三十八話、理性派閥 首領の悪意
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一方その頃、外では決着がつこうとしていた。
「…………」
「けひっ、ひひゃひゃ……」
身体の三分の一がちぎれて、地面に仰向けで倒れる影の怪異。
ただ、全てが滑稽だと生理的に不快な笑みを溢している。
「くひゃっ。けひゃ」
小腸が地面に飛び散り、もう死が近いことが分かる。
「人。ごろ……しぃ、あひゃ、ひゃっ、ひひゃっ」
————ぷち。
「ぁ゛ぃ、ぎ、ぁあああっ……!?」
黒竜がその足で、怪異の右腕の上にかぶせた。
怪異の右腕が踏み潰される————ペシャンコになったそれを、黒竜は喰い千切る。
「君は知ってるでしょうか。
自分が殺されてるわけ」
ふと、歪な笑みを浮かべてそんなことを綴は聞く。
「試練の難易度を調整するため、は確かなのだけどね。
それ以上に、少しばかり……その笑顔はなんだか不快でした」
「……?」
影の怪異。
「なあ、分かりますか。
私はお前が〝なんか不快だから〟殺したんですよ」
「————」
————ピキ。その変化は軽微なもので、しかし同時に大きな激怒の余波であり。
「お前は私の気分で殺されるんです。
————なあ、今どんな気持ちだ?」
「————————」
まるで氷山の一角のように、その芯にあり得ない密度の殺意が捩じ込まれる。
「何か辛い過去があったのでしょうか?
何か許せん過去があったのでしょうか?
虫唾が走り、脳髄が割れる恐怖に蝕まれたのでしょうか?」
嘲笑うような笑み、歪に嘲笑する。
「もしかして、誰かの気分で人生を滅多刺しにされるのは二度目ですか?」
————怪異はその言葉で
「————お前の人生、俺の気分でぶっ壊れてけど、なんか感想ある?」
「■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーッッ!!」
————属性:魔王を取得。
咆哮する怪異を綴は潰す、ぶちっと潰す。
「————」
瞳はもう動かず、纏っていた影が消失する。
身体中に穴の空いた〝女の子〟が、いいや、女の子だったものが転がる。
最早動かない怪異を牙で引っ掛けて、歯と歯ですり潰すように捕食し————血がぴゅと口角から溢れる。
「(なんてことはない。家畜に同情していたら餓死をするというだけのこと。
人間100人よりも、怪異一匹の方が効率がいい。なんてことない、いつものことです)」
————魔力回復。
そのための行動は只々醜悪だろう。
それは完全な本性。この綴という男でさえ、根っこにあるのは醜悪な飢餓であることが証明された。
「…………」
【————怪異 司書の記憶を取得しました】
【追体験を開始します】
「(……なるほど、そういう事情か。
うーん、これは凄い過去だな。両親を四肢切断して能力で生み出した蠱毒の壺に叩き落とすってどんな脳味噌してたら思い付くんだこれ。
両親の身体中に蠱毒が這い回るって凄いな……しかも自分を知る人間全員にしてるじゃないか、これ)」
人生の追体験。それはある派閥の特徴でもある。
「しかし聖女派の怪異は倒す度にこれだ。本当に酷い能力ですね。
聖印、だったか」
聖印、その怪異を倒した人間に〝その怪異の過去を追体験させる〟という悪夢じみた能力。
それを〝言語を介せないほどに精神が狂う過去〟を持っている怪異全員が持っているのだ。聖女派が一番危険とされる一番の理由がこれであった。
【菊池アラカ————属性:観測者を取得】
そんな文字列が嵐の中浮かび上がる。
「(これで計画は、少し進んだ…あと少し、あと少しの後押しです。
精神の楔は少し解けた、邪竜の加護は芽吹いた、属性を取得した。
あと少し、あと少しだ)」
翼を広げ、空を見上げる。怪異の消滅を確認したためだろう、引き寄せた都市伝説が散る。
————空が晴れる。
「(まだ、止まれない。
ダメだ、まだだ、もう少しだけ……あと少し、あと少し、あと少しあと少し……)」
綴の瞳が、その輪郭を一瞬だけ崩す。
まるで壊れたブラウン管テレビのような、明らかな異質さを纏わせたものだ。
「(あと少しで、眠れる……だから、あと少し、だけ…だ)」
常に疲れを溜め込み続けている身体を支えて、翼を大きく広げ————地面を叩き付けるように翼を放つ。
暴風、暴威、暴君。一度の翼、一度の羽ばたき、それだけのことにあらゆる暴走の意味を持つ単語が浮かび上がる。
綴は飛んだ。
ただ、移動するというそれだけの行動で木々が薙ぎ倒される。
怪異 理性派閥 元首領
その名に相応しい悪意と、敵意であった。
読んでくださりありがとうございます…!
追記:
つまんなくて、ごめんなさい。
今回評価された方は2点評価を。
前回の方が 1点評価を。
この件は、受け止めてます。
もう少し、ウケる文章。書きます