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二十四話、美術館との対話

「ふふ、菊池アラカ、菊池アラカっ…。

 初めて見たけれど、本当に可愛いっ」


 にこやかに笑む少女は純真無垢そのもので

 ————足元のぐちゃぐちゃになっている少女が、酷くアンバランスに思えた。


「ぁ゛…………っ…………xっ…………

 ィ…………だ、ず…………げ……」


 〝子宮から身体を破られた少女〟。


 とてもじゃないが目には写せない下腹部を晒しながら、壊れそうな声で、掠れそうな声で、本当に本当に小さな声で……自分の身体を少しでも刺激しないように助けを求める。


「ミュゼ、さん」

「何かしら、可愛い英雄さんっ」


 その状況に気にもとめずに、ミュゼは微笑む。


「あ、あの……なんで、そんな傷だらけなんですか」


 ————ピタっ。


「…………」

「…………」


 笑顔のまま硬直するミュゼ。

 ミュゼは全身が何故かボロボロで指が2、3本吹っ飛んでいる箇所もあった。


 ————明らかに一回死闘を終えている。


「…………」

「…………」


「……あのjkマニア糞ドラゴン絶対ブチ殺す……」


 脳天に血管が浮かびピクピクしてる。


「気にしないで、女子高生に尋常じゃない執着をしてるゴミドラゴンにやられただけよ……」


「本人はメチャクチャ気にしてる奴だ……」


「余計なことは言わなくていいのよ〜ふふふ、クソが……治癒妨害とか面倒なもの流しやがって…」


 若干キレ気味に床を蹴り飛ばすミュゼ。その圧に押されて「ぁ、ごめんなさい」とアラカは返した。



「ああ…あああああ。jkの腕に抱かれて随分と気持ち良さそうだなあクソドラァ……」


 アラカの腕に強引に抱き締められてぐったりしてる黒竜に対して殺意剥き出してミュゼは告げた。


「……はい、とても居心地いい、です。

 不可抗力とか、言いません……とても嬉しいです、はい」


「え、何でそんな死んだ魚の目みたいになってんの…」





「…………年下の女の子に赤ちゃんみたいによしよしされてる男の情景。

 それを知り合いの年下怪異に見られたところを想像すればいい」


 ————その顔は地獄を見てきたもののそれだった。





「ぷぷーーー生き恥晒してやんのーーー!」



 大爆笑してから、幾らか落ち着いたミュゼは足元にある風魔を指差した。


「そうだ、この子凄いでしょう? 魔力とか全部隠しておいたのにバレるなんて思わなかったわ〜」

「切り替え早いですね」


「クソドラの無様なところみたら笑いが止まらなくなりそうだからね。

 一旦溜飲下げてやることにしたのよ」


 生き上手な考え方だった。


「そういえば確かに魔力を感じませんでしたね。

 どのような仕組みなのでしょう」


「貴女の胸に刻まれた眷属専用の召喚魔法陣と種類は同じよ〜。

 〝子宮の内側〟に刻んで、あとは肉に魔力隠蔽の印を刻めば隠せるのよ? 凄いでしょう」


 自慢する子供のように種を明かすミュゼ。

 そしてその方法はミュゼが登場した方法と、風魔の正体について告げるものだった。



「……眷属?」

「ええ、怪異には固有の加護があり、只人に能力の一部を種として植えることができる。

 寵愛、守護者、傀儡……色々種別はあるけれど、私が与えたのは傀儡」



 傀儡。名前をなぞるならば風魔の行動を一定以上,操作するようなものなのだろうとアタリをつける。


「そしてその眷属であることを利用して転移魔法陣を使ったのよ。

 出る時に子宮からブチ破られる、という欠点に目を瞑れば最高の転移方法でしょ?

 なんか産卵プレイみたいでドキドキするし……」


「し、きゅう……?」


 アラカの脳裏でぐちゃぐちゃの記憶が走る————トラウマのフラッシュバックだ。


「ぉ……ぁ……っ………」


「…………ああ、その単語もトラウマになってしまうのね。

 ————すぐ、楽にしてあげないと」



 そういい、ミュゼはポケットからナイフのようなモノを取り出す。

 しかしそれはナイフと呼ぶには鋭利な箇所がなく、先端も丸くなっており殺傷力は少なそうに思えた。



「パレットナイフ…」


 画家などが自分の書いた絵を切り裂くようなシーンを見たことはあるだろうか。

 その際に画家が持っている不思議な形状のナイフ。


 それをミュゼは持っていた。



「(強力な魔力が込められてる、あれは……恐らくあの子自身の〝能力〟だ)」 


 そしてその危険性をアラカとウェルと綴のみが正確に理解し、相対する。


「私が、怖くないのかしら?」

「特には……」


 パレットナイフを手に、近付くミュゼに警戒をしながらも素直に応対する。

 その様子を不思議に思い、ミュゼは会話を始める。


「まあそうよね。あなたからすれば、私より後ろの人たちの方が化け物に見えるでしょうしね」

「っ……」


 ビクッと、アラカの身体が恐怖に震える。

 アラカにとっては、怪異よりも一般人の方が化け物にしか見えないし、悍ましい何かにしか写らないのだ。


 普段、ウェルと話すよりもクラスメイトと話す時の方が何処か苦しそうなのがその証明だ。


「…………」


「だってアレでしょう?

 五年以上、あなたのおかげで延命したのでしょう?

 あなたに非があったのなら、その所業も納得できるけど……あなた何も悪くないものねぇwww」


 グサグサと後ろで生徒らに突き刺さる。

 無実の子を痛め付けて遊んだのだ。その逆をされても文句は言えないだろう。


「怪異の術中に嵌められたのはその子らがボンヤリと生きてたから。

 なのにあなたを痛め付けて、ねえww」



 術中に嵌められたのは能力由来ではない。

 だというのに周囲は怪異に騙され————能力なしで純粋に噂を信じたのだ。


「どうかしら可愛い可愛い英雄さん。

 後ろの子を全員、私に殺させてくれない?」



 ————アラカの首元にパレットナイフを添える。


 触れるギリギリで、耳元に囁くようにミュゼは聞いた。

読んでくださりありがとうございます…!

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