二十六話、美術館巡り《グロい、閲覧注意》
グロいです、閲覧注意です。次の話はもっと閲覧注意です
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「————このセンター自体が、怪異の居城だったんですね」
「まあな」
銃を手にしたババア。
「…………こちらへ」
車椅子から杖を使い、ババアが立ち上がる。階段で一足先に消えたミュゼを見送ってからゆったりとした動作で階段へ向かう。
「貴女が見た姿造りを運んだのはあたしだよ、推理は見事だねぇ。
あたしが犯人のようなフリをしたのも、その意図も、読んでいたのかな」
「さあ、詳細は分かりませんが……そこの死体に何かをさせる予定だったのではないでしょうか」
階段へと向かいながら、ババアとの会話が始まる。
「ビンゴだよ。本来はこっちに意識向いてる間に、そこのが爆弾を使ってここにいる人間を吹っ飛ばす算段だった。
まあ、アンタは生き残ってたろうがね」
階段の手摺りを掴み、器用に階段を降りるババア。
どんどん進もうとするババアに対してアラカは振り返りウェルへと声をかける。
「ウェルはどうする?」
「調理場でご飯恵んでもらっ、て食ったら、部屋で寝てる、おやすみ。」
「呑気だなあ…」
ウェルはひらひらと手を振って食堂から出て行った。
尚、生徒はそのショッキングな光景に何もできず動けないまま固まっている。
「……私は」
「はなさない」
「ア、ハイ……」
綴、連行決定した瞬間である。心なしか3割ましでぐったりする。
◆◆◆
————??:?? 美術館。
隠し階段を進むと、薄暗い廊下が広がっていた。
10メートルほどの幅がある薄暗い廊下には、所々に照明が付けられており〝展示品〟を写している。
〜♪。
「……月光ソナタ、とは……良い趣味ですね」
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベン。
ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 作品27-2 『幻想曲風ソナタ』。
通称【月光ソナタ】
悲しげな曲調に包まれた館内は、ある種の不気味さを醸し出していた。
「これは少女の臓器を揚げて、乾燥させたもの。
作品名は特にないよ」
フックで吊るされている乾燥した臓器。
「……………」
「…………」
そんな怪奇的なものが展示されている美術館はなるほど、地獄である。
クラスメイトの誰か一人でも着いて来ればその残状に精神病にでもなっていただろう。書いてる作者も鬱になりそう。
「こちらは江戸川乱歩の人間椅子に影響を受けたのかもしれないね。
人間の身体をバラして、机や棚状にして……固めて、燻製にしたものだよ。
作品名は特にないよ」
美術館でよくある〝昔の家を再現〟と言った風で、人肉家具の部屋が置いてあった。
床には人間の皮を敷き詰めて、小物からベッドまで、人間の顔肉をぐちゃぐちゃにして素材にされていた。
「……触れても構いませんか?」
「構わないよ。ただし壊さないように」
人肉の畳のようなものに、靴を脱いでのる。
膝を着き、人肉のちゃぶ台に触れる。
「……そう」
アラカはその人肉ちゃぶ台に触れて、悲しさを覚える。
「…………」
「…………次、いきましょう」
立ち上がり、靴を履いてからまた案内が始まる。
「次はアレだね。
特にあの子が気に入っている作品だ」
スポットライトに照られた展示品の中で、それはとても綺麗で、美しい作品だった。
「子宮と、心臓を残して臓器と肉を全部取り出して燻製にしたモノだよ。
作品名は特にないよ」
「…………」
少女の皮に釣り針のようなものが付けられて、それをカーテンのように両サイドで広げられていた。
そして中には綺麗な子宮と,綺麗な心臓が残る以外、何もなかった。
最低限の支えとなる骨はあるものの、それだけ。とても綺麗な光景だった。
「…………」
「…………」
コツ,コツ、と杖のなる音がする。
美術館を進み、作品がない世界が続く。
「時に思うのだが、アンタは何を以って我は我であると謳えるのだと思う」
不意に、ババアがそんな質問を投げた。
「……我思う。ゆえに我あり。とでもいうのが正解でしょうか」
「デカルトかい。残念だがあたしとあの子は、ルソーの方が好みだったよ」
近世の偉大なる哲学者デカルトの言葉と、
フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーの言葉。
アラカはルソーの解いた有名なそれを脳からひきづり出す。
「第二の誕生、ですか?」
「ええ……第一の誕生はそこにあるため、第二の誕生は……何か分かるか?」
「……生きるため」
「ふん、家に居場所のない英雄さんはどうにも教養がおありだ」
そしてそれが、ババアの行動原理だと告げていた。
「我々はこの世界にいたいわけじゃない。生きていたいのだよ。
世界が終わるその時まで、な」
「…………」
廊下が終わり、開けたホールへと辿り着く。薄暗いホールで、中心に座する展示物が電球色スポットライトに照らされていた。
「作品名————懺悔」
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