二十五話、協力者
短いので できたら もう一話 更新します
「どうかしら可愛い可愛い英雄さん。
後ろの子を全員、私に殺させてくれない?」
————アラカの首元にパレットナイフを添える。
触れるギリギリで、耳元に囁くようにミュゼは聞いた。
「例の件、正直言って私から見ても腹立たしくてどうにかなりそうな案件なのよ。
————殺してやりたいわぁ」
ビクッと、生徒らが震える。
それだけの殺意、それだけの憤怒を彼女はうちに抱えていると察したのだろう。
冷や汗が止まらなくなり、頭の中が真っ白になったのか瞳孔が定まらない。
殺意というモノをアラカに浴びせられた経験があるものは幾らかマシのようだが、中には失禁してるものもいる。
「別に構わないよ……けれど、わざわざ許可を取るべき案件でもないと思うよ」
「そういうわけにもいかないでしょう。一番の被害者をおいて」
ミュゼはパレットナイフを離して首元をトントン叩く。
「ああ、君の配慮だったんだ……ごめんね、ありがとう」
そうアラカが告げるとミュゼは目を丸くする。
「…………やっぱり不思議な人」
感謝と、気遣いに対して気づけなかったことでの謝り。それはこれから殺されようと狙われることは思えない反応であった。
「でも、僕を加工したいのだろう?
作品として」
「ええ、そこだけは譲れません」
感謝されて、少しだけ興味が強くなるもミュゼは変わらない。
ピエタに仕上げたい、という狂念は寧ろ強さを増した。
「ならまあ……戦うしかないね」
アラカはジャージの内側からナイフを取り出して、逆手に持つ。それを見てミュゼは驚愕した。
「(一瞬で、殺意のスイッチが入った……!?
五年以上の戦闘経験は伊達じゃないようね)」
肌にひりつく感覚に怖気を覚え、二三歩後退してから、苦笑いを浮かべる。
「…………あは、ははは」
ミュゼは近くにある隠し階段を捉えた。
「いいですね、貴女。
やっぱり私の美術館に招待したいわね〜ふふ」
構えを解いて、けれども警戒だけは最大限に強めて。階段へ向かう。
「じゃあ私、先に美術館の奥で待ってるから作品を楽しんでから来てね」
「逃すと、お思いですか」
————パンっ。
アラカがミュゼを追おうとした刹那。その乾いた音が響いた。
「…………はあ、そうでしたね」
腹部から流れ出す血液と、独特な火薬の匂いに溜息を吐いてから————アラカを銃弾で撃ち抜いた者へと目を向ける。
「事前にトレーを食堂に隠した〝協力者〟がいたのでした、ね」
アラカは先程の推理で、敢えて手段を言わなかった。
どのような手法でそのトレーを運んだのかは決して言わなかった。
「美術館の案内ぐらいさせておくれよ————これでも熟練者なんだ」
施設の管理人、ババアがニマリと笑んで銃口を向けていた。
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