四十一話、復讐鬼
あと少しで一章、終わりです
評価ポイント5、くれた読者様、ありがとうございます…!モチベ、上がりました!
腕の中に竜化した綴を抱きしめて、アラカは歩く。
空は晴れて、ガラス張りの廊下には月明かりが灯る。
「……………」
「構わないよ。アレが復讐」
アラカの右眼が深紅に染まる。
そこから何が見えているのか、何を受け取っているのか。
黒竜は声を発していないと言うのに、それが何一つ不自由を感じさせないまま〝会話〟をしていた。
「私の手で殺人をしないこと、それがあの子に与える最上の罰。
死にたい死にたいと言っても、何一つしない子です。
これからずっと、あの子の心に傷痕として残り続けるでしょう」
腕でぎゅっと、黒竜を抱き締める。まだ、その存在が良い存在なのか、悪い存在なのか分からない。
だがそれでも、今は愛玩動物を抱き締めたい気分だったのだ。
「その果てで、何一つその全てが報われずに命を終えるんです」
こつ、こつ、と歩み……ふと、アラカは足を止めた。
窓の外を見て、月明かりの世界へと……遠く、どこか遠くを見るように。
「復讐は何も生まない、と世の人は言いますが、確かにその通りですね。
やってみて、理解しました」
雨がもう降っていない。雲も晴れた。
「復讐とは……何も生まない行動です、ですが同時に」
だと言うのに。なぜだろうか。
「復讐とは、何かを生み出せるようになるための……救済なのかもしれませんね」
月は美しく。
屋内でのガラス張りの世界。だというのに。
「瞳に、優しい世界が写ることに。
耳鳴りが、遠ざかっていることに。
他人の存在を、そこにある存在として、ただ認識できることに」
アラカの頬には、一筋の雨が降っていた。
「そんな当たり前のナニカを取り戻せた。
だから復讐が無意味なんて、誰にも言ってほしくないし、誰にも言わせない」
その涙は何処か暖かくて、ぬくもりが確かに存在した。
涙が溢れ。涙が溢れ、涙が落ちる。
「…………」
アラカストレスゲージ:64
「復讐したい。
人殺ししたい。ただ捩じ伏せたい。首を引き千切り、血潮を浴びたい。
————獣のように、ただ報復し続けたい……」
復讐者。そう呼ぶべき情念を口にした時……アラカは涙を零した。
「なんで、何でしょうね」
泣いてばかりの復讐鬼。
観測者という属性と有し、同時に復讐鬼の属性さえ有している彼女は。どうしようもない自己矛盾を抱えていた。
「この言葉をくちにする、と……救われた気持ちに、なるんです。
あは、は……は……」
無理をして笑んでみる、泣いている。だというのに胸に締める歓喜で、彼女は笑っている。
「私————最低、ですね」
あべこべな小根。善性と悪性。
観測する善性と、復讐したい悪性。矛盾する属性を抱えていたゆえにこそ、こうしたグチャグチャな状況へと陥るのだ。
「嗚呼、最低だよ」
綴はそれに対して、ただポツリと呟いた。
「最低な人間のせいで、そうなった。
高潔であれと言う人間は、君の事情を知らない人か……生きる価値のない最低未満のクズだ」
最低であること、それには最低な事情が付きまとう。
当然の因果であり、ゆえに君はおかしくないと告げた。
「最低なことをしている時、自分が幸福なのだと気付きなさい。
高潔である時、自分が不幸なのだと知りなさい」
300人を殺した殺人鬼ガラビードは最低のど畜生だっただろう。
子供を拷問し、強姦し、その果てで殺すなどという所業を何度も繰り返したのだ。
————しかし彼は、その最中。何を感じていたのだろうか。
フランスの危機を救った聖女ジャンヌは高潔で美しき女性だっただろう。
今なお英雄と呼ばれ、おっぱい大きい(願望)、その果てで聖女と崇められたのだ。
————しかし彼女は、その最期。何を感じていたのだろうか。
「高潔である〝遊び〟に興じれるのは、平凡に辿り着けた人間だけでいい。
最低である私たちには、高潔ごっこは少しだけ重かったのですよ」
「……そっか……………」
返した言葉は、肯定とも、否定とも取れない言葉。
復讐を成したいという渇望。それを綴は少なくとも表面上は肯定なのだろう、と……アラカは処理を行う。
「————あ、れ」
視界が、ブレる。
足が震える。
肩にナニカ大きな錘を乗せたような感覚。
「なに、こ…」
疲労、疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労疲労————
「ぁ……だめ、だ……」
脳に埋めつくす、その単語に。
「おや、すみ……かな」
アラカは、気を失った。
読んでくださりありがとうございます…!