは似ているだけの別人である、という割り切る技術……ふむ、実験しないとわからないけど、近そうだ」
君にはその才能が無さすぎる、と夏の夜風を頬で受けて、穏やかな心地よさを覚えて瞳を薄めた。
それに釣られてか、瞳を閉じて、夏の声と夏の夜風に心地よさを覚えるアラカは、とても愛らしい。
「殺意を発露すれば理性による叱責を、
かと言って殺意を抱えたまま生きていても、絶対に君の心は救われない。
必ず満たされないどちらかが生まれてしまう、その上で君の描いた結論は極めて美しいものだった」
瞳をすっと開け、身体を前へと倒して…………アラカへ向いた。
その結論とは何か口に出すのは野暮だろう。
雲に覆われた月を背に、出来る限りその感情がバレない様に告げた。
「よく、頑張ったね。
おめでとう————今まで殺人を我慢して、辛かったね」
その言葉を聞いて、アラカは今度こそ、眠りについた。
美しい夜空の下の、幻想的な草原での一時は。
何処か陰鬱な艶やかさを纏う。
火の届かない闇の世界は、そこにいるものへ「もう大丈夫だよ、誰も貴方を見ないから」と……優しく、優しく語りかけてくれていた。
一章/終了
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一章、終了です