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二十九話、ババア解剖

「……は?」



 ————ここに激怒を隠しきれない英雄が降り立った。



「……自分をすくってくれた、だと?」


 歩み寄り、近付く足は只々憤怒に満ちており


「あの子は善良で? このババアに救いを? と」


 一歩、一歩と近付くだけの彼女にババアは畏怖するように…自然と後退する。



「————いつまで子供に甘えてんだ老害」


「……は、はは。どうとでも言え」


 胸ぐらを掴み、頭突きを喰らわせられる。


「ぐっ」


「お前はこう言ってることを自覚してるか?」


 静かに、沸々と怒りを堪えながら言葉を紡ぐ。


「〝私を都合よく気持ちよくしてくれる罰をください〟って、それが救いだ?」



 ババアの言葉を要約して、そう聞き返す。

 それに対してババアは自嘲するような笑みを浮かべて「なんだ、そんなことか」とでも言うかのような表情を浮かべ。



「はっ、そうだよ、だからあの子は」




「————ふざけんな!! 微塵もあの子が救われてねえじゃねえか!!」



「————」



 ————その一言で頭が真っ白になった。



「お前は一歩も進んでない。ただ進んだ気になって足踏みしてるだけの老害が年上ズラしてんじゃねえよ、くだらないことほざいてる暇あるなら一秒でも成長しろよ!!

 ————お前は過去と何一つ変わってない老害だ!!」


「————」


 投げられる言葉は全て、ババアの本音。

 ババアは進んでいると思い込んでいた、成長している自分を追いかけていたと思っていた————その全てが無価値であると言われた。


「痛みから逃げてんだよお前はッ!! 何が我だ、何が第二の誕生だ、甘ったれるな!!

 ————お前はあの子から、一体どれだけ逃げれば気が済む?!

 ルソーもデカルトもパスカルもあるか!! オメエは考えない葦じゃねえか!!」



 考えない葦はただの葦。弱くて細いだけの草。お前はそれだと叫んで殺意をむき出しにする。


 ドンっと、壁に叩き付けて胸ぐら掴んで宙に浮かせる。


「ぐっ…」

「あの作品を見て、あのテーマを見て、お前は何も分からなかったのか!?

 何でお前はお前しか見ないんだよ!!」


 アラカは殺意と殺意と殺意が止まらなかった。

 それだけ怒る理由とは他ならないミュゼのことであり、同時のこのババアのことでもあった。



「いいか、好きな作品、好きな物語、好きな絵、それらを並べると必ず何かしらの法則があることに気付く。

 その人間自身の秘めた固有の願望が幾らか読み取れるものだよ、創作者ならそれは顕著に現れる!!

 ————その上で、お前は何も分からなかったのか!!」


 即ち、何も彼女を見ようとせず、自分しか見ない醜悪なゴミだと言っていた。



「胸の痛みはいつだって消えてくれないんだよ、時間は傷を腐らせて神経を溶かし殺すんだよ!! それを抱えて生きていくしかねえんだよ!!」


 傷を前に、人は必ず決断を迫られる。決断を出来なければ決断は傷として永遠に追ってくる。


 逃げるか、殺すか、壊すか、喰い千切って成長に変えるか……その全てが委ねられる。



「過去から逃げるのもありだ。普通の、当たり前の、真っ当な人間ならそれでいい。ある種の終着点がそこであったのだろうさ、

 けどお前はどうだ? 普通に、当たり前に、真っ当な人間だと言い切れるのか」


 その答えは、今と今までで証明している。



「劣等だと自覚してるならまず足掻けよ。

 自分の孫に縋り付いてんな!! 孫に背中を見せてみろ!!

 いつまでも孫で自慰してんじゃねえよ殺すぞッ゛!!」



 いつまで孫をテメエの玩具にしている、と殺意に満ちた咆哮に、ババアはもう限界だった。


 今までの人生をどうにかしようと生きていた、だがそれさえオモチャにする行動と対象が切り替わっただけだと、そう宣言されたのだ。


「人は一人じゃ生きれない、なんてもう遅いんだよ。まともな人間にだけ許された概念だ。

 僕らみたいな屑は……

 ————クズ一人クズで、完成しないともう生きていけないんだよ!!」


「ぁ゛が……っ」


 ごり……と壁に減り込むほどの膂力でババアの胸が押し潰される。


「平凡の地平を目指して、歩き続けてやる……!

 その傷が、この痛みが、本物で。

 この愛が、この善性の全てが偽物ならば」



 アラカはその時、本人さえ〝自覚していない真実〟に確かに指を掛けて



「————〝私〟は菊池アラカ(歪み切った劣等)の終着点を見つけてやる……!」


 アラカは殺意と涙に濡れたまなこで、ババアを真に直視して、殺意のままにババアを投げ飛ばした。


「…………」


 ガシャンッ……ババアは何処か放心状態で、心ここに在らずという風に突き飛ばされたままだった。


 用途不明の器具にもたれかかったまま、そのまま虚空を眺める。



 魂が抜けたようなその様は、しかし考えてみれば当然の状態だった。


 アラカの言葉が全て〝今までの時間が全てゴミだった〟という意味であり、

 同時にババアはアラカの言葉に〝納得〟してしまったのだ。否定しようが無い真実だと、そう思ったのだ。



「————ねえ、そのババアを殴っていいのは私だけなんですけど?」


ウェルからはババアと呼ばれ。

アラカからもババア、また老害と言われ

ミュゼからもババアと呼ばれる。


本当このババア不憫。




読んでくださりありがとうございます…!

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