二十話、発作
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「食欲湧かねえな……」
「昨日、あんなの見たら当然だろ……」
「でも食わないとな。栄養的に」
暗い雰囲気の中、生徒が昨日の〝料理〟を思い出すように愚痴る。
空にあるステンドグラス、その先では相変わらず豪雨が鳴り響いており、更に気を滅入らせる。
そんな中、アラカとウェルと如月は共に行動をしていた。
「豪雨、か。
この勢いが続くと流石に土砂も酷そうだね」
「旧約、聖書の……創世記、かよ…はぁ…」
ウェルも息を吐く。
コイツ旧約聖書も読んでるのか、と以外な教養の高さを垣間見ながら2人は進む。
「創世記…?」
「チッ……40日40夜、の豪雨で人間、皆殺しする。
ノアの方舟でノアの子孫生き残る話……はぁ……」
ウェルが鬱々した様子で如月に説明する。
「ウェル、何故そうまでして如月さんに敵意を向けてるのかな」
「…………チッ」
そこで初めてアラカはウェルに対して指摘をした。
ウェルはここ数日、どうしようもなく如月に敵意を向けていた。もっと早い段階で聞くべきだったのだろうが、如何せんやることが多すぎた。
「過去に強烈な悪夢を、抱えずに平然と生き、てるのが不快。気持ち悪い……くそくそ……」
ポツリ、とウェルが怒りを滲ませながら呟いた。
「それは何故?」
「……不快、不快……」
「その理由を聞いてるのだよ」
アラカの圧にウェルは舌打ちをしてから、事情を呟く。
「…………ウェルはキツイのに、このカスとその他大勢は平然と……生きることのキツさを知らないまま生きてる、だから嫌い、不快」
如月だけではなく、周囲全てが嫌いで不快だと告げるウェル。
そしてアラカはそれが何かを見抜いた。
「つまりそれは何かな」
「……チッ……」
ウェルも話しながらで、ようやく自分が何を覚えていたのか分かったのだろう。
舌打ちをしながらも素直に言い始めた。
「嫉妬。不快不快……ウェルより恵まれてる、不快不快」
嫉妬、とウェルは告げてから決壊した。
「死ねば良いのに、能天気なツラして不快なんだよ気持ち悪りぃ。早く死なねーかな、死ね死ね、早く死ね。息してる暇あんなら死んどけカス。ウェルには不快な家族とオメーラの違いなんてねーんだよ死ねっ」
それはウェルが覚えてる殺意。
「はー、死ねば良いのに……」
「うん、よく言えたね。良い殺意だ」
「ふぁ……」
一瞬で蕩けるような表情を浮かべるウェルにアラカは優しい声で褒め始める。
「ああもう、可愛いな。ふふ、凄いなあ。
よしよし、よく言えました、だよ」
不可解そうに顔を歪めるウェル。
「嫉妬を覚えてしまうこと、それ自体が何一つ悪いことでは無いからね。
優れた誰かを羨んで敵意を覚えてしまうこと、それは悪いことではないし、それを何も聞かずにダメだと言う奴はウェルを見てないゴミクズだろ
————思いを抱くことを一体誰に邪魔できようか」
あるがままに殺意を覚えろと、アラカは告げてから言葉を続ける。
「ウェルの立場から見れば嫉妬なんて、しょうがないものじゃないか。
寧ろ嫉妬で抑えていて大丈夫か心配するレベルだよ」
過去を見ればなるほど、嫉妬で済んでる時点でウェルは相当抑えているのだろうとわかる。
「————ただ、その嫉妬心で罪のない誰かを傷付けるのは許せないのだがね」
その言葉でウェルは。まあ、そうかと思う。
殺意を殺意のまま〝いいね〟と言われて、少しばかり毒気が抜けたのだろう。
「……」
如月へと向き直り、頭を下げた。
「…ごめん、なの。
……嫉妬心は向けるけど、舌打ちはやめてやる、の…」
「そんな、だ、大丈夫ですよ……私も、相当馴れ馴れしかったですから…。
————素直に怒りながらもどっか上から目線で謝るウェルさん、ドチャシコやんけ……」
如月、新たなる扉を開く。
性癖:性格クソ女。
「? 如月さん、なんか言った?」
「いいえ、何にも」
ふー、と息を吐いてウェルはスッと顔を上げる。
「……?」
キョロキョロと周囲を見て、少しだけ驚いた様子をした。
「……不快感、減ったなの」
「ならよかった」
アラカは軽く伸びをして、あはは、と笑う。
「にしても僕ら、性格最悪だね……。
————ぁ」
————アラカくんは別にいいかな。あのね、■■さんってとっても頼りになるんだよ。
————……気持ち悪っ……。なんでアンタまだ生きてんの? あー、ここあんたの部屋だっけ。
————あはははは、泣いてるの? ちょっと、公共の迷惑ぐらい考えてよ、消えなさいよ。
「————別の、っ……ぁ…っ」
「菊池さん!?」
瞳からじわ、と涙が溢れる。どうして、どうして。と息が出来なくなる。
自分以外の誰かが頼りになると、■■■■■して、■■■■■■■■■■■■■。
「アラカ、ちゃん。休める場所、いこ」
「菊池さん、鼻血が出てる。ここは、厳しいでしょうから場所を変え」
ガク、と膝をつき、アラカは殺意が溢れ出る己に気付く。
周囲もざわつく、アラカの発作が現れるのは久々のことであったからだ。
「————さわ……るな……っ゛」
「「ッ!?」」
バチっ、バチッ゛…と、黒い雷が体に現れる。周囲の床が抉れるように消滅する。
「遠ざかる■■に、興味はない……今すぐ消え゛ろ゛ッ゛!」
——黒い雷が走り、二人と一部の■■■■を殺戮せんと猛り狂い。
「————おい、小娘」
寸前で弾けた。近くにいた生徒、アラカをよく痛め付けていた人間の髪の一部が消滅していた。
「……ピエタは好きか?」
読んでくださりありがとうございます…!
殺意が溢れておかしくなるかと思った。