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二十一話、犯人とは

◆◆◆


「……ピエタは好きか?」


 それはセンターの所有者、安藤だった。


「…………」


 身体中に冷や汗を流しながら、ギリギリで黒い雷が消えたことに安堵する。


「急に何をぬかしてるの。このババア」


 手で制して喧嘩腰のウェルを止める。

 アラカは息を切らしながらなんとか立ち上がりふらふらの状態で巻き込まれそうになっていた人を見て、頭を下げた。


「巻き込みかけて、すみません」



 そう告げると背を向けて、如月にも


「え、ぁ…………は、はい……その、ぁ…。」


 謝られた生徒は何もいえずに、慌てるばかりで何一つ言えなかった。

 そしてアラカが去ってから、小さく拳を握りしめて……。


「…………謝るべきは、俺なのに…」


 自嘲するようにそう呟いた。


「失礼。それで、ピエタ……ですか。

 そこまで好きではありませんね」


 如月にも謝ってから、安藤に向き直りその質問に返答する。


「ピエタって?」


「……キリストが、十字架から降ろされ、たのを聖母、マリアが抱いた像。

 マリアに注目が、集まりがち……」


 如月の問いにウェルが答える。

 そしてその問いを急に投げたことに相当の警戒を示していた。


「そっちの怪異はどうにも教養があるね。

 どっかの令嬢かい」


「黙れババア。お前がウェルを語ってんじゃねーよ潰すぞ雑魚」


「ふむ…勘違いだったか。

 令嬢じゃあ無いようだね」

「今このババア何を以って判断したのかすげー気になる」


 ウェルの正体が隠せたところでババアはアラカにさらなる問いを投げた。


「では聞きたいのだが、何故嫌うのだね?」


「ピカソの〝泣く女〟と同じですよ。

 ————胸糞悪いものを嫌って何が悪い」


 吐き捨てるような言葉にババアは口角を邪悪に歪める。


「泣く女?」


「ピカソの作品、〝泣く女〟ね……

 ピカソは三股クソ野郎。泣きまくる浮気相手を絵にして〝泣く女〟とか言う作品名を付けた。

 なんか、感想ある?」


「ピカソゴミじゃん」

「平手は余裕」


 ウェルは一応、元々良いとこの令嬢であるため幾らか教養があった。

 その関連で何故か知らない単語はとりあえずウェルに聞け、と言う空気ができていた。


「ふふ、あはは。

 嗚呼、良い答えだな」


 愉快そうに笑うババアに、空気が緊張し始める。


「あはっ、はははは、ははっ。あはははは」


 笑う、嗤う、破顔う。ババアの狂笑が木造の食堂にただ馬鹿らしく響き渡る。


「————ピエタに相応しいよ。小娘」

「……………」


 意味深な言葉に緊張が最大限に高まる。

 愉快そうに笑んだまま、ババアは車椅子を進めた。


「そういえば、昨日ここで事件が起きたそうだね。

 ————犯人、わかったかい?」


 車椅子を進めて移動しながら、アラカに問いを投げる。


「……まあ、一応は」


「じゃあこの老婆に教えてくれんかね。

 殺人犯と同じ宿など不安で仕方ない」


 くくく、と笑うババアに周囲の生徒も少しだけ敵意を募らせた。


 雨が止まない、豪雨がステンドグラスを叩き八人の天使が頭上で全てを見下す。


「そうですね、そろそろ終幕にしましょう

 雨は好きだけれど、流石に40日40夜と降られたら困ってしまう」


 全ての人がババアとアラカへ視線を集中させる。


 ババアは嗤い、アラカは冷静に言葉を紡ぐ。


「姿造り……そのトレーを運んできた犯人はこの中にいる」



 そう告げてから状況を軽く説明する。


「この食堂は普段、鍵がかかっていた。

 必要な時以外は空いておらず。鍵を持っているのは中村先生と…………」



 顔を上げて、ババアを見る。


「————安藤さんの二人だけだった」


 しーーーん、と部屋が静まりかえる。

 あのあとアラカは施設のスタッフにも話しを聞いて、事件の時に鍵を持っていた人間を聞いていたのだ。


「加えて生徒が行き来しており、どこか別の箇所に集中でも行かない限りは〝誰も知らないトレー〟を出すなど不可能に近い————部外者なら、尚のこと」



 部外者ではなく、鍵を持っている人間。

 その条件に合致する人間はただ一人————中村霧先生。



「わ、わわ私じゃありませんよ!?」


「普段からここに侵入できて、トレーを用意でき、夕食時にいても不自然ではない……そんなのは一人しかいない」


「う゛ぇ゛ぇ゛ーーーー!?!?」


 そしてアラカはついに、犯人を捕らえた。


「マジかよ先生最悪だな」

「いつかやると思ってた」

「ええ、はい。この前もそこを歩いてるところを挨拶してくれて…はい、信じられないです」



「酷い裏切りを受けた……これが、裏切られたものの気持ち……闇堕ちしそう。」


 裏切られた霧。闇のオーラを纏っていた。


「姿造りを運んできたのはお前だ」


 アラカはトレーを運んだ犯人へと指を向けた。



「————■■■■(風魔沙霧)






「「「————は?」」」

読んでくださりありがとうございます…!

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